29話 不幸の数
三軒も合わせたイルイルイ堂は13区で一番大きい薬屋となった。
イル婆の人柄もあいまって店は大繁盛していた。
そしてスシカの旦那はダニダの治療により薬の依存は多少残ったもののイルイルイ堂で働いていた。
早朝の準備時間に蚊神はイルイルイ堂を訪れた。
「イル婆ちゃんいる?」
蚊神は店内に入る。ドアにベルがついておりカランカランと音がした。
「あー!蚊神ちゃん!わざわざどうも」
イル婆は純金の指輪にブレスレットをつけて出てきた。
「今日、返済日だからね」
「そうだったわね。本当に感謝してるのよ?開店資金も増築のお金もぜーんぶ貸してもらっちゃって」
少し太ったイル婆はまるで少女のように元気だった。
「はい60万ね」
イル婆は札束を渡す。
「おうありがとね」
蚊神は60万の札束を探偵の
カランカランとベルの音が聞こえてスシカの旦那が店内に入ってきた。
「すいません。少し遅れました……あ!蚊神さん!」
「おう!元気になったな!」
旦那は急いで鞄から16万を取り出した。
「本当に迷惑をかけました。それなのに治療もしてもらってそれに職場まで紹介してくださって」
「いいってことよ」
蚊神は札束を数えながら言った。
「でも本当に1ヶ月に16万でいいんですか?だってスシカの借金と僕の治療費まで肩代わりしてもらっているのに」
蚊神は笑顔で軽く頷く。
「いいんだよ。あんたは働き者だししっかり返してるからさ」
「ほんっとにいい人ねー蚊神ちゃんは!──うちの薬はムシノスローンの従業員さんは全部タダだから!好きなだけ持っていってね!」
「ありがとうなイル婆ちゃん」
イル婆の夫のルイル爺が店内に出てきた。
ルイル爺は腹をかきながら欠伸をしていた。
「おおー。朝からご苦労さん」
ルイル爺は蚊神に手を挙げながら言った。
「まったくお爺さんは」
イル婆は少し呆れ顔だ。
「はあーこっから仕事だよ。腕も腹も痛えのにちょっと憂鬱だな」
蚊神はため息をしながら愚痴る。
「あら蚊神ちゃん!ため息はダメよ?ため息は不幸を呼んじゃうの」
「え?そうなの?」
「うちの奥さんも言ってました。ため息を吐くと不幸がくるって」
スシカの旦那はあんな事をされたのに全くスシカの事を悪く言わなかった。
「そういえばあんたの奥さんどこいったのよ?」
「それが全くわからなくて」
「蚊神ちゃんは何か知らない?」
イル婆は蚊神に尋ねた。
「まったく知らん」
蚊神は少し笑いながらとぼける。
「それじゃあそろそろ行くわ」
蚊神はイルイルイ堂を後にする。
カランカランとベルの音が鳴る。
後ろから「さ!今日も働くわよ!準備しなさい!」「はい!分かりました」と声が聞こえる。
蚊神はイル婆から貰ったたくさんの薬品を肩にかけながらイルイルイ堂を出る。
少し歩くと後ろから小さくベルの音がした。
蚊神はニヤリと笑って振り返る。
そこには寝巻き姿のルイル爺が小走りで蚊神の元に向かってきた。
「最近通ってるキャバ嬢の子がね。そろそろ落とせそうなんだよだから蚊神ちゃん追加融資さ頼めるかな?」
「もちろんいいよ。いくら?」
「プラス5万ほど……いいよね?」
「ルイルさん7日で5割ね?忘れずに」
蚊神は先ほど貰った16万から5万抜いてルイル爺に渡す。
「へへ。ありがとね蚊神ちゃん」
ルイル爺はポケットに5万をねじ込んで帰っていく。
13区 静寂の街 サロンティアは朝の陽光にさらされて温かった。
蚊神は次の集金場所に向かいながら大きな欠伸をする。
そして自分の前世のことを考える。
この三年間は久蛾を探す為そして久蛾と会ってからはムシノスローンの基盤と仕事でゆっくり考える時間もなかった。
前世では色々あった。
まあ俺的にはあんまり前世って感じはしないけど。
結局俺は前世と変わらず闇金をやってる。
蚊神は上を向いて雲ひとつない空を眺める。
だけどこれが俺には合ってる。
それに死んだ久蛾さんにもまた会えた。
奇跡だよな。こんなこと
肩に背負った薬品が入った袋を背負い直す。
「こっからだ」
また最初からこの国で金融で闇金で天下を取る。
スタートに戻ったけどスタートに戻れた事がこんなに嬉しいなんてな。
陽の光が蚊神の身体を温かく照らす。
他の店も準備を始めている。
泥沼に入った者は抜け出せない。
だから泥沼に入る前に気づいて事前に対処するかそこから逃げ出すか。その二択しかない。
蚊神は痛む腕を伸ばしながらサロンティアの街を歩いた。
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