これからも一緒にバズっていく……はずだった

「えっ!? おえっ!? こここ、ななな……!?」


 メッセージの着信。送信相手は今、自分の目の前にいる環。

 文章はなく、一枚の写真だけが添付されていたそのメッセージを開けば、スクール水着を纏った彼女の姿が画面に映し出されたではないか。


 胸の谷間も肉付きのいい太腿も前から見える尻も惜しげもなく晒した彼女のサービスショットに唖然としながら激辛焼きそばを食べた時よりも昂る熱を感じる明影へと振り返った環が言う。


「そいつはぼくを助けたお前へのご褒美だ。コスプレ用のやつだから、少しキツかったけどさ……それが逆にだろ?」


「えっと、その、あのぉ……」


 言われてみれば確かに、スク水を纏っている環の体は少し窮屈そうに見える。

 このまま泳げば胸がこぼれてしまいそうだなと思いながら、そのシーンを想像して顔を赤くする明影へと更に距離を詰めた環が耳元で囁いてきた。


「他にも別アングルから撮った写真があるんだけどさ、結構すごいよ? 剥き出しの脇とか、水着からちょっとだけはみ出しちゃってるお尻の肉とか……見てみたくない?」


「み、見たくないといえば、嘘になるけど……」


「ふふっ……!! なら、わかってんだろ? ぼくの忠実なしもべとして、誠心誠意尽くせよ。そうしたら、またご褒美をあげる。他の女に目移りしたら許さないぞ。お前は、ぼくだけのだめ忍者なんだからな」


 一緒に買い物に行った時にそうしたように、明影の耳元で甘く熱を帯びた声で囁く環。

 大胆が過ぎるというか、本気で何を考えてここまでしているのかわからない彼女の言動に困惑しながらも息を飲んだ明影の反応に、環は満足気に微笑んでから距離を取る。


「まったく! 明影は本当にだめな忍者だな~! ちょ~っと目を離したらすぐに骨抜きにされてるし、くのいちと勝負したらあっさり負けちゃうだろ~!」


「……あの、さ」


 普段と変わらない様子で自分をからかう環へと、僅かに俯いたままの明影が声をかける。

 こちらを見やる彼女へと視線を向けた明影は、小さく息を吸ってからこう告げた。


「別に、こういうご褒美なんてなくっても、僕は君と仲良くしたいと思ってるよ。こんな形じゃなくっても、普通にありがとうの言葉一つで十分だからさ、その……」


 上手く言葉にできないが、自分がこういった環の目当てで彼女と仲良くしていると思われるのは嫌だった。

 バズりたいという下心は否定できないが、今はそれ以上に友人として彼女と遊びたいと思っているし、純粋に仲良くなりたいと思っている。


 もしかして、自分は彼女の信頼に足る男ではないのだろうか?

 自分の何かが環に男としての下心を感じさせているのではないかと不安になった明影が彼女へと自分の正直な気持ちを伝えれば、少しだけ驚いた顔をした後で、環が口を開く。


「……わかってるよ。大丈夫、わかってる。ただ、その……どうすればいいのかよくわかんなくって、どうしたら感謝の気持ちが伝わるかなって、明影が喜ぶかなって、色々と考えて、これなら間違いないよなって思って、用意しておいたっていうか……ええ~い! 別にお前がすけべなのは知ってるけど、嫌なすけべじゃないことは知ってるよ! これはただぼくがお前に喜んでほしかったから用意しただけ! お前をそういう下心で動くような男だと思ってるわけじゃあないから、心配すんな!! わかったか!?」


「う、うん……!」


 前半は弱々しく、後半はヤケクソ気味に、言葉にしにくい自分の感情を吐露する環。

 その姿に、言葉に、自分と重なるものがあることに気が付いた彼は、少しだけ心を弾ませながら頷く。


 相手のことがよくわからない。だけど、もっと仲良くなりたい。

 そう思っていたのは自分だけではなくて、環もそうだったのだろう。


 どうしてそうなるんだという結論に達しながらも、それでもこの写真も彼女なりに自分の無茶振りに付き合ってくれる明影に感謝の気持ちを伝えようとしたが故に用意した物なのだと理解すれば、彼女が自分と同じ想いを抱いてくれていることの喜びが胸を満たしてくれる。


「ああ、もう……なんだよこれ? 写真を送った時より恥ずかしいんだけど? 顔、あっつぅ……!」


 真っ赤になった顔の熱を冷ますように手で扇ぐ環の姿を見ていると、不思議ちゃんと呼ばれる彼女も等身大の女の子であることがわかる。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ……歩みは遅くとも、確かに自分たちの距離が縮まっていることを実感した明影は、嬉しそうに笑いながら胃の痛みを感じさせない明るい声で言った。


「来週のコラボまでに面白い企画を考えておくよ。コンビ結成一か月記念配信、絶対に最高だって思ってもらえるようなものにするから……期待してて」


「……へへっ、目の色変えちゃってさ~! このぶぉくにそこまで言ったんだ、下手な真似は許さないからな? ぼくや抹茶兵を唸らせるような、面白い企画を考えてこいよ! それができたら、スク水写真どころかヌード写真だって送ってやらあ!」


 だから要らないって、と思いながらもそれが環なりのエールであり、照れ隠しであることを理解している明影は野暮なツッコミを入れることはしなかった。

 ……あるいは、口ではそう言っておきながらもちょっとは彼女からのご褒美に期待していたのかもしれない。


 この時、明影も環も最高に充実した幸せな気持ちを抱いていた。

 来週の一か月記念配信が終わっても、これからもこの相方と少しずつ距離を縮めながら、楽しい配信を続けていきたいと、そう心から思っていた。


 しかし――不幸とは、そういう時に襲い掛かってくるものだ。

 事件の始まりはこの三日後、VSPの事務所にとある二人組がやって来るところから始まった――

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