10話 ゴキブリ


16区 イエローアデラン────


スカルガーデンで1番大きな病院がありリッチガーデンに行けない住民達は町医者で対処不可能な病や怪我をした場合、16区にあるイエローアデラン総合病院に紹介状を書いてもらい出向く事がほとんどだ。


しかしイエローアデラン総合病院は健全な住民しか受け付けないのでマフィアや薬の売人または……喧嘩請負人なんていう怪しい商売をしている者達は仮に招待状があったとしても診察すらせずに門前払いしていた。


ではそんな悪に染まった人達は何処で治療を受けるのか?


人を救う人間が全員、善人とは限らない。

時には悪に染まり切ってる人間も少なくはない。


そんな悪党どもを助ける者達を"闇医者"と呼ぶ。


そんな闇医者が経営する最大の病院それが"コックローチ医療相談所"である。


領主による商業調査をスルーする為に表向きは病気や怪我をした時に自宅でどんな対処をしたらいいのか。


またぼったくられないように自身の病や怪我に対しての医療費の正規の値段を出したり、薬屋、病院の紹介状を書いたりする。


まさに病院と住民との仲介人のような役割をしている所である。


しかし表向きはの話だ。


イエローアデラン総合病院が光だとすればコックローチ医療相談所は闇だ。しかも光すら霞むほどの深淵だ。


コックローチ医療相談所ははたから見れば少しだけ大きくそこそこの売り上げを出している古そうな建物だ。


しかしそれは地上での話。

地下はまるで違う。


大きさはイエローアデラン総合病院と同じぐらいの深さと広さを持つ悪人を治療する悪人の病院なのだ。


そんなコックローチ医療相談所の地下 霊安室で1人の男が拳を握り締めて白い布を被せられている遺体を見ていた。


「あのーはい。あのもう燃やしていいですか?」


男は充血した目で振り向く。


血で汚れた白衣に度が強い眼鏡をかけているせいで目が大きく見える。長髪なのに真ん中だけ綺麗にはげている男が指を触りながら立っていた。


「こいつは俺の弟だ!次そんな事言ったら殺すぞ!」


男は白衣の男の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

背は低いのですぐに持ち上げられた。


「あのーですね。はい。ダール・ドッコイさん。あのー弟さんのヅール・ドッコイさんはあのー死んでますから。はい。ですからあのーはい。遺体を持ち帰るなら袋用意するので自分で入れてください。嫌なら燃やしますから。はい」


白衣の男はポケットからクシャクシャの大きい黒い袋を取り出した。


ダール・ドッコイはスキンヘッドの頭を真っ赤にさせながら白衣の男を離した。


怒りで鼻血が出て包帯に赤いシミを作った。


「おいダニダ先生よ。死因はなんだよ死因は!」


ダニダは度が高い眼鏡を元の位置に戻した。


「あのー出血多量ですね。はい。脇腹と首。あのーそうですね。首を何かの刃物のような物で切られてるのでそっちが大きいか。首切られたのが大きい原因ですね。はい」


「刃物で切られたんだな?」


「知りませんよ。そんなこと。はい。だってあのー能力で何か召喚したかも知らないですし。はい。そこまで知りたいならここじゃ無理ですね。はい。あのー探偵か情報屋とかに教えてもらってください。はい」


ダニダは黒い袋をダールに渡した。


「あのー大体どのぐらいで入れられます?5分ぐらいを目安にですね。はい。死体を入れて欲しいんですよ」


ダールは怒りで頭がおかしくなりそうだったが今、ここで感情に任せてダニダを殺してしまったらそれは自分の死を意味する事だと知っているので思いっきり拳を握り締めた。手から血が流れた。


「いや燃やしてくれ。こいつを入れる墓も袋に入れて家まで運ぶ金もない。ここの医療費で貯金はほとんど空だしな」


「あのーはい。じゃあ出てください。ここの死体をですね。はい。しまう所にですね。あのー入れてボタン押せば燃えるので。はい。」


「なあ先生。一つだけお願いがあるんだがこいつの骨だけ。遺骨だけ俺にくれねえか?」


するとダニダは突然、笑い出した。


「何言ってんですか?あのーですね。薬やってましたね弟さん」


「確かに弟は※ピースをやってた。だからなんだよ!関係ねえだろ!」


※ピースとは


特殊な植物からなる実を加工し粉状、錠剤に加工した物。

依存性や致死性が高く幻覚作用や精神錯乱を引き起こす可能性がありイマーゴ共和国では法律で原則として禁止、規制されている。


ダニダは手を叩きながら笑う。


「こーーんなにムキムキでもね!あのーですね!骨はボロッボロのボロ!はい!燃やしたら粉ですよ粉。はい。それこそピースみたいにね」


「粉でもいいからくれよ──それと」


ダールはダニダを壁際まで追い込み壁を思いっきり叩いた。


あたりに激しい音が響く。


「言ったよな?次そんなこと言ったら殺すって」


ダニダはダールに目の前に手を出した。


「あのー燃やすなら袋はいらないですよね。返してください。はい。粉にするからそんなに大きな袋いらないですよね?」


ダールは身体全体が震えたが復讐の為だけに歯を食いしばり壁を何度も叩きながらダニダを殺す事を耐えた。



「ありゃしたー」とコックローチ医療相談所から出たダールに受付の男が言った。


ダールはポケットから小さな袋を取り出す。

そこには骨粉が入っていた。


それを胸に抱き寄せる。


待ってろよ。必ず!必ず仇は取ってやる!


そしてもう一個のポケットからチラシを取り出す。


ムシノスローンと大きく書かれた。ポップな物だった。


……まずは、金。それに武器。


ダールは鼻の治療の為に入院していた時に隣のベットで足を切断した男からある話を聞いた。


「なああんた知ってるかい?近頃、剣やら槍やら色んな武器に能力がついてる物を売ってる商人がいるらしいよ?」


「そんなもんあんのか?」


「あるさあるさ。俺も買ったんだ。使い方わかんなくて足きっちまったけどな」


ダールは男に居場所を聞いた。


「22区のエルヴィスの換金所の近くで俺は買ったな」


「……闇市場ブラックマーケットか──名前は?」


「情報料は?」


ダールは近くにあった果物ナイフを手に取り男の足に近づけた。


「テメェの足だ」


「わかった!わかった!教えるよ!」


男は慌てて片っぽのない足を揺らした。


「名前は"ヴェニス"」




ダールは片足の男の話を思い出し22区に向けて歩き始めた。


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