14.一位神論、モナルキア
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美影がANAL本部のあるメガフロートについたのは正午過ぎだった。
甲板上に出てみると、施設はもう眼前に迫りつつあった。
コンクリートで固められた岸壁に打ち付ける波音は意外にも激しく、少女の恐怖心をあおる。
港というよりは特別に設けられた桟橋に接舷するようだった。フェリーのエンジンがいったん止まり、潮流に乗って舳先が右舷に曲がる。頃合いを見計らって再びエンジンがかかると、船は後ろ向きのまま桟橋へと近づいた。なので、美影は後部デッキへと移動する。
「ああ、着いたのか……」
寝ぼけ眼でやってきたのは稲村九霧だった。
次いで例の少女が姿を現す。
船はかなり揺れているというのに、少女は身じろぎひとつしない。美影は、そんな彼女の神経の太さを羨ましく思った。
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桟橋にて一行を迎えたのは、白と黒の侍女服に身を包んだANALの女性職員たちだった。
みな、うら若い少女のように見える。
なぜこんな場所でメイドの格好をして働いているのか……疑問はわいたが、今それを口にするのはなんだか失礼な気がして、一行は黙って島へと上陸した。
天気は次第に
海は荒れ始めたようで、フェリーは全員が降りるのを確認すると、すぐに出航してしまった。
「これからどこへ向かうのです?」
そう言ったのは先ほどの利発そうな少女だった。
どうやら外国人らしく、銀髪に
「ゲシュヴィッツとお呼びくださいませ」と、美影たちに礼儀正しい挨拶をした。
「彼女は伯爵令嬢なんだそうだ」
厳かな声でそう告げたのは稲村九霧だった。
学者然としたいで立ちの長身の女性。年長者らしく落ち着いたたたずまいだが、先ほどの船上でのへたりこみを見てしまっている以上、あまり説得力はないようにも思えた。
「このたびは、ANALへようこそ――。わたくし、スタッフを代表して皆様をお迎えに上がりました、
そう言って侍女服の一人は恭しくお辞儀をした。
つられて美影も頭を下げる。下げたのは彼女一人だけだった。
「……施設にやって来たのは本当にわたくしたち三名だけのようですわね」
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢はそう言って周囲を見回した。
聞こえるのは岸壁に打ちつける波音だけ。海風が冷たく感じられた。
こんなところで立ち話も――ということで、一行は施設内へと案内される。そこはメガフロートのふち沿って作られた訓練施設兼宿舎であった。
「これからご案内します施設はANALの教育機関、〈モナルキア〉になります」
「……」
モナルキア――。
それは、「一位神論」という意味を持つラテン語だ。
読んで字のごとく、神は一つの概念しか持たないという考えをまとめた言葉であり、それゆえに三位一体論が基本とされているキリスト教の考えのなかでは異端とされたものだ。
なぜ宇宙を目指す組織にこのよう名前が付けられたのか……。
おそらくは、同じく一つの目標を追い求める、という名目があるのではないか――美影は、そんなことを考えていた。
変わった名前ですわねと、ゲシュヴィッツがボソッと呟くのが聴こえた。それに応える者はいない。
接岸地点から施設へ行くのには、ちょっとした回り道をする必要があった。
そもそもが宇宙往還機の発着施設を備えた場所なのだ。
中央部分にはマスドライバー本体や関連設備が立ち並ぶため、そこを避けるようにして、メガフロートの高台近くまで設けられた階段を上ったのち、そこから再び海沿いに出る通路を辿る。
舗装された道ではあるが、その回りくどい道筋にはやや辟易するものがあった。
道すがら、スタッフ代表の設楽が、あらためてANALについて説明してくれた。
大まかな概要は美影が事前に調べていたとおりだった。
太平洋上にぽつんと浮かぶ人工島だが、電力供給されているため本土と何ら変わらぬ生活が出来るという。小島とはいえ相当のキャパシティがあると、設楽は述べてみせた。
とはいえ、島の外周自体に手入れはなされていないため、岸壁は切り立った崖になっており、むやみに立ち入るのはとても危険だ。
本土とメガフロートとを結ぶのは基本的に船便のみで、空の便はヘリコプターが利用されるという。
往還機の補給やメンテナンスはどうしているのですかという美影の質問には、島の内部の工廠ですべて賄うとのことであった。いま見えている部分の足元に、何層にも重なった地下施設があるのだという。
そんな話が十五分ほど続いたのち、ようやく目的地にたどり着く。
誰ともなくほっと溜め息をついた。
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