29.形象崩壊
と、次の瞬間、肉壁全体がけたたましく脈打ち、まるで牢獄自体が生き物のように活動を始めた。身体がほてるように熱い。両の目がパンパンに腫れあがっているのも分かる。神経や血管に多大な負荷がかかっているようで、耐えがたいほどの頭痛が彼女を襲った。声にならない苦悶を上げる。
「被験体――脈拍、体温、心拍数急上昇。脳波も激しく乱れています」
「生体炉内部に高圧力。このままでは……」
「やむをえん、実験中断。
さまざまな喧騒が彼女の耳に飛び込んでくる。
神子? 誰のことだろう。
全身が燃えるように熱く、身体の内側からすべてが破裂するように、内部のものが噴き出してくるのが分かった。
口から内臓が飛び出るのが分かる。
直腸に差し込まれていた排泄用の管が吹き飛び、汚物や血液とともに、細かく襞のよった大腸が吹きだした。
その様子はまるで人に尻尾が生えているかのようであり、どこか滑稽だ。瞬時に背中も裂け、背骨、ひいては骨髄がにゅるんと露出した。
もう痛みは感じなかった。
自分の肉体が内側から裏返ってゆく、そんな不快感だけがあった。
彼女の全身は風船のように膨らみ……ほどなくして破裂すると、肉の牢獄の中に桃色の汚液となってありとあらゆる身体の組織をぶちまけた。
「被験体、形象崩壊。生体炉の停止を確認」
「こいつもダメだったか……」
実験の主任を務める信徒は、やれやれといった表情で別室の監視用モニタに映し出された惨状を見つめていた。隣ではオペレーターの女性が吐き気をこらえ、
「実験失敗。内容物の除去だ、急げよ」
部下に命じると、信徒はモニタを別視点に切り替え、現在起動実験中のそれをあらめて見つめた。
それは、全長五〇メートル以上はある、巨大な生物の骨格――を模した、機械部品の塊だった。
パッと見は、世界の伝説や神話にある巨人のそれに似ている。
わきわきとした、肋骨であろう金属パーツの飛び出た胴体からは、上方に向かって頸椎を形成するフレームが伸び、その先に頭部と思しき金属の頭蓋と顔面構造体が取り付けられている。天井からは幾本もの鎖でもってつるされた、二足双椀の機械だ。投げ出された脚部はすらっと長く、骨格だけでもたくましく見えた。
今はだらしなく実験槽の床にへたり込む、この金属の集合体からなる怪物の、その首の根元には
●
「これも、我々が次の階梯へと進むための実験、なのですか」
「そうだ」――と導師は言葉少なに答えた気がする。
〈教団〉は、グノーシアは何をしようとしていたのだろう。あのとき視覚や感覚を共有していた「彼女」はなにを想ってあのような残酷な実験に志願したのだろう。なにより、導師の言った舟、神の器とは何なのか。
全ては同じところに収斂するような気がしている。
それは宇宙だ。美影が目指そうとしているこの意志それ自体も、ひょっとしたら導かれ、そうするよう仕向けられているのかもしれない。
大いなる父、導師と呼ばれていた彼は何者だったのか……。
いずれにせよ、〈教団〉にあった「あれ」の記憶が蘇り、美影のなかでは再び
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