第56話 飛竜曲技部隊、結成!

 僕たちは、朝から離着陸場へと集まった。

 目の前には、ペスたちワイバーンとジーナさんたち飛竜兵が整列している。

 周りには特戦群と一部の兵士や騎士も整列していた。

 僕はまだ寝ぼけているのか、学校の朝礼で教師側に立っている気分だ。

 そして、ジーナさんたちの服装が灰色の迷彩服姿で、脇に抱えているのはヘルメットだった。

 飛竜兵というよりもパイロットにしか見えない。

 やっぱり、寝ぼけているのだろうか……。


 「おはようございます。今日から、アルセ飛竜部隊、ジーナ隊は名称を変え、ユナハ国空軍、飛竜曲技部隊として結成されました。この部隊は繊細な技術を要するエリート部隊として、他の飛竜部隊のお手本となるよう、心がけて下さい」


 「「「「「はっ!」」」」」


 シャルの言葉を聞いて、ジーナさんたちは額に手を掲げ、彼女に敬礼する。

 服装だけじゃなく、敬礼まで変わっている。

 まだ寝ぼけているのか……。


 「では、ジーナ一等空佐いっとうくうさ、前に来て部隊名の発表を」


 「はっ!」


 ジーナさんはシャルの横に立つ。

 ん? 一等空佐って、まんまパクってるよね。と言うか、自衛隊の影響を受けすぎてやしないだろうかと不安になる。


 「我らの部隊名は、ユナハ空軍、飛竜曲技部隊『グレイフォックス』である!」 


 「「「「「おぉぉー!!!」」」」」


 彼女が声を張って、部隊名を名乗ると、飛竜兵たちから歓声が上がる。

 シャルたちや周りにいた兵士たちから、拍手が贈られると、控えていたメイドさんたちが、白ワインらしき物が入ったグラスを配りだす。


 「手元にグラスは回りましたか?」


 シャルが声を掛けると、皆はグラスを上に掲げる。


 「この飲み物は、王立研究開発局で開発されたばかりの新しい飲み物です。今日の新しく結成された部隊を祝うのに良いと思い用意させました。では、ユナハ空軍、飛竜曲技部隊『グレイフォックス』の結成を祝して、乾杯!」


 「「「「「乾杯!!!」」」」」


 皆は一斉にグラスを飲み干す。

 お酒はちょっとと思いつつも、祝いの席だからと、僕も飲み干した。

 なっ、なんと! マスカットジュースだ! それも、炭酸が絶妙に効いていて美味しい!

 飲んだ者たちからも驚きの声や、美味しいという感想が漏れている。


 皆の感想を聞いたケイトとヒーちゃんが、ハイタッチをした。

 このジュースは二人の仕業か。

 そして、ケイトだけが出てくると、シャルの横に立つ。


 「えー、皆さん! 今、お飲みいただいた商品は『マスカットソーダ』と言います。この商品は、城の城壁に建設中のお店、コンビニ『カプ』の陳列棚に並びます。価格はフーカ様の意向で、誰でも気軽に買える値段で販売します。皆さん、開店の際は、どうぞ足をお運び下さい!」


 彼女が頭を下げると、歓声があがる。

 ケイトはヒーちゃんのところに戻ると、再びハイタッチをする。

 まさか、こんな席で、宣伝までするとは……。

 待って! コンビニ『カプ』って何? もしかして店名? 僕は何も聞かされていないんだけど……。




 ほどなくして、メイドさんたちによって、僕たちの椅子が用意された。

 僕はその椅子に座るが、これから何がおこなわれるかまでは知らされていない。

 朝起きたら、アンさんたちに今日は式典があると、この場へ連れられてきただけなのだ。

 まさか、その式典が飛竜曲技部隊の結成式だとは思いもよらなかった状況だ。

 それにしても、『グレイフォックス』と言う部隊名はカッコいいと思うけど、灰色狐だと、灰色は分かるが、狐はワイバーンに関係ないよね。

 椿ちゃんたち……いや、国旗の狐に合わせたのだろうか?


