圧迫面接って恐ろしいでござる

「え~、それではですね~。嵐魔こたりょ~さん、とりあえず特技とかアピールポイントを教えてください」


「あの、姫? どうして姫まで面接官やってるんでござるか?」


「こたりょ~をヴォコヴォコにできて楽しそうだから! ほら~、面接官様に口答えしてないで、ぶぉくの質問に答えろよ~!」


 きゃっきゃと楽しそうにそう語るガラシャの言葉を聞きながら、もうダメだと肩を落とす琥太郎。

 既に逃げ道なんてないし、もうボコボコにされる未来は確定しているんだからと心のどこかで嫌がる自分に言い聞かせながら、彼は質問に答えていく。


「特技、でござるか……え~、人目を忍んで気配を消すことなら得意でござる」


「おい、それって地味な陰キャ野郎ってことをいい感じに言い換えてるだけだろうが。なにごまかしてんだ、エセ忍者。っていうかお前、そこは変化とか変わり身の術みたいな忍者っぽい特技を出せよ」


「いや、拙者はそういう暴力的なのは嫌いなので……」


「はぁ~っ!? それでよく忍者を名乗れるな!? 忍者なら刀とか手裏剣とか殺人武術とかで敵をぶっ殺してなんぼだろうがよ!?」


「いやいや、忍にとって必要なのは異変を悟られることなく任務を達成する隠密の技術でござる。逆に質問でござるが、紅尾殿は敵の陣地に乗り込んで一騎当千の活躍をする忍者って何かおかしいと思わないでござるか?」


「むぐっ、うぅん……」


「というわけで、忍である拙者の特技は任務を達成するのに必要な隠密の技でござる。ご納得いただけたでござるか?」


「くっそ……! アタシ、こいつを好きになれる気がしねえ……!!」


「ははっ! クレア、論破されてて草。やっぱレスバ弱っちぃね~!」


 上手いこと琥太郎に言い包められて悪態をつくクレアをからからと笑いながら煽るガラシャ。

 最初の質問を何とか捌くことができて安堵したのも束の間、即座にすあまから琥太郎へと第二の質問が飛ぶ。


「え~、では次の質問です。琥太郎くんのおちんぽの長さは何センチですか? できれば通常時とおっきくなった時のサイズを教えてほしいんですが……」


「……姫、質問を質問で返す無礼をお許しください。この前松殿という方は、正気でござるか?」


「ああ、大丈夫、大丈夫! すあまんはこれが平常運転だからさ!」


「であるならば付き合いを考えた方がいい方だと思うでござる。絶対に答えられない質問を平然と配信上で投げかけてくる女子おなごだなんて、恐怖しか感じないでござるよ」


「あっ、ごめん。そうだよね……忍者にセンチはわかりにくいもんね? 尺でも寸でも好きな単位で言ってくれていいよ! ……ぷっ! 寸、尺……! 寸止め、即しゃ――」


「それ以上は絶対にダメでござるからして!! もうこの時点でダメでござるけど、絶対的に超えてはならないラインを悠々と飛び越えないでいただけますか!?」


 ガラシャにも負けず劣らずのフリーダムさと彼女にはないヤバさを持つすあまの下ネタトークに翻弄される琥太郎がギリギリの発言を大声で掻き消す。


 なんとなく理解できたが、この三人の中で一番ぶっ飛んでいるのは彼女なんだろうなとひしひしと肌で感じ取った琥太郎が冷や汗を流す中、すあまはどこまでもしつこくセクハラを仕掛けてきた。


「ほら、言えよ……! 忍者の懐刀はどれだけ立派なもんなんだ? 納刀時と抜刀時のサイズ感を教えろよ、なあ!?」


「……クレア、寸止めとかそく……なんとかってなぁに? ぼく、わけわかんねえんだけど?」


「お前は知らなくていいぞ~! ガラシャは無邪気なままでいてくれよな~!」


(ふむ、カオス! こんなのまともに相手していたらおかしくなるでござる!)


 クレアはまだいい。会話した感じ、語気は荒いが結構単純で簡単に言い包められそうな雰囲気はある。

 ガラシャもまあ問題ないだろう。彼女の場合、言動は一切予想できないが対処できる範囲内で収めてくれるだろうという信頼がある。


 問題はすあまだ。この下ネタ大魔王と会話を続けては、何から何までを暴かれた上に一生ものの恥を掻く危険性しかない。

 で、あるならば……ここで自分が取るべき行動は一つだ。


 小さく喉を鳴らして気を取り直した琥太郎は、三人の中央に座るガラシャだけを見つめ、彼女へと話しかける。


「姫、この琥太郎、姫に一つ申し上げたいことがございます」


「ん? なんじゃ? 申してみよ! ……えへへっ! 今の本物のお姫様っぽくなかった?」


「お~、そうだな~! ガラシャは姫様みたいで本当にかわいいな~!」


 ふんすと鼻を鳴らしてそう反応したガラシャの姿に、クレアはデレデレになっている。

 すあまの方も琥太郎が何を言うのかに期待して様子を見てくれているようだ。


 自らのRPを崩さぬようにしながら、配信の雰囲気を壊さぬようにしながら、その上でこの場を盛り上げる択を熟考した彼は、ガラシャの忠実なしもべとして振る舞いながら、こう意見を述べてみせる。


「僭越ながら……姫、そのお二方の傍は非常に危険かと存じます。少なくとも今この時だけは、距離を置くべきではないかと……」


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