初対面、忍者と姫
「う、うぅん……はっ!? こ、ここは……?」
次に目を覚ました時、明影は病院のベッドの上にいた。
知らない天井を見上げ、やや混乱したまま大慌てで状態を起き上がらせた彼へと、安堵したような雰囲気の声がかけられる。
「良かった。目、覚ましてくれて……本当に安心したよ」
「あ……っ! えっと、確か、君は……」
柔らかく笑みを浮かべながらこちらを見つめる少女の顔を見た明影は、ようやく自分の置かれている状況を理解したようだ。
そして、彼女が自分が意識を取り戻すまで傍に居てくれたということも悟った彼へと、深々と頭を下げた少女が言う。
「ホント、ご迷惑をお掛けしました。怪我させちゃって、すいません」
「い、いえ、お気になさらず。人として当然のことをしたまでですから。それよりも、あなたの方こそ怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫です。あなたが庇ってもらえたお陰で、擦り傷程度で済みました」
「そう、良かった……!」
自分に謝罪する彼女へと、慌て気味に手を振って恐縮する明影。
未だにズキズキと頭は痛むが、彼女に怪我がなくて良かったと安堵する彼へと、少女が言う。
「風祭明影さん、ですよね? ごめんなさい、病院に担ぎ込まれる時に身分証明書を見させてもらっちゃいました。病院の方が緊急時の連絡先にも電話したらしいんで、ご家族とかがその内来ると思います」
「そうですか……何から何まで、本当にすいません」
「いやいや! この程度は当たり前ですよ! あなたがいなかったらぼっ……私が病院に担ぎ込まれてたわけですし」
そんな会話を繰り広げながら、明影は少女の姿を観察するように見つめる。
やや小柄で童顔、内巻きのショートヘアが似合う小さな顔に大きめの眼鏡をかけている彼女は、控えめに申し上げても美少女と言うほかない。
黒のアウターに白のインナーを合わせ、明るい色合いをしたブラウンチェックのミニスカートを履いている彼女の露出した太腿を目にして罪悪感に駆られた明影が目を逸らす中、そんな彼の視線に気付かずにいた少女がこんなことを言ってきた。
「あの、治療費とかは心配しないでください。ぼ、私が持ちますから」
「えっ!? い、いやっ、そんな、悪いですよ!」
「いやいや、命の恩人に病院代を支払わせる方が変な話でしょう。私も上司的な人に連絡取ったんで、その人が色々と動いてくれますから気にしないでください。もうそろそろ来るころじゃあないかな……?」
そう言いながら少女が病室の入り口を振り向けば、タイミングを見計らったかのように音を響かせながらドアが開いた。
そこから姿を現した二人の人物は、少女と明影のそれぞれに視線を向けると、安堵したように声をかけてくる。
「明影、目を覚ましたんだな……!」
「た~ま~ちゃ~ん! 無事でよかったよ~!!」
背の高い眼鏡をかけた男性と、どこか幼さの残る女性の反応は対照的だ。
男性の方は頭に包帯を巻いてはいるが普通に起き上がっている明影の姿に安堵したようにほっと溜息を吐き、女性の方は同じく安堵しながらも感情を爆発させて叫びながら少女に抱き着いている。
一気に騒がしくなった病室の中、どこから話を整理すればいいのかと混乱した明影であったが、そこで大事なことを思い出して眼鏡の男性へと声をかけた。
「あのっ、斧田社長! 案件の打ち合わせってどうなりましたか!?」
「安心してくれ。先方に連絡して代わりの者を向かわせたよ。明影が緊急連絡先カードに私の電話番号を記載してくれたお陰で助かった」
「そう、ですか……! 本当に、良かった……!」
緊急事態とはいえ、【戦極Voyz】の一員として受けた案件の打ち合わせに参加できなくなってしまったことを心配する明影を安心させるように、事務所の代表……
その言葉に安堵した明影が心臓を抑えながらほっとため息を吐いた瞬間、意外な人物が意外な発言をしてきた。
「案件……? もしかしてそれ、Vtuber同士が集まる大規模コラボ的なやつだったりする?」
「えっ? そ、そうだけど、どうしてそれを?」
ついうっかり正直に答えてしまった明影は、すぐにしまったと両手で口を抑えた。
こういった企業の極秘情報をべらべらしゃべる奴があるかと、自分で自分を叱責する彼へと少女が言う。
「そっか、ごめん……あなたも同業者さんだったんだね」
「ど、同業者? ってことは、君も……?」
「うん、そう。ぼくもVtuberだよ。で、あなたと同じ仕事に参加することになってて、その打ち合わせ場所に向かってたんだ」
予想外の展開に驚いた明影が目を見開きながら少女を見つめる。
まさか、助けた少女が自分と同じVtuberで、しかも同じ案件に参加する予定だったなんて……と彼が驚く中、スーツ姿の女性が二人の話に割って入った。
「すいません、一旦ストップで! ここからはその、私の方から説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
そう言いながら懐から名刺を取り出した女性はそれを斧田と明影へと手渡した。
そこに記されている名前と役職を確認した明影が、それを声に出して読み上げる。
「【Virtual Sweet Production】代表、
「あのVSPの代表さんでしたか。これは、なんと言ったらいいか……」
名刺に書かれている聞き覚えのある事務所の名前を目にした明影と斧田が困惑気味に言葉を詰まらせる。
そんな二人の前で深々と頭を下げた彼女は、顔を上げると共に感謝とお詫びの言葉を口にした。
「この度は弊社所属タレントの茶緑ガラシャが大変なご迷惑をお掛けしましたこと、深くお詫び申し上げます。そして、この子を守ってくださってありがとうございました。あなたが助けてくださらなかったらどうなっていたことか……」
「どうどう、真澄ちゃん。お相手さんもちょっと困ってるよ? 少し落ち着こうか」
この場の誰よりも心をかき乱されているであろう真澄へと、事務所の所属タレントである少女が窘めの言葉を投げかける。
そうした後で事態についていけずにぽかんとしている明影へと向き直った彼女は、バツの悪そうな顔をしながら口を開いた。
「ごめん、自己紹介がまだだったよね? ぼくの名前は
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