 ジーナさんがヘルメットを被り、ペスに跨ると、他の飛竜兵たちも同じようにして、それぞれの相棒に跨った。

 全部で一五頭の編隊だ。

 ペスたちをよく見ると、背中の鞍の最後尾に筒がつけられている。


 「あの鞍についている筒は何?」


 「あー。あれがスモークの発生装置です」


 僕は隣にいたシャルに話したつもりなのだが、僕の肩越しから、気配を消しニュっと顔を出したケイトが答える。

 何で、ニュっと現れるんだ! 心臓に悪すぎる。


 「お腹側じゃなくて、背中側につけたんだ。ブルーインパルスの動画を見せたから、お腹側につけると思ってたよ」


 「それが、最初はお腹側につける予定だったんですけど、実際にテスト飛行をしてスモークを噴射してもらったら……」


 「してもらったら?」


 彼女は途中で言葉をとめる。


 「えーとですね。その……お腹側から噴射する姿を見ると、おならを撒き散らしているようにしか見えないので、却下しました」


 「……」


 僕は思考が少しの間、停止した。


 「な、なるほど……。そ、それは、賢明な判断だね」


 「……」


 シャルはこちらを向き、眉をひくつかせただけで、何もしゃべらなかった。


 ジーナさんたちが、滑走路をイメージしたように引かれた白線の位置につく。

 彼女はヘルメットをいじり、バイザーを下げると、顔が黒いガラスで覆われる。僕はケイトを見る。


 「何……あのヘルメット。あんなの作れたの?」


 「いやー。苦労しましたよ! エルフとドワーフの技術者が居なけらば無理でした!」

 

 ケイトは得意げだ。


 「あのバイザーは色々と大丈夫なの? 強度とか透過性とか……」


 「大丈夫ですよ。ガラスじゃなくて魔石ですから!」


 「そうなんだ……ま、魔石って貴重じゃないの? あ、あんな使い方していいの?」

 

 「大丈夫です! 魔道具の工房から魔石を加工する際に出た削りカスをもらってきて作ったので、材料費はただです! それに粘土状にするから形や大きさ、厚みが自由に出来るんです! ツバキ様、万歳! って感じですよ。苦労したのは、ヘルメット本体の加工のほうでした。本当に大変でした」


 彼女は興奮気味に話す。


 ピー。ガー。


 何か電子音と雑音がする。


 「ユナハタワー、ユナハグレイ01《ゼロワン》、レディー、フォー、テイクオフ」


 かすれたような聞きづらい音だが、ジーナさんの声だ。


 「ユナハグレイ01、ユナハタワー、クリアード、フォー、テイクオフ。行ってらっしゃい」


 ケイトは周りをキョロキョロとして、何かを確認してから返答した。


 「クリアード、フォー、テイクオフ」


 ジーナさんの声がすると、風が巻き起こる。

 ペスが滑走路を掛けて離陸したのだ。

 すると、ペスに続くように、ワイバーンたちが滑走路を掛けて離陸していく。

 今まで、そんなにマジな助走してなかったよね……。っていうか、今のって、航空管制だよね。

 映画やアニメのワンシーン見たいで、ちょっとカッコいいと思ってしまった。




 ケイトは大事そうに、木の箱を抱えていた。


 「ケイト、その箱って……」


 「通信機の試作品です。まだ、これとペスに積んだ物しか間に合いませんでした」


 「そんなの、いつの間に作ったの?」


 「えっ? 通信設備を作るって言いましたよね?」


 彼女は首を傾げる。


 「うん、言ってたね。でも、もうできたんだ」


 「まだです。試作品ですから。魔石を使ってるんで、日本の物とは構造が違うところも多いみたいで、ツバキ様が教えてくれなかったら出来ませんでした」


 「……」


 椿ちゃんに教わってる? ヒーちゃんのスマホを使っているのだろうか? 

 チートだ……。




 上空を見上げると、ペスたちは城の北側からから、こちらへ向かってきた。

 城の手前からスモークを出し、真上を放射状に過ぎていくと、スモークも放射状に線を描くように広がる。

 離着陸場にいた者、城の窓から身を乗り出すように見ている者たちから、歓声と拍手が沸き起こる。

 一五機……一五頭もいると、迫力が違う。


 ペスを中心にして、他のワイバーンがその周りをロールしたり、背面飛行をしたりしながら、スモークを出していた。

 一五頭の編隊は、五頭三チームに別れて曲技飛行を続ける。

 街のほうからも歓声と拍手が起こり、それは城まで届いた。

 シャルたちは、立ったまま上を見上げ続け、拍手をしている。

 それは、兵士たちも一緒だった。


 技を決める度に、歓声と拍手があちらこちらで起こる。

 最後に、一四頭のワイバーンが急上昇をし、二頭ずつ途中で離脱していく。

 そして、最後にペスがスモークの残るてっぺんまで急上昇をすると、羽が描かれた。

 これには、僕も我を忘れて歓声と拍手を贈る。




 曲技飛行を終えたペスたちが戻って来ると、彼女たちの周りには人だかりができ、称賛の声を浴びせている。

 大成功だ!

