第四章 アダマスの器

36.十二支族の乙女

 十二支族の乙女が高橋たかはしの周りを取り囲んでいた。

 あれ、と思う。よくよく見ればみな見知った顔だ。

 撮影のたびに使い捨ててきたAV女優たちだ。ええ……若い子もいますし、とうがたっているのももちろんいます。


 乙女というのは便宜上の呼び名に過ぎません。

 乙女とは、形成された教団内での役割そのものなのだから。


 なお、十二支族というのは『旧約聖書』におけるヤコブの、十二人の息子たちから連なる支族のことだった。

 それぞれの名を「ルベン」「シメオン」「レビ」「ユダ」「ダン」「ナフタリ」「ガド」「アシェル」「イサカル」「ゼブルン」「ヨセフ」「ベニヤミン」という。


 これら十二人の子孫が増え、それぞれがイスラエルという国の支族となった。

 さしたる意味はないのだが、乙女たちにはそれぞれの名が与えられている。洗礼名とでもいうのだろうか。


 うち一人が前に進み出た。ナフタリだ。

 着衣をすべて脱ぎ捨て、高橋の前に裸身をさらけ出す。

 その意図は分からない。だが、その股間にあるものといえば、隆起した男根そのものではあるまいか。


「ナフタリだけにふたなりってわけですわ!」


 大笑いしているのはナベさんだ。

 外科手術で腹の中に子宮口を埋め込んだ、いわば改造人間だ。


「高橋はん、知ってまっか。男の身体にもね、子供を作り宿すだけのスペースがありますのや。タックなんて聞きますでしょ。女装癖の人が自分のキンタマを体内にしまってしまうアレですわ。その隙間に人工子宮の形をしたオナホール埋め込む手術を施してますのや。なので攻めでも受けでもどちらでもいけます。男の身体にもね、それだけの余裕があるのが生物の不思議ですなあ……」

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