9話 虫の巣 


スシカがムシノスローンの扉を開けるとピンクの髪をした美しい女性が立っていた。


ネームプレートにはアゲハと書いてあったのでそれが名前だと分かる。


アゲハは微笑みながら

「ご融資の相談でしょうか?」と言った。


スシカはご融資という言葉に聞き慣れなさを感じながらも一応、頷いた。


アゲハは右手を通路の方に向けた。


「ではこちらにお進みください」


ムシノスローンの事務所は綺麗だった。

スシカは二度だけ行った領主の館を思い出した。


趣味の悪い物は何もないけど面白みもない所ね。


スシカがキョロキョロとしているとカガミの声が聞こえてきた。


「来てくれたんですね」


声のする方に目を向けると少し離れた所に青年が座っていてそしてその横にある空間からカガミが小さく手を振っていた。


スシカはカガミを見ると安心から笑顔になり黒髪の青年が座っている所まで向かった。


「今日はご融資の相談ですか?」


真顔のまま青年は言った。


その顔にスシカは少しムッとした。


何よ!この愛想のないガキは!


「スシカさんそうですよね?」


いまだにご融資の意味はあまり理解していなかったが一応、頷いておく。


「はい。ご融資ってお金を貰えることですか?」


「違いますよ。スシカさんお金を貸すんです」


「でもそのお金は半分だけ返せばいいんですよね?」


「利息の話は昨日しましたよね?言った通りです──まあ座って話しましょうよ」


カガミは貼り付けた笑顔のまま目の前にあるソファをすすめた。


スシカの向かい側にカガミが座り青年は相変わらず椅子に座ったままスシカの方をじっと見ていた。


「それでいくらご融資して欲しいんですか?」


「えーととりあえず保護金の15万ほど」


「そうすると今回は手数料と金利を引かせていただいて10万と言うことですね。7日後に7万5000ゴールドの返済義務が発生します」


「え?待ってくださいよ。15万欲しいのに何で10万しか貰えないんですか?」


青年は立ち上がりスシカに近寄った。


「挨拶が遅れました。クガと申します──今すぐに15万欲しいのであれば20万ほどご融資させてください。そうすれば金利や手数料を引いて15万お貸しする事ができますよ?」


クガも笑顔でスシカに言った。


スシカはその笑顔を見てこの会社はいい人が集まってると思った。そしてその代わりに馬鹿な奴らだとも思った。


そしたら7万5000ゴールド払うだけでで15万貰えるんだから損しかないじゃない。

こんな学生みたいなのが経営してるんじゃしょうがないわね。

まあ私はラッキーだと思えばいいか。


「わかりました。じゃあ早くください」


するとクガは自分の机の引き出しから1枚の紙を取り出した。


「一応これにサインと自身の力点ポイントを入れてください」


クガはペンを渡しながら言った。


スシカは小難しい事が書かれた借用書を手に持った。


「これなんですか?」


「別に大したもんじゃないですよ。形式的な物です。早く記入しちゃいましょう」


カガミが急かす。


「わ、わかりました」


スシカは自分の名前と力点ポイントをそれに入れた。


「これって"言霊使い"の職業の人が作った物ですか?」


「ええ。それじゃないと意味ないですから」


カガミはその紙を受け取りながら笑顔で答えた。


クガは引き出しから1万ゴールドの紙幣を15枚取り出してスシカに渡した。


「返済は7日後で10万です。遅れると遅延金がかかりますので気をつけてくださいね」


「え?10万?7万5000でしょ?」


すると今まで笑顔だったクガとカガミの顔が一瞬で表情が消える。


「20万借りたんだよ?書いてもらった借用書にもあったけどうちは7日で5割のシチゴ──10万の利息が発生してるわけそれを7日後に返して言ってるだけ」


クガがため息を吐きながら言った。


「昨日も説明したけどとりあえず7日後に利息の10万返してもらえればいいから」


「でも私、15万しか貰ってませんよ?」


スシカは訳がわからなかった。

なぜ7万5000でいいはずだったのに10万に膨れ上がっているのか。


「それは金利と手数料の関係ですよ。こっちも商売ですから金にならないと潰れちゃいますよ」


カガミが小さい子に優しく教えるように言った。


「とにかく7日後に10万。この借用書は言霊使いの能力で生成してるから踏み倒す事は出来ないよ?分かってるよね?」


クガは睨みつけるようにスシカを見つめながら念を押した。


スシカはなぜか自分よりも下の青年に少しだけ恐怖を感じた。初めて見た時には感じなかった感触だった。


「分かったわよ!10万ね10万!全く話が違うったらないわよ」


自分が恐れているのを悟られないように早歩きでムシノスローンを後にした。




スシカが出て行った後、蚊神は窓から肩を揺らしながら歩くスシカを見ながら悪魔のように微笑んでいた。


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