 ジーナさんが人ごみをかき分けてこちらへと向かって来る。


 「どうでしたか?」


 「良かったよ! 迫力もあって、興奮した!」


 僕が親指を立てて、感想を述べると、ジーナさんはホッとした表情を浮かべてから、笑顔を作る。


 「いやー。凄かったですな! それにしても、煙を使って空に絵を描くとは、恐れ入りました。特に、最後の羽は見事でしたな。思い出しただけでゾクゾクします」


 いつの間にかそばに来ていたヘルゲさんは、僕とジーナさんに向かって感想を述べる。

 その横では、アルバンが彼の言葉に相槌を打っていた。

 ジーナさんは恐縮しながらも、とても嬉しそうに頭を下げる。


 「今回は飛竜曲技部隊『グレイフォックス』結成のパフォーマンスでしたが、本番の建国式典では、ケイトが間に合えば、音楽も流しますから期待していて下さい!」


 「さりげなく、私にプレッシャーを掛けないで下さい!」


 僕がヘルゲさんたちに告げると、ケイトが眉をひそめる。

 そして、辺りは笑い声に包まれたのだった。



 ◇◇◇◇◇



 結成式が終わって、僕は自分の執務室に来たのだが、そこには、ソファーやテーブルでくつろぐ、シャルたち皆の姿があった。


 「何で、皆はここにいるの?」


 「やることが多すぎて、現実逃避です」


 シャルがニコッとすると、皆もこちらに向かってニコッとする。

 僕の部屋を現実逃避の場に使わないで欲しい。


 「冗談はさておき、今度から、フーカさんには、フーカ・モリ・ユナハと名乗ってもらいます。婚約者は、婚姻後、名前の後にモリ・ユナハを付けてもらいます。ですが、アンは、トート・ユナハでかまいません」


 シャルが告げると、皆は頷く。


 「アンさんのトートには何か意味があるの?」


 「ええ、先々代皇帝、私の父が、武勲を何度もたてたアンに褒賞として与えた名ですから、勲章や名誉貴族の称号と同等の意味を持ちます」


 「なるほど。それは、残しておいた方がいいね」


 彼女の説明に僕も納得した。




 他にも、シャルは報告をしてくる。

 ヘルゲさんが連れてきた辺境討伐軍のおかげで、式典前までには、空港建設と大通りの工事は終わるとのことだ。

 大通りの工事では、ドワーフたちに教えた施工やコンクリートの技術も使われたため、上下水道の完備と地下道の設置なども容易となったそうだ。

 ただし、ユナハ領軍の兵士はバテ気味で、シリウスたちが、だらしがないと嘆いているらしい。

 また、ケイトが魔石を使った街灯を開発したので、大通り沿いに設置する予定も目途がついたそうだ。

 空港は、ワイバーン用の芝生の滑走路とコンクリートの滑走路の二種類が備えられ、管制塔と格納庫など近代的施設からワイバーンの厩舎まで造られることとなり、今、造っている空港を、来的には、空軍基地として稼働させ、民間の空港を別に造る予定らしい。

 僕が言い出したことだけど、目まぐるしい速さで近代化がすすめられると、少々、心配になってくる。


 次に、ケイトがエルフ領プレスディア王朝とドワーフ領ガイハンク国から、さらに技術者が派遣されてくることを報告する。

 王立研究開発局の技術の高さを、エルフとドワーフの技術者が本国に報せたのが原因らしい。

 ただ、ケイト曰く、二国の技術者が見識を広げるために、勝手に来るので、僕かシャルのどちらかが、エルさんとレオさんから嫌味を言われるだろうとのことだった。 

 最初は彼女の報告に喜んでいたシャルも、嫌味を言われるかもしれないと聞くと戸惑いを見せた。

 レオさんはともかく、エルさんは勘弁して欲しい。




 報告が終わったのか、くつろぐことに飽きたのか、皆は僕の執務室から去っていく。

 しかし、イーリスさんは立ち上がるとふらつき、また座ってしまう。

 相当、疲労がたまっていそうだ。

 うーん。軽めのマッサージをしてあげるべきだろうか?

