第51話 ドワーフの国
朝になると、僕たちは忙しく動き回っていた。
これから、ドワーフ領ガイハンク国の王都ガバルに向かうというのに、昨日のドタバタで、ベンさんたちに渡すはずの贈り物をほったらかしにしていたのだった。
さらに、これから向かうガイハンク国への贈り物がないのだ。
さすがに手ぶらで行くわけにもいかない。
僕たちは悩みまくる。
「どうしよう?」
「思い付きで予定外の行動をとろうとするから、こうなるのです」
イーリスさんに諭される。
何かないかな?
僕は、あげられそうな物はないかとリュックの中を漁るが、これと言ったものはない。
リュックのポケットなども探ると、手のひらよりも少し大きい工具セットを見つけた。
ヒーちゃんを呼び、彼女も工具セットを持っているかを尋ねると、僕のよりも立派な物を持っていた。
「これ一つだけなら渡せるけど、これじゃダメかな?」
僕はイーリスさんに工具セットを見せた。
「い、いいんですか? フーカ様がこちらに持ち込んだ物ですと、アーティファクトの扱いになりますけど……」
「ヒーちゃんがこれよりも立派なのを持っていたから、これを渡しても問題ないよ。ただ、この一つしか渡せるものがないんだ……」
「それでしたら、これ一つで十分です。これだけでかなりの価値になります。他の物まで用意する必要はありません」
彼女の合格が出た。
これで、あとは向かうだけだ。
出発の準備が出来ると、僕、ヒーちゃん、マイさんがペスに乗る。
贈り物を渡して軽くなった分、マイさんが乗れるだけの重量を稼げた。
ベンさん、イツキさん、ネネさんが見送りに来てくれる。
ガイハンク王宛に書いてもらったベンさんの手紙は、イーリスさんに預かってもらっているし、ユナハ建国後にリンスバックがユナハの領土となる打ち合わせも終えた。
そして、イツキさんには、カエノお婆ちゃんが帰ってきたら、今回の騒ぎと、僕とヒーちゃんが訪ねてきたことを伝えてもらうことも頼んだ。
これで、リンスバックを旅立っても大丈夫だろう。
僕たちは、彼らに別れを告げると、飛び立った。
イツキさんとネネさんが、白いハンカチを取り出し振っている。
ここでもか……。
僕は振り返って、マイさんを睨む。
だが、彼女は振られるハンカチをドヤ顔で見つめ、誇らしげに胸を張っていた。
何か言っても無駄な気がする……。
リンスバックの東にあるガイハンク国王都ガバルの方向には、山岳地帯が永遠と続いていた。
街道は続いているが、ワイバーンを使わずに馬車で行くのはかなり苦労しそうに思える。
ペスがいてくれて、つくづく良かったと思う。
そんなことを思っていると、ペスは山岳地帯を目指して速度を上げていった。
リンスバックの国土を抜けると、ガイハンク国との国境にあった町を見たのを最後に、右も左も山だらけとなり、集落を見ることはなくなった。
山間をうねる様に続く道が、隠れたり現れたりしているだけだ。
この国の何処に人が住んでいるかを見つけるのは、大変そうだ。
「山だらけで、不便そうな国だね」
僕は率直な感想を言う。
「この国の住民は、山の中、地下というべきかしら、穴を掘ってそこに暮らしている感じよ。確かに不便なところもあるかもしれないけど、この国の国土がそのまま天然の要塞だから、仕方ないわよ」
「なるほど」
マイさんの説明に、納得した。
「畑とかはどうしてるの?」
「地下に造った畑に光が当たるように天井を上手く加工しているのよ。山に空いている洞窟が、実は光の取り入れ口だったりって感じでね」
「へぇー。カモフラージュした天窓を作って光をとるのか。凄いな」
聞けば聞くほど、この国に興味がわいてくる。
この国に協力してもらえば、地下街などの地下施設も造れそうだ。
それに、地下鉄や地下道を張り巡らせるのも夢じゃない。
何だか、ワクワクしてくる。
しばらく飛び続けていると、真下に広がる山々から、チカチカと何かが光っていた。
「下で光っているのは何?」
「あれは、光を使って監視所同士で連絡を取り合っているのよ」
マイさんは、この国に詳しいらしい。
「そうなんだ……。それって、僕たちを警戒して、報告がされているってことじゃないの?」
「それはそうよ! 領空侵犯しているんだもの」
彼女は、当たり前でしょとでも言わんばかりの顔で微笑む。
領空侵犯って……。
僕に緊張感が走る。
「こっちにも、光通信があるんですね」
「……」
ヒーちゃんは、こんな時に何を言い出しているのだろうか……?
