激辛焼きそば早食い対決、開始!!
「やっほ~! お待たせ、まっちゃ~? 略してお抹茶~! みんな大好き茶緑ガラシャちゃんがやって来たぞ~!」
「おそようにござる! 嵐魔琥太郎、只今参上仕った!! 本日もよろしくお願いするでござる!」
【お抹茶~! こたりょ~もよろしくな~!】
【姫忍初オフコラボ楽しみにしてました!】
【死ぬなよ、二人とも……】
配信の冒頭、いつも通りの挨拶を行い、リスナーたちからのコメントを確認した二人は、順調な滑り出しに楽しそうな笑みを浮かべていた。
これからその笑顔が凍り付くことになるわけだが、この配信を見守る多くのリスナーたちはそれを期待してPCの前でニヤケ面を浮かべている。
そんなことも知らずに楽しく話を続けるガラシャは、どこか能天気さすら感じるような明るい声で企画の内容を改めて説明していった。
「え~っと、今日はウチの事務所にこたりょ~が来ています! 初オフコラボだぞ~、どやっ! で、やることは激辛焼きそば早食い対決っていうね!」
「……なんで拙者たちのコラボには平和の二文字がないんでござろうなぁ……?」
「うっせ~! 安全とか平和なんてもんは邪魔だ、邪魔~っ! 今日はぶぉくを舐めくさり始めたこたりょ~に身の程を叩き込んでぶぉくの偉大さをわからせてやっから、覚悟しとけ~!」
威勢のいいガラシャとは対照的にこの後に訪れるであろう地獄に思いを馳せている琥太郎の顔色は悪い。
むしろ、どうしてそこまで自信満々に振る舞えるんだとガラシャのムーブを疑問に思いながら、彼は自分たちが買ってきた焼きそばを見やる。
『激辛焼きそばオブジエンド』……それがこの商品の名だ。
終焉級の辛さを謳い文句として発売されているこの焼きそばは、これまで数多の配信者たちをギブアップさせてきた恐怖の一品である。
この頂に挑んだ者たちは口をそろえて、「これは人が食べる物ではない」と言う。
【戦極Voys】に所属しているメンバーの一人がこれを完食する配信を行ったが、三口目で早々にリタイアするというあまりにも残念な末路を辿ったことを知っている琥太郎は、今もこの強敵から発される謎のプレッシャーを感じていた。
「そんじゃ、ソースを混ぜるぞ~! こたりょ~もしっかり混ぜとけよ~!」
「は、はっ! 姫、手にソースがかからないようにお気をつけくだされ。万が一にも垂れてしまったら、すぐに手を洗うでござるよ」
『※ソースがついた手で目などを擦らないでください。非常に危険です』
そんな注意書きを読んだ琥太郎が心配する中、ガラシャは若干苦戦しながらもソースの袋を切り、その中身を焼きそばへと振りかけていく。
琥太郎もまた赤黒くスパイシーな香りがするそれを戦々恐々としながら容器の中に注ぎ、焼きそばと混ぜ合わせてみれば、スタジオ内に強烈な刺激臭が漂い始めた。
「えほっ! ごほっ! ひ、姫!? これ、本当に大丈夫でござるか!?」
「あははっ! な~にビビってんだよ、こたりょ~! こんなの十分予想の範囲内だろ~?」
容器からそこそこ顔が離れているというのに、既に本能が警報を鳴らしている。
今からこれを食べると考えるだけで背中に嫌な汗が流れるが、ガラシャの方はまだまだ余裕の態度を崩さずにいた。
「よ~し、できた!! じゃあ、ぼくが合図したらスタートな? 言っとくけど、食べ終わるまで焼きそば以外の物を食べるのは禁止! 水はいいけど、辛味が広がってむしろヤバくなるってことを覚えとけよ~?」
「りょ、了解でござる……!」
誰が決めたんだかわからない公式ルールを持ち出し、早食い対決の最終確認を行うガラシャ。
琥太郎は視線の先にある危険物と化した焼きそばから目が離せなくなっており、そこから発される辛味のオーラに既に涙目になっている。
「……あ、言い忘れてたけど、これは勝負だから負けたら罰ゲームがあるからな! 覚悟しとけよ、こたりょ~!」
「はっ!? このタイミングで言うのはちょっとズルいんじゃないでござるか!?」
「にゃははっ! 勝負は戦いの前から既に始まっているのだよ~! その動揺した心でベストパフォーマンスが出せるかな~?」
「ひ、姫? ちなみに罰ゲームって何をするんでござるか……?」
「ん~……秘密♡ それは負けてのお楽しみってことで!」
絶対に碌でもないことだ、ガラシャの笑顔を見た琥太郎は激辛焼きそばを目の前にした時よりも本能が警鐘を鳴らしていることに気付き、ごくりと息を飲む。
これは絶対に負けられないと、どれだけ相手がこの勝負に自信を持っていようとも負けるわけにはいかないと……そう自分自身に言い聞かせた彼は、割り箸を手に取ると深呼吸をしてから赤黒い焼きそばを睨む。
「さ~てさて、そんじゃあ、そろそろ始めますか……! 激辛焼きそば早食い一本勝負、よ~い……始めっ!!」
「い、いざ、尋常に、勝負っ!!」
双方が箸を手に準備を整えたところで、ガラシャが合図を出して勝負の開始を宣言する。
容器の中の焼きそばを摘まんだ琥太郎が恐れを押し殺してそれを一息に口に放り込んだ瞬間、彼の目玉の奥で真っ白な光が大爆発を起こした。
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