 少し悩んだ僕は、アンさんンとオルガさんに、彼女を僕の部屋に運んで欲しいと頼むと、二人とヒーちゃんは、何かを察したのか、テキパキと動き出す。

 ヒーちゃんはおそらく……。


 部屋に入ると、案の定、カメラがセッティングされていた。

 ヒーちゃんは、イーリスさんから撮影する許可を取ったのだろうか?

 僕はイーリスさんがうつぶせで横たわるベッドに近付くと、すでにマッサージオイルとタオルが用意されており、彼女はアンさんが作ったタオルの下着を上下に着ている。


 「よ、よろしくお願いします」


 イーリスさんは、気恥ずかしそうに言葉を掛けてくる。

 それは、少し緊張しているようにも感じた。


 「この間から、その、少し疲れているようだったから気にはしてたんだけど、ふらつくまでとは思ってもみなかった。ごめんなさい」


 「いえ、謝る必要はありません。気にかけてくれただけで嬉しいんですから……」


 彼女の白い肌が、少し赤くなったような気がする。


 「えーと、いつもありがとう。では、始めるね」


 「はい。お願いします」


 両手にオイルをなじませ、魔力が手に集まるように集中すると、彼女の腰に手を当ててマッサージを始めた。

 彼女は小さくうめき声を上げて、少しのけぞる。

 ヒーちゃんとアンさんは、撮影に集中しているが、オルガさんは初めて見る光景に顔を赤らめ、戸惑っていた。

 僕がマッサージを続けていくにつれて、イーリスさんから甘い声が、度々、漏れてくる。

 いつもお世話になっている人への恩返しが、こんなのしかないと思うと、ちょっと切なくなる。

 彼女のお尻をマッサージすると、アンさんよりも小ぶりなのが分かる。

 つい、アンさんに視線を向けると、彼女はこちらを見て首を傾げた。

 アンさんのほうがお尻が大きいと言ったら、怒られる気がする。


 背中側のマッサージを終えると、仰向けになってもらう。

 イーリスさんの顔にアンさんがタオルを被せるのを確認してから、お腹側のマッサージを始めた。

 イーリスさんのスタイルもとても良い。

 マッサージをしていると、余分なお肉が少ないことが良く分かる。


 とうとう、僕にとっての最難関、胸のマッサージにはいる時がきた。

 彼女の胸も他の人に劣らず凄い!

 普段、きっちりとした服装が多いので気付きにくいが、凄いものを持っている。

 彼女は、僕に胸を揉みしだかれると、のけぞって、悩ましい声を張り上げた。

 そして、動かなくなった。

 彼女からは、スヤスヤと寝息が聞こえてくる

 彼女もだが、何故、胸をマッサージすると、皆、のけぞり悩ましい声を上げて、寝入ってしまうのだろう? 不思議だ。




 マッサージが終わると、アンさんがイーリスさんも身体を拭いて、シーツを掛けた。

 ヒーちゃんは、カメラのデータをパソコンに取り込んで整理を始める。

 何だか、本物のエステサロンみたいに事務的な態度をとる二人に、僕のほうが戸惑いそうだ。

 オルガさんだけが顔を真っ赤にして、その初心うぶな感じが可愛いかった。


 「フーカ様? その、皆に、それを、しているんですか?」


 オルガさんが恥ずかしそうに聞いてくる。


 「えーと、今、したことがある人は、シャル、レイリア、アンさん、それと、今回のイーリスさんだけだよ」


 「そうですか。み、見ているだけで凄そうでした」


 彼女はぎこちなく返事をすると、後片付けをしているアンさんを手伝いに行ってしまった。


 少しよそよそしく感じる彼女の反応に、僕のほうが恥ずかしくなってくる。

 いやらしいことは考えていないと言い切れないだけに、何処か落ち着かない感覚が襲ってくる。

 彼女に変態と思われてしまっただろうか?

 なんかそわそわする。


 これで、イーリスさんの疲労が回復してくれればいいのだけど。

 傷痕の治療と美容方面の結果ばかり気にして、疲労回復には、どのくらい効くのかを気にしていなかった。

 僕は、疲労回復の効果があるのかをヒーちゃんに話すと、次回から問診をしてから行うこととなった。

 問診する内容は、彼女が調べ、まとめてくれるそうだ。

 こういうことは、女性に任せた方が良いと思い、僕は彼女に任せることにした。

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