33.最終適性検査

 最終的な適性検査はほどなくしてやってきた。

 最大の試練とも言うべき、平衡機能検査である。正式名称を、コリオリ加速度検査という。


 稲村は、「ふふん、回転イスか。遊園地だな」などとたかをくくっている。だが、そんなに甘いものではなかった。


 まず、眼振がんしんの検査だ。

 これは意思とは関係なく眼球が動く現象の検査であり、続くエアーカロリック検査はこれまた気持ちの悪いものだった。


「耳に温風と冷風を交互に吹きかける……?」


 皆の疑問は当然だった。

 これは強制的にめまいを誘発させるもので、かつての宇宙開発黎明期には、温水や冷水を内耳に注入して行ったらしい。なんとも人体実験とは縁が切れない世界ですわね――ゲシュヴィッツの言うことは至極まっとうだった。


 そして回転椅子へとなだれ込む。

 美影が想像していたのと違い、実際はごくゆっくりとした回転だ。「なんだか地味ですわね」とゲシュヴィッツ。「対Gテストと勘違いしていたかな?」と稲村がそれぞれつぶやいた。



 そして――



「……」

「二時間もこれをやられるとは思いませんでしたわ……」


 目が回ったのは三人とも同じようで、それなりに吐き気を催してもいる。船酔いでも酷かった稲村がもっとも症状が重い。真っ青な顔をして診療台の上で横になっていた。


 果たして、彼女らに課せられた検査とは、実際に飛行士候補生が受けるカリキュラムの数十分の一であったと言って差し支えないだろう。

 本当に宇宙へ行くためだけに必要な基礎体力、身体機能の検査に留まっていたと言っていい。そんなにまでして焦らずとも、とは美影の考えだったが、察するにどうやら〈軌道地鎮祭〉の日は刻々と近づいているらしかった。

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