24.内視鏡検査

 内視鏡検査は苦痛を伴った。まずは大腸である。

 ひやりとした感触が直腸内に侵入してくる。これが内視鏡かな、と美影みかげはなぜか冷静だった。


 正しくはS字結腸鏡という医療器具のひとつだ。

 直腸から直接繋がる大腸部分を調べるための器具であった。

 下腹部のけるような痛みが断続的に襲ってくる。腸内壁を無理矢理かき回される事で生じる、内臓の痛みだった。


 声を上げそうになるのを必死でこらえる。

 施術を行っているのはC・Fだ。涼しげな顔をして内視鏡が映し出す内壁の様子をじっくりと観察している……。


「綺麗なピンク色ね。健康な大腸だわ」


 そういう彼女の口ぶりはどこか楽しげだった。やはりサドッ気があるのかもしれない。


 美影はというと、強い便意に苛まれている。もちろん腸の内容物は全て排出してしまった後なので、醜態をさらすことはない。

 ただ、内臓をかきわまされるたびに骨盤神経が痛んだ。腹圧が高まるのも感じる。ひょっとしたら、出産の痛みとはこういうものの延長線上にあるのかもしれない。そんなことを考えて気を紛らわせるしかなかった。


 下半身の穴が終わると、次は上部消化管内視鏡検査――胃カメラだった。

 こちらも内視鏡。もちろん新しいものが使われる。

 喉の通過をよくするための麻酔薬でうがいをする。気休め程度だから、入れるときはある程度覚悟してね、とはC・Fの言葉だった。


 若いみそらで胃カメラとは……と思う。

 これは稲村もゲシュヴィッツ伯爵令嬢も初めての体験だったようで、隣室からは稲村の嘔吐えずく音が聞こえてきた。恐怖感が増す。


 大腸検査もだが、これらは意識のある状態で行われる。どうみても通りはしないだろうという太いゴムの管の先端にカメラが取り付けられており、食堂と胃を通過して小腸の入り口まで行くのだという。実際過酷なものだった。


 若い方が、嚥下反射えんかはんしや咽頭いんとう反射が強いから……とC・Fが告げる。

 当然である。二度と受けたくない、そう思った。


 全ての検査が終わったときには、三人の少女たちはくたくたになっていた。

 あの傲岸不遜な稲村九霧ですらそうなのだから、十代の少女である美影たちは心身ともに疲れ果てている。何とも言えない結束感が生まれているのも感じた。


 これを、「身体中の穴という穴を調べられた仲間だから『穴束力けつそくりよく』だ」と称した飛行士も過去にはいたらしいが、悪いジョークだと美影は思った。

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