僕は、彼女に向かって眉をひそめた。
「ご、ごめんなさい。フー君の顔がこわばっていたから、
彼女はしょんぼりしてしまう。
うっ、やってしまった……。
「いや、ごめん。冗談のレベルが高くて、すぐに気が付けなかっただけだから……アハハハ」
「フーカ君はダメね。ヒサメちゃんは悪くないわ。よしよし」
マイさんは彼女を抱きしめて、頭をなでた。
そして、こちらに向かって、ニマっと怪しげな笑みを浮かべる。
腹立たしくなるほど悔しい。
ペスの速度が落ちたような気がするので、ジーナさんを見ると、地図とにらめっこをしていた。
「ジーナさん。もしかして、ガイハンク国を飛ぶのは初めて?」
「はい、初めてです」
彼女はこちらを振り返る。
「大丈夫だよね?」
「ここの地形は山だらけなので、難しいですけど、地図があるので大丈夫です。ただ……」
「ただ?」
「そろそろ、王都ガバルが見えるはずなんですけど、見当たらないんですよね……」
「迷ってないんだよね?」
「迷ってません! 地図にあるガバルの位置に、山しかないだけです!」
「そう言うのを迷ってるって言うんじゃ……」
「違います! 地図に記された位置にガバルがないだけです!」
「……」
ジーナさんは、
「ジーナちゃん! 方向は合っているから、このまま進んでいいわ! ガバルは山の中を掘って造られた王都だから、そばまで近付かないと分からないのよ」
「はい!」
マイさんの言葉に、彼女は従う。
「マイさんは、この国に来たことがあるの?」
「教えなーい!」
ニマっとする彼女にイラつく。
絶対に遊ばれている……。
マイさんに言われた通りに進んでいると、山の陰から現れ、こちらに向かってくる点が三つ見える。
その三つの点が、何かを確認できる距離までくると、僕は驚愕する。
もじゃもじゃのビア
見れば、ドワーフだとすぐに分かる。
だが、ペガサスに跨るドワーフの姿はアンバランスすぎる。
さらに、高価そうな甲冑を着こんでいることから騎士なのだと思うが、その姿はバイキングにしか見えない。
「ご苦労様! 案内して頂戴!」
「「「!!!」」」
近付いたドワーフたちに、マイさんが声を掛けると、彼らはビクッとして、目を丸くした。
そして、胸に右手を当て頭を下げると、困惑気味の顔で先導を始める。
僕たちは、その後に続く。
「マイさん! この国で何かやらかしてるの?」とは、聞くのが怖くて、言葉に出せない僕は、心の中で何も起きないことを祈る。
国王と面会できるのかなど、不安が募ってくる。
彼女がこの国で指名手配されていないことを祈るしかない。
ドワーフたちは前方にある山を迂回して裏側に回ると、高度を下げていく。
ペスも彼らに合わせて高度を下げる。
上空からは分からなかったが、山の中腹辺りに亀裂が横に広がっていた。
彼らがその亀裂に入り、消えていくと、ペスは後に続き飛び込む。
入り口付近はゴツゴツとした岩が多く、奥へ進むにつれて平らに加工された岩へと変わっていく。
多少薄暗い亀裂の先には、光がさしていた。
僕たちは、その光に向かって突き進む。
光がさしていた先には、大きな空間が広がり、上空から木漏れ日の様に日差しが降り注いでいる。
そして、下には大きな都市が存在しており、家々は石造りの物から木造まであり、その外壁は白いものから、赤や青など様々だ。街中には、多くの住民が行き来していて、活気にあふれ、こちらを見上げている者たちも、ちらほらと見られた。
僕たちは、正面にそびえ立つ城へと向かう。
その城は、掘られた空間の内壁と繋がっていた。
しかし、その姿は削りだした物とは思えないほど加工され、外壁に光が当たって反射し、眩く光っている。
息をのむような美しい城だ。
城のそばに設けられた離着陸場に降り立った僕は、ペスから降りると、城を見上げてポカーンと口を開けてしまう。
近くで見ると、細かい彫刻などの細工もこだわっていて、巨大な美術品や芸術品を眺めている気分だ。
