21話 イラーマリン騎士団
21区 イラーマリン騎士団本部 医務室───
冷たい鉄の板に薄い白い布が被せてあるだけのベットで蚊神は治療を受けていた。
「痛え!」
「ほら!動かないの!」
黒髪ボブヘアーの女医が蚊神の腕に包帯を巻く。
「背中も腹部もボロボロだよ?何してたの?」
蚊神はベットの上に寝転んだ。
「転んだだけだよ」
女医はため息を吐く。
「器物破損と21区違法侵入の2つよ?」
「えー俺捕まる?」
女医は棚から薬品を取り出し錠剤を手に取る。
その時、棚の下の段をチラリと見た。
「どうだろう。検問官の話だとあなた追われてたみたいだしあのスキンヘッドの人に巻き込まれただけなら捕まらないんじゃない?──はい。これ飲んで」
「ありがと」
蚊神は錠剤を口に含んで飲み込む。
「……ねえ」
女医はもじもじし始める。
「なに?」
蚊神は腕を枕にしようとしたが痛みが走りやめる。
「イテッなんか枕ない?」
「え?あ、ちょっと待ってね」
女医は急いで医務室を出る。
その隙に蚊神は起き上がり棚の下の段を開ける。
そこには飲みかけの酒瓶が置いてあった。
その酒瓶を手に取り近くにあったビーカーに入れる。
「ごめんね。無かったからこれ私の上着丸めて……」
「ここなんか怪しいと思ったら酒が入ってたとはねぇー」
蚊神はビーカーに入った酒を飲みながら下の段を指差す。
「ちょ…ダメダメ私の唯一の楽しみなんだから!隠して隠して!」
女医は蚊神が待ってた酒瓶を奪って下の段に隠す。
「ごめんごめん。そう言えば何か言いたい事あったんじゃないの?」
「あーあの留置所は寒いから両腕の怪我と腹部の外傷が激しいからね?ここで一晩過ごせるようにしましょうか?」
「んーどっちでもいいや」
女医は白衣で手汗を拭く。
「ほら私も今日ここで泊まろうかなーなんて思ったり思わなかったり」
蚊神は貰った上着を返す。
「どうやって?ベットは一つだけだよ?」
「……あ、そうか」
太った騎士団員が医務室の扉を荒々しく開ける。
「蚊神空木!治療は済んだだろ。早く留置所に戻れ!」
蚊神はビーカーに入った液体を飲み干す。
またベットに寝転ぶ。
「おい!何飲んだんだ」
「薬」
「……ほら早くいくぞ」
太った騎士団員は蚊神の腕を掴む。
「痛い!」
「ちょっちょっと待ってください。まだ治療中です!」
女医が蚊神の腕を掴んだ手を掴む。
「チッ早くしろ!尋問しなきゃいけねえからよ!」
太った騎士団員は背中を掻きながら医務室を後にする。
「名前は?」
「セイレン・カイコ」
「ありがとう。セイレン」
蚊神は欠伸をする。
また思いっきり扉が開かれる。
今度は神経質そうな男が入って来る。
「ダールが吐いた。あんたは無罪だ──それにお仲間がきてるぞ」
蚊神は起き上がる。
「じゃあもう出れるな」
「おう空木。早く帰るぞ」
セイレンと蚊神と神経質そうな男が一斉に振り返る。
久蛾が神経質そうな男の後ろに立っていた。
「お前!どっから入ってきた!」
「うるさいタマル」
神経質そうな男──タマルが目を見開く。
「何で名前を」
久蛾が名札を振る。
「え?それ──何でそれ待ってる?」
タマルがポケットを探る。
蚊神が立ち上がってビーカーをセイレンに返す。
「ありがとうございます──セイレンまたな」
「バイバイ」
セイレンが悲しそうに手を振る。
久蛾はタマルに名札を投げ返す。
「あっ」
タマルは名札を落とす。
「待て!お前、不法侵入だぞ」
蚊神が鉄のベットから白い布を剥がして久蛾に投げ渡す。
「セイレンあっち向いてて」
蚊神はそっぽを向かせる。
久蛾はタマルに白い布を被せる。
「おい!ちょっと!」
久蛾は蚊神の肩を掴む。
"
その瞬間、蚊神と久蛾はイラーマリン騎士団本部の前にいた。
馬車が待っていて二頭の馬が荒々しく鼻で息を吐いた。
「何であんな事したんすか?」
「遅すぎたから」
久蛾は口元に笑みを浮かべる。
イラーマリン騎士団本部 医務室───
タマルは自分の頭にかかった白い布を荒々しく取る。
「何するん……あれ?」
セイレンも突然いなくなった事に驚く。
「消えちゃいましたね」
セイレンは蚊神の事を思って少し頬を赤らめた。
「かっこよかったなー」
セイレンはほんの小さい声でボソリと言った。
「今なんて?──それにそのビーカー。アルコール臭いぞ。酒か?」
「え?違いますよ!」
セイレンはビーカーを隠した。
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