11話 ラブ&ピース


薬屋 Susika の居間で彼女は爪をかじりながら、返済する方法を考えていた。


15万の保護金は入金できる。

……自分で店を開くと保護金に売上の20%が上乗せされるなんて知らなかった。

本当は5万でいい保護金が10万も増えるなんて……


「クソッ!」


居間には薬の原材料である植物の実や葉、昆虫の足などが袋に入って散乱していた。


そしてあぐらをかいているスシカの前には2枚の手紙が開かれて置かれていた。


保護金 〜入金場所変更のお知らせ〜


あの豚の言いなりのロモースとかいう骨女!

今月から世界銀行ワールドバンクに入金しろとか!ありえない!私がそんな事したら銀行狩りに奪われるに決まってる!


「クソックソッ!」


スシカは立ち上がり机に向かって手紙を書き始めた。


宛名は入金代行人だった。


こいつらに任せたくなかった。お金もかかるしそれに世界銀行ワールドバンクに金を入れるだけなのに!あーもう金!金!金!どこに行っても金よ!



スシカは手紙を封筒に入れ窓についている止まり木にいる一羽の伝書鳩に手紙をくくりつけて飛ばした。



ここの家賃7万それに材料費もかかるし生活費も……


「俺は空が飛べるんだ!それもみんな知ってるし俺も知ってる」


二階から声が聞こえる。

スシカは舌打ちしながら居間から出る。


居間の扉を開けるとすぐに店内になっていて外の景色も見える。

店内はがらんとしていて客は誰もいなかった。


外にある棚を見ると塗り薬が入っている瓶の数が減っている。


スシカの頭に血がのぼる。


「クソッ!盗られた!」


急いで棚をしまう為に外に出る。

スシカは騒がしい外の気配に気づいて隣を見る。


"イルイルイ堂"と書かれている大きな看板が目立つ新しくできた店なのに家の古さと経営している老夫婦が老舗感を醸し出していた。


老婆のイルと老爺のルイルが店の前に出て子供にお菓子をあげていた。店の中は母親がお菓子をもらっている子供を笑顔でチラチラ見ながら薬を買っていた。


「もういい!もういい!」


外に出している棚を勢いよく店内にしまう。

揺れて瓶が倒れて落っこちた物もあったがスシカは気にせずに居間に戻る。


外と店内の境にある木のシャッターを思いっきり閉める。大きな音が外に響く。


一枚の手紙を手に取り二階に上がる。


スシカは「もういい、もういい」とぶつぶつと独り言も呟いていた。


二階には部屋が三つあった。

薬物中毒の自分の夫を閉じ込める部屋、自分の部屋そして……


スシカはそのどちらでもない三つ目の部屋の扉を開ける。


その部屋には5本の植物が花壇の中で育っていた。


その植物の名前は"ラブ"

ラブは秋に硬い実を三つから五つなる。

その実は熟すと大きさに枝が耐えれなくなってコツンという音と共に落ちる。


その熟した実を砕いて加工すると"ピース"という薬になる。



部屋の床には熟して落ちた実が悲しげに落ちていた。


それを見てスシカはニヤリと笑う。


「もういい。もういい。やめようと思ってたけどいいんだこれで」


スシカが握っていた手紙の差出人は22区から届いていた。


エルヴィスの換金所 薬部門担当 ワイヤー


売り

錠剤 1錠 5000

粉 10g 1000


買い

ラブ 1本 150000

配達人 50000


締切 12/5 pm 0:00 まで


部屋に立てかけてあるカレンダーを見る。

11月15日だった。


床に落ちている実をスシカはしゃがんで集める。

18個だった。


「あーー少ない。これじゃあえーと1つで1.5錠作れるからえーーと27錠か。それで1錠、5000ゴールドだから13万5000か」


スシカはポケットに入ってたペンを取り出してカレンダーの端っこに計算した。


「ダメだ配達人が5万もかかるから8万5000ゴールドの儲けか。あーダメだ入金代行人にも払わなきゃいけないし!もう!」


一階から羽の音が聞こえる。

一階に戻り戻ってきた伝書鳩を見ると自分がくくりつけた封筒がそのままになっていた。

一瞬、不安になったが封筒の中身は全く違う紙であった。


紙には4万とだけ書かれていた。


「4万……残りは4万5000ゴールド。家賃も払えない…あークソッ!あのローモスのクソ女!あいつがあんな事言わなかったら払えたのに!それに……」


11月15日 ムシノスローンの返済日まであと4日。


「10万なんて返せない──それなら私が22区まだ行けば5万はチャラよね。ピースを持ちながら歩くのは怖いけど…5万は痛すぎる」


スシカはすり鉢や器具を両手に持ちながら二階に上がる。


「空も飛べるはず〜」

「うるさい!!」


ラブの実をすりつぶしてピースを作り始めた。


「9万5000ゴールドだったら家賃は払えるわ。店の売り上げもあるから生活費も平気。だけどムシノスローンの10万はとてもじゃないけど返せない」


スシカはすり潰した実に自身の力点ポイントを入れながら考えた。


「あ!」


スシカはまた一階に戻り机に置いてあったムシノスローンのチラシを見る。


そこには「利息が払えない場合は入金日に事務所にご相談ください」と書いてあった。


「これよ!夫のことを話して同情してもらえれば先延ばしにできるかも」


スシカはほっと息をついて今度はゆっくりと2階にあがった。


12月1日に家賃でしょ。その前に作って22区まで行かないといけないわね。


「空も飛べるはず〜」


スシカは無意識に口ずさんだ。



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