56.人類昇華計画
●
その日、人々は目覚めの時を迎えようとしていた。
システムは完成した。衛星軌道上に置かれたアダマスの器により、量子的共鳴が起きたのだ。
ウイルスに感染した人々の意識は統合され、大いなる認知へと至る。
それを、〈第二次大覚醒〉と呼んだ。
導師は満足げに微笑むのだった。
●
「十字架といえば何を連想するか」――質問された稲村九霧は首を傾げた。十字架といえば、宗教的意匠、キリスト教のそれではないのか……。答えは間違っていないはずだった。
彼女に質問をぶつけたのは白衣の青年、
「確かにそうではある。もしくは――かのイエス・キリストが磔刑(たつけい)に処せられた時の刑具という印象が強いよね。キリスト教の宗教的意匠がそこから来ているのは間違いない。でも、我が国日本でも磔刑に処するときのそれは十字架だった。人間を拘束するのにちょうどいいからだ……」
「何が言いたいのだ?」
「まぁ、こんなことを言うと
「鍵十字というのもあったしな」
「ハーケンクロイツだね。これはお寺を意味する地図記号の卍と混同されるから、色々とややこしい歴史があったとかないとか」
そういって君由は手元の卓を操作する。
眼前のスクリーンに映し出されたのは、天空から吊り下げられた漆黒の十字架だった。天満美影がアダマスの器と融合して生まれた〈第二次大覚醒〉の爆心地でもある……。
「巡礼者たるかれらが目指すのはあの中枢だ。あそこに美影くんがいる」
あらためてみても異様な光景だ、と稲村は思った。
何しろ成層圏から地上まで届くほどの十字架なのだ。ほぼ柱と言ってもいいその証拠に〈教団〉側では〈御神柱〉と命名し、その掌握をもくろんでいるという。
〈御神柱〉とはいわば人類昇華計画の
可詞化能力とはそこへアクセスするための手段に過ぎない。
もし、誰かが美影を掌握したならば、集合無意識で繋がっている人類の大半は、間接的に支配されてしまうであろう……。そう、君由は述べるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます