20.身体検査の頂点
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医学検査は苛烈を極めた。
内科、外科、眼科、耳鼻咽喉科、歯科、婦人科……。
男性候補生であれば泌尿器科が入るという。
二日ほどかけて行われる各診察の後に、血液検査、感染症検査、生化学検査と進んでゆく。各部X線やMRIを使用したレントゲン系の検査や、心電図に脳波などといった機能系検査などが続いていった。
そこで再会したのが、あのフライトサージャンであるC・Fだった。
「お久しぶりですね、天満美影さん」
「ああ、先生……」
「C・Fで結構ですと言ったのに。まぁ、いいでしょう。気持ちは決まったようですね」
緊張した面持ちで頷く美影。一方のC・Fは妙にテンションが高かった。未来の宇宙医学に携われるからだろうか。あるいは――
(あるいは、検査することが楽しみなのか)
C・Fの目は妖しく光っている。ちょっと寒気を覚えた。
思えば、これから内視鏡検査が待っているのだ。あれは辛いと聞く。
ひょっとすると施術を担当するのがC・Fなのかもしれない。どこかサディスティックな雰囲気を漂わせているのが、美影にははっきりと視えるのだった。
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「これ、飲むんですか?」
施設へやって来て四日目の朝。この日は内視鏡検査が待ち受けているため朝食なし、水分のみの摂取となった。寝起きの悪い稲村は、ねぼけまなこで渡された薬剤を眺めている。
「経口腸管洗浄剤……名前だけ聞くとおどろおどろしいですわね」
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢の言う通りである。早い話が下剤なのだが、それならそうとはっきり書いてほしいものだ……。
「知ってますか、美影さん。昔はこの洗浄剤、名前が『ムーベン』と言ったんだそうですわ」
そう言って伯爵令嬢は誇らしげに胸を張った。雑学というか豆知識が豊富なことを誇示しているのだ。もちろん嫌味なところはない。同い年の少女ということで、彼女とは良き友人になれそうな、そんな穏やかなやり取りでもある。
「ムーベン……ですか」
何だその名前。そう思った。
この薬剤は昔よりは格段に飲みやすくなっていると説明はされたものの、美味しいものではなかった。
コップ一杯の量を一〇分程度というスロースピードで、合計二リットルも飲まなければならない。十五分もすれば便意を催し、薬剤を飲んでは出しを繰り返すことになる。なんという拷問であろうか。
(あのAV監督なら、こういうネタをビデオにしそうな……)
思い出すのは本土で出会った高橋たち、コンキスタドールの面々だ。
あの大柄な髭の男優……ナベさんといったか。彼もどうしているだろう。
そんなことを考えているうちに、便の色は薄く、水状になってゆく。そろそろいいかとおもったところで、専属の看護師をトイレに呼んで審査を受ける。恥辱だ。十代の少女たちには過酷すぎる、身体検査の頂点だった。
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