第二章 30万の攻防戦

30話 それぞれの仕事 (1)


コンコン。


サロンティアの街並みに並んだ団地の一室でドアを叩く2人の男がいた。


「……チッ」


黒髪の青年が舌打ちをする。


バンバン!


今度はトレンチコートを着た男がドアを叩く。


「いるのはわかってんだ。早く出てこい!」


すると恐る恐るといった感じで寝癖がついた中年男性が出てきた。


「ちょっとやめてくださいよ」


黒髪の青年──久蛾災路がドアに手をかけてこじ開ける。


「いるならすぐ開けろよ」


久蛾が中に入る。


「臭えな。何してたんだよ」


トレンチコートを着た男──蚊神空木が鼻を抑えながらドアを閉める。


「べべ別に何もしてないですよ」


久蛾がゴミで溢れてる床を足で退かす。


「そんでお前、昨日返済日だったぞ。それに催促状まで出したのに無視かよ」蚊神が言った。


「だだだってお金ないですしちょっとぐらい待ってくれても」


「どうでもいいんだよ。利息の5万と遅延金の支払い元金の1割で1万合わせて6万今すぐ払え」


久蛾が溢れかえった洗い物を見たり部屋の壁にかかっている作業着を眺めながら言った。


「今は持ってないですよ」


「チッ臭えな。とりあえず財布出せよ。ねえならとりあえず金になるもん持ってくぞ」


蚊神が部屋を歩き回る。

使い古された歯ブラシと比較的新しい歯ブラシの2本。奥の部屋に入ろうとする。


「ちょ!そっちは!分かりました財布出しますから」


男は作業着のポケットから財布を取り出し1万G紙幣を三枚取り出す。


久蛾が受け取り男を睨む。


「足りねえよ後3万」


蚊神が奥の部屋に入る。


「だからそっちは!」


蚊神を止めようとする男の肩を久蛾が掴む。


「テメェ何様だよ。金払えねえならそこで正座でもしてろよ」


久蛾が太ももを蹴ると男は声を出して座り込む。


蚊神は奥の部屋を探索する。

中は居間と違って中々綺麗で甘い匂いがした。


「この匂い香水か?」


床には長い髪の毛が一本落ちていた。

蚊神はクローゼットの扉を思いっきり開ける。


「キャっ!」


クローゼットの下の段に化粧が派手な女が隠れていた。


「お前何してんの?誰?」


派手な女は猫のように鋭い眼光をしていた。


「わ、私は関係ない」


「俺の質問の全てに答えられてねえぞ。とりあえず誰だよ」


「……」女は黙ったまま下を向く。


「久蛾さんこっちに女がいました!」


蚊神が居間に向かって少し大きな声を出す。


「こっちに連れて来い」


居間から声が返ってくる。


「じゃあそっから出て」


「だから私は関係ないって!」


蚊神はため息を吐く。


「関係あるかないかはこっちが決めるから黙って出てこいよ──無理矢理出すよ?」


蚊神はケバイ女と居間に戻る。


「この女だれ?」


蚊神が中年の男に聞く。


「………」黙ったまま下を向く。


久蛾は台所の引き出しを開けて料理用のハサミを取り出す。

そのままそのハサミを開いたまま耳に挟み込む。


「ひ、ひぃ。な、何を」


「耳なんて無くても聞こえるしそれに髪伸ばせば隠せるからさ1個ぐらい要らないよね」


久蛾は少しずつハサミを閉じていく。


「や、やめて!!」


女が久蛾の腕を抑える。


「じゃああと1回だけ聞くわ。お前はこいつのなんだ?」


久蛾はハサミを耳に挟み込んだまま聞いた。

耳から血が出ていた。

男は震えて失禁していた。


「彼女なの!彼女!」


「こんな奴でも彼女できんの?えー信じられん」


蚊神は目を丸くする。


「まあ彼女なら都合いいわ。お前こいつの保証人な?」


久蛾がハサミを台所に投げ捨てる。


女がキョトンとする。


「ホショウ人?」


「そう。この臭えな奴がばっくれたり金払わなかったらお前から取り立てる」


「え、そんな」


「大丈夫だよ。こいつがきっちり払えば心配ないって」


蚊神が力点ポイントを発生させる。


「ニャーオ」


窃盗猫ロブキャットが現れる。


「お前この猫触って」


白い毛並みの窃盗猫ロブキャットが女の膝に乗って腹を見せる。


「え!可愛い!」


女は夢中でお腹を触る。


蚊神は奥の部屋から女の財布を見つけて3万G抜き出す。


「とりあえず今回は払えないって事で彼女さんから貰うな」


蚊神は三枚の紙幣を仰ぐよう見せつける。


「え!ダメですよ!それは!」


「それじゃあまた7日後に5万Gね──いや6日後か本当は昨日なんだし忘れたらまた1万増えるからよろしく」


久蛾と蚊神は三万Gをポケットに入れて部屋を出る。


「よし次」



少しカビが目立つ一軒家のドアを蚊神がノックする。


「はーい」中から女性の声がする。


階段を降りる足音が聞こえてドアが開く。


「あ!クガさんにカガミさん!すいませんわざわざ来ていただいて」


短く切った髪を後ろにまとめている主婦の女性が頭を下げた。


「いいんですよ奥さん。忙しいのは知ってますから」


クガが笑顔で答える。


「じゃああの玄関で待っててください」


久蛾と蚊神が玄関で待っていると二階から老婆の声が聞こえる。


「ちょっと!私のカバンどこやったの!」


二階から足音と老婆の金切り声が辺りに響く。


少しして封筒を待った主婦が降りてきた。

顔には疲れが滲み出ていた。


「はい。すいません」


久蛾は封筒を受け取ると中身を確認する。


「介護、大変そうですね」


カガミが心配そうに尋ねる。


「ええ。最近はあれがないこれがないってうるさくて自分が無くしたくせにほんっと子供と変わりませんよ!子供ならまだ可愛げがあるもののあんなシミだらけの老人なんて最悪ですよ」


主婦の愚痴は止まらなかった。


「やっぱり仕事と介護の両方やるの厳しいですからね俺達ならいつでも力になるので頼ってください」


カガミは主婦の手を優しく握って言った。


主婦は顔を少し頬を赤くしながら頷く。


「……仕事が見つかったら借金の方すぐに返しますから今は利息だけで」


「いいんですよ急がなくてゆっくりでそれにお金に困ったらまたお貸ししますから」


「はい10万確認しました。ではまた1ヶ月後に来ますので」


クガは封筒の紙幣を数え終わるとドアを開けた。


「本当にありがとうございます」


主婦はまた頭を下げた。

カガミは微笑んで自分も少しだけ頭を下げて家を後にした。


「よし次」


久蛾と蚊神は歩き出した。

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