22.煩悩を極めよ
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大宇宙に閃光が走った。
巨大な飛行装置を背負った機体が衛星軌道上をかけ抜けてゆく。
目指しているのは、同じく軌道上を
何が収められているのかは分からない。
ただ、
眼下に見えるのは赤く染まった地球である。海も大地も真紅に姿を変えた、かつての水の惑星としての面影はなく、今や滅亡寸前だった。
〈教団〉によるハルマゲドンが起こったのだ。
それが神に至る経路と信じて疑わなかった信徒たちによって、その大災害は引き起こされたという。物理的な被害だけではなく、精神的な汚染や変異をも内包し、〈聖神汚染疫〉と呼ばれるそれはいまもなお、じわじわと世界中に広がっている。
と、次の瞬間――福音が柩にとりつくことに成功する。間髪を入れず発動する敵のトラップ。こうなることを信徒たちは予想していたのだろう――そう、十字架型の棺とは教団が放った餌に他ならなかった。
……。
●
「やぁ、高橋はん。また『
やってきたのはナベさんだった。「現実の世界でも、なんやハルマゲドンが起きる言うてはる団体がおりますなあ……」――その話は本当だった。山梨県は
「なんとなくビデオの世界と似てきましてん」――ナベさんはそう言って豪快に笑うのだった。
「もし……」
「うん?」
「もし、現実にそのようなことになったとしたらさぁ、ハルマゲドンによる世界最期の日が来るとしたらば、ナベさん。アンタは何をして過ごす?」
「これはまた、SFな質問ですなあ。個人的終末論ってやつですかな? そうですなあ。最後に食いたいもん、腹一杯食うて、好きな女を片っ端から抱いて……ですかなぁ。憎いやつに
ナベさんはよく分からない回答をしながらも、おのれの高説に痛く感激したのか腕を組んだまま何度も頷いている。
そう、確かに煩悩からの解放はかの教団も声高に叫んでいる現実がある。なんだっけ、アセンションだかなんだか。飛行機内で聞くやつ……いやいや、それはアテンション・プリーズだな。
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