4章 世界の真実

4-1話「噂の真偽」


「ようやく授業が終わったようじゃの」


 ユルケルス神殿から帰ってきた翌日。疲れは残っていたが普通に授業を受けて放課後、古代魔法研究同好会の部室に集まるメンバーたち。

 そんな中、セトアの鞄からぴょんと子犬が飛び出し、テーブルの上に着地した。


 古代文明の技術で作られた人形、ゴーレム。いまは白い子犬の姿をしているが、もともとは金属質の白い身体に青く光るつなぎ目、パーツを組み合わせたような犬型の人形だった。姿を隠すため、または見られても問題ないように、今の姿に擬態をしているのだ。どうやってかなんてわかるはずもない。古代文明の超技術ということで納得するしかない。


 ちなみに名前はポイ。アリーアが付けた名前で、仮マスターであるセトアが認めてしまったためその名で登録してしまった。適当につけてしまったことを後悔したが、呼びやすいし意外と悪くない、と呼ぶ側は思っている。


「ポイ、だいぶ待たせたな」

「ポイちゃんずっと鞄の中にいたんでしょ?」

「暇だったんじゃん?」


 アリーアの言う通り、授業中ポイはずっとセトアの鞄の中にいた。そのため放課後になると急いで三人とも部室に向かい、ポイを出してあげたのだ。


「暇? そんなことはないぞ。現代の情報を収集しておったからの。よもやこの大陸にこれほど人が溢れようとは……」

「へぇ~、昔は人が少なかったの? でも何倍も人がいたって話してなかったっけ」

「アリちゃん、ポイが作られたのって古代文明滅亡後でしょ? 少ないに決まってるじゃん」

「あ、そっか。あはは……」

「わらわが作られた時期は関係無い。滅亡前からこの大陸にはあまり人が住んでいなかったのじゃ」

「……どういうことだ? ていうかプロテクト、だっけ。かかってないのか?」


 ポイは現在制限モードというので動いているらしく、開示できる情報に限りがある。特に古代文明が滅亡した理由については厳重に鍵がかかっている。


「うむ。この大陸は自然保護区だったのじゃ。もっとも――おっと、これはプロテクトか。とにかくあまり大きな建物は作れないルールじゃった」

「へぇ……」


 面白い話が聞けた。と、セトアは内心喜ぶ。

 確かに、この大陸がもっと栄えていたのなら、遺跡はいまの何倍も見つかっていなければおかしい。これは研究者の間でも度々議論の的になるのだが、その答えを知ることができてしまった。


「ポイちゃんの話おもしろいな~早くぜんぶ知りたいよ!」

「わたしもアリちゃんと同じ気持ちかも。古代文明の謎……どうして滅びてしまったのか。もうすぐわかるかもしれないんでしょ」


 ポイの制限が無くなれば、これまで神話でしか伝わっていない人類滅亡の謎に迫ることができる。セトアたちはそれを自分たちで解明したくて、魔法騎士にポイのことを隠して連れ出してしまったのだ。


(でも……古代文明、神話の謎……か)


 ポイを見付けた夜に、セトアはカオスフェアネスだけが知る秘密――魔物と門についてポイに聞いていた。

 しかし、魔物が存在していたことは確認できたが、門のことは知らないと言われてしまった。


 もしかして、門なんて存在しないのか――。


 衝撃が大きすぎてその日は眠れなかった。が、今はだいぶ冷静に考えることができるようになっていた。


 そもそも門という名は、滅亡から生き残った人間の末裔、現代の人がそう呼んでいるだけかもしれない。魔剣と遺産のように名称が違う可能性があるのだ。それならばポイがわからなかったのも納得できる。


 しかしその辺りを詳しく聞くには、現代に魔物がいない理由に触れなければならず、プロテクトで聞くことができない。

 つまり、どうしたって完全起動できるという場所に行かなければならないのだ。


 当然、このことは組織に報告していない。門が無いかもしれないなんて言えるわけがない。せめて全部わかってからだ。


 セトアがそんなことを考えている間も、二人は話を続けていた。


「それにさぁ、ポイちゃんが言ってた、古代文明と現代で大きく変わったものっていうのがなんなのか気になって気になって。夜しか眠れないんだよ~」

「わたしもわたしも。まったく想像つかないし」

「…………」


 それは魔物の存在――と、セトアは思っていたのだが。


(ポイがその話をした時、プロテクトで詳しく話せないと言っていた。だけど、魔物のことは話してくれた。まさか――違うのか? 他になにか、変わったものがあるのか?)


 もちろん、セトアが魔物の名前を出したからこそ答えられた可能性はある。魔物のことではないと答えを出すにはまだ早かった。

 いっそポイに聞いてしまえばいいのだが、冷静になった今だから思い付いたのだ。アリーアとクノティアの前では聞くことが出来ない。あとで機会を作れるだろうか。


「ねぇねぇクノちゃん、セトアちゃんがツッコんでくれないよ……」

「寂しいじゃん……そんなの」

「えっ!? ――――あ、寝てるだろ! 夜眠れてるならいいじゃないか」

「ふふふ、そうこなくっちゃ~」

「いつものセトアが帰って来たじゃん」

「はぁ……」


 まったくこっちは本当に夜も眠れていないというのに――。

 と、セトアは思ったが、もしかしたら心配をかけてしまったのかもしれないと思い直す。昨日帰る時も寝不足でやばかったし。


(大変なのはまだこれからなんだ。気を取り直して――)



「……よし。ポイ。教えてくれ。お前を完全起動するには、どこに行けばいいんだ?」

「遠かったらどうしよう? 方角的にはエレメンタル王国内だったんだよね」

「ここは領内のほぼ真ん中だから、よっぽど端っこじゃなければ大丈夫じゃん? それでも近いと助かるけど」

「それなんじゃがのう……」


 ポイが何故だか言い淀む。嫌な予感がした。


「まさかポイ、わからないとか言わないよな?」

「え! そうなの? なんで? ポイちゃん!」

「ここまで来てそれはないじゃん? レニアさんに頭まで下げさせちゃったんだよ? どうしてくれるの、ポイ?」

「ええい、勝手に勘違いするな! ……いやなに、わらわも驚いておるのじゃ。まさかまさかじゃ」

「ん? ……どういうことだ?」


 セトアが聞くと、ポイはぺちぺちと、テーブルを叩く。


「完全起動の場は――。この大きな学び舎の地下にある」


「なっ――――!?」


 大きな学び舎、つまり本校舎。その地下に、ポイを完全起動するための遺跡があると言っているのだ。


「セトアちゃん、それって!」

「前に話してたやつじゃん……!?」



『ジルフィンドの魔法学院地下には古代遺跡があるという。その噂の真偽を確かめ、遺跡が本当にあるのなら調査せよ』



 セトアはそんな任務のために魔法学院に潜入していた。

 しかしこの任務は過去に何人もの組織の人間が調べ、なにも見つかっていない。信憑性の低い噂。故に、組織の若手の能力試験的な任務となっていた。

 セトアはそんな裏事情を知ってしまい、任務へのモチベーションが上がらなかったわけだが――。


「ほ、本当にあったのか!?」


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