4-6話「世界再生機能」
今より遥かに栄えていた古代文明は、世界に満ち溢れるマナが違う性質のマナに置き換わってしまい、ほとんどの人間が適応できずに滅亡してしまった。
その後、新しいマナに適応できた一部の人間が生き残ってくれたおかげで、少しずつ適応者の数を増やし、新しい文明を築き上げ――現代、魔法時代に至る。
世界再生機能。ポイの説明では、現代のマナを古代のマナに置き換え直してしまう機能らしい。
当時、新しいマナに適応できなかった人たちは拒絶反応を起こし、呼吸ができなくなり死に至ったという。
では、現代を生きる人たちが、古代のマナの中に放り込まれたら――どうなる?
「くっ――かはっ……」
セトアは胸を押さえ、椅子から転げ落ちた。アリーアも同じように床に倒れ込む。
息が吸えない。身体が拒んでいる。
現代人のセトアたちは、古代のマナに拒絶反応を起こすのだ。
(やっと……わかった! あの、黒い部屋で、苦しんだ理由が!)
あの部屋には古代のマナが充満していたのだ。だから最初入った時、マナ拒絶症の発作のように苦しくなってしまった。
二回目に入った時には、最初にセトアたちが持ち込んだ現代のマナにより置き換わりが済んでいたのだろう。
そして、今回も――
「アリちゃん、セトア!」
――クノティアは無事だ。あの時と同様、彼女はなんともないようだ。
(でも、なんで……クノティアは無事なんだ? 前回も、今も……)
だけどクノティアは、前のように慌てふためくだけではなかった。
キッと険しい顔になり、ポイの方を向く。
「……やっぱり、そういうことなの? ポイ!」
「クノティア、お主は……。――あぁ、想像しておる通りじゃ。まさかこんなことがあるとはの……」
「――っ! とにかくポイ! これを止める方法を教えて! 早く!」
「止めるもなにも、その試作機はすでに役目を終えておる」
アリーアの腕から落ちたゴーレムは、すでに光を失っていた。
「世界再生機能はマナを置き換える機能。周囲に少し撒くだけで、爆発的に広がっていくのじゃ」
「そんな! じゃあアリちゃんとセトアは? 世界はどうなるの?」
「そうじゃな……しばし待て」
「待てないよ! いますぐ答えて! ――っ!? アリちゃん!」
床に倒れ込んでいたアリーアが、クノティアのスカートの裾を掴む。クノティアがアリーアの方を向くと、アリーアは腕を少し上げ、親指をぐっと立てた。
「な……大丈夫だって? そんなわけないじゃん! ていうかセトアまで!」
セトアもアリーアを真似て親指を立てる。
上手く呼吸ができない。身体は強張り頭も回らない。苦しくて気絶してしまいそうだ。それでも、セトアは信じている。
(きっとなにか、手があるんだ……だからクノティア、落ち着いて、冷静に――)
少しして、ポイが顔を上げた。
「――うむ、やはり所詮試作機か。このゴーレムに搭載されたマナでは一定範囲しか広がらぬ。現代のマナに押しまけてしまうのじゃ。つまり時間が経てば古代のマナは勝手に消えるのじゃが――」
「それってどれくらいかかるの?」
「……一時間はかかるのう」
「そんなに待てないって!」
クノティアの言う通り。一時間もこの状態が続けば、セトアとアリーアは無事では済まないだろう。
「短くする方法はある。この場の古代マナをすべて使ってしまえばよい。じゃがそのためには……」
「古代マナを使う? ……あぁ、そっか。わかったよ。そんなの悩むまでもないじゃん」
クノティアが立ち上がり、両腕を広げる。
「ポイ、こう言いたいんでしょ? わたしが――古代マナを全部取り込んで、魔法にしちゃえばいいって。アリちゃん、セトア。いま助けるからね!」
「えっ……くの……てぃあ……?」
そもそも古代マナで現代の魔法、属性魔法が使えるのだろうか。
現代のマナは古代魔法に向いておらず、適応できた僅かな人にしか使えなかったと、さっき聞いた。だったらその逆も難しいのではないか。
これが古代魔法士なら可能性はあったが、クノティアは属性魔法が得意な現代人だ。
(……いや、そうなのか?)
クノティアは確かに現代人だけど、この古代マナの中にいて普通でいられる。
むしろ現代のマナの中で、マナ拒絶症の発作を起こすことがある。それはつまり――。
ブオォォォォ――!!
突然、クノティアの頭上にとんでもない大きさの火球が現れた。
床から見上げたそれは、まるで太陽を抱え上げているかのようだった。
「こんな巨大な魔法、初めてだけど……でも今なら! 全部わかった今なら! これくらい当たり前のように使える!」
クノティアは両手を掲げ、壁に空いた巨大な穴の方を向く。
「ポイ、一応聞くけどこの穴の先どうなってんの?」
「当時は別の施設の廊下じゃったが、すでに土で埋まっておる。気にせずぶっ放すが良い」
「いいじゃん。じゃ、いくよ――――!!」
放り投げるように腕を振ると、火球が真っ直ぐ穴の中に突っ込んでいき――。
ドガガガァァァァァ――――ン!!
穴の奥で爆発、部屋をミシミシと揺らした。遅れて、土煙や破片が噴き出してこっちまで飛んできた。座っていた椅子も吹っ飛んでしまう。
こんな高威力の魔法、今までに見たことがない。
「――っ、どう!? アリちゃん、セトア!」
「っ……カハッ!! ゲホゲホ!」
「けほっ、けほっ……はぁ、はぁ……息が、吸える~……げほげほ! うぇ、今度は煙がすごいんだけど~!」
「うわ、やり過ぎた? それも吹き飛ばすから待って!」
風が巻き起こり、土煙が払われる。クノティアが風魔法を使ったようだ。
ようやくまともに息ができるようになり、寝っ転がったまま深呼吸をしていると、クノティアが覗き込んでくる。
「よかった……二人とも、ちゃんと治まったじゃん……」
「ふむ……一瞬で古代マナが無くなり、現代のマナが満ちたようじゃ。さすがじゃな」
セトアとアリーアはゆっくり身体を起こし、クノティアがそれを支えてくれる。
正直まだ立ち上がることはできない。力が入らなかった。
「ありがとう、クノティア。でも……いったい……」
「ありがと~クノちゃん。おかげで助かったよ~。うぅ、ごめんね。あたしのせいで無理させちゃったよね」
クノティアは少し身体を離して、セトアとアリーアの顔をじっと見る。
「アリちゃん気にしないで。おかげでわたしは……。うん、二人にはちゃんと聞いて欲しい。やっとわかったんだ。本当の自分のこと」
胸に手を当て、意を決してクノティアは告白する。
「わたしは……四つの属性を操ることのできる、先天の古代魔法士だったんだ」
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