「あなたたち。上を向いて口をあけていると、とても間抜けよ!」
マイさん言われて周りを見ると、ヒーちゃんとジーナさんだけでなく、イーリスさんとミリヤさんも、僕と同じく口を開け、見上げていた。
確かに間抜けだ……。
彼女たちは、顔を赤らめながら咳ばらいをすると、先ほどまでの間抜けな素振りが嘘のようにキリッと姿勢を正すが、もう遅いと思う。
僕たちが一か所に集まっていると、先ほどのドワーフたちが来る。
イーリスさんが、ベンさんから渡された手紙を見せると、彼らが国王のもとへと案内をしてくれることとなった。
道すがら、彼らは何度かこちら振り向くと、戸惑った表情を見せる。
彼らの視線の先は、マイさんだった。
「あら。私って魅力的なのね!」
彼女の自己中心的な言葉を無視して、僕たちは、黙って彼らについて行く。
廊下も立派だったのに、マイさんとドワーフたちの様子が気になって、鑑賞できないまま、槍を持った二人の兵士が両脇に立つ、重厚な大きな扉の前についてしまった。
この先が謁見の間なのだろう。
マイさんがニコニコしているのを見ると、胃が痛くなってくる。
ギー、ギギギギギー。
重たそうな音を立てて、大きな扉が開く。
僕たちは横から現れた軍服姿のドワーフに従って、奥に見える玉座に座る王のもとへと導かれる。
彼もマイさんを見てギョッとする。
その様子に、イーリスさんとミリヤさんの顔が、今まで以上に
両側に軍服や甲冑、貴族の様な正装に身を包んだドワーフたちが立ち並ぶ中央を歩き、玉座の前に着くと、皆が揃えたように跪くので、僕もつられて跪きそうになる。
「グエッ!」
僕の
振り返ると、眉間に皴を寄せたマイさんが、小さく首を横に振る。
そうでした、僕の立場では、他国の王族に跪いてはいけなかった。
こういうしきたりは、意識しないとすぐに忘れてしまう。
そんな僕を、イーリスさんたちが眉を引くつかせてチラ見してくる。
後で叱られるのかな……。
「ユナハ伯爵自治領の
玉座から、声がかかる。
渋い声色で王様っぽいと思ってしまう。
イーリスさんたちが立ち上がり、軽く礼をする。
「レオちゃーん、久しぶりー! 相変わらず堅っ苦しいわね!」
マイさんが笑顔で手を振った。
立ち並ぶドワーフたちが顔を背けて、素知らぬ態度ををとり、王様は困惑した表情を浮かべる。
何? この状況?
僕たちは驚愕する。
この人は、やっぱりやってくれた……。
「ここの王様、私の古い友人なの! 彼は、レオちゃん・ガイハンク国王よ! こう見えてもドワーフなのよ!」
マイさんはドヤ顔で王様を紹介する。
「アホか! 何処をどう見てもドワーフだろうが! そもそも、旧友と言うのなら、わしの名前をいい加減、憶えんか! レオちゃんではない! レオパルト・ガイハンクだ!」
レオパルド王は、玉座から立ち上がり、頭を抱えて叫ぶ。
彼は、焦げ茶色と白髪が混じったチリチリの髪を後ろで縛ってまとめ、長いひげを生やしたいかつい顔に、ムキムキだが、ぽってりとした体型はドワーフそのものだった。
ただ、立ち上がった姿は、他のドワーフたちよりもデカかった。
「そう言えば、そうだったわ! レオパルトね。でも、レオちゃんのほうがいいわ! そんなのどうでもいいから、私の可愛い子たちを紹介するわね!」
僕たちはポカンとして固まる。
「もういい! お前は昔から変わらんな……。それはそうと、彼らが可哀想じゃ。早く紹介を済ませて、執務室にいくぞ!」
「はーい! この可愛い男の子がフーカ君! 王印を持ってるから聖王よ! 後は、彼の左から、イーリスちゃん、ミリヤちゃんで、ミリヤちゃんはエルちゃんの孫よ。その隣のヒサメちゃんは、ウルシュナ様の神使……ルース様の妹みたいなものよ。あっ! ウルシュナ様はツバキ様に、ルース様はシズク様に改名したからよろしくね! それで、最後がジーナちゃん。この子も凄いんだけど、秘密だから教えてあーげないっと、以上よ!」
「ま、待て待て! アホか! そんな濃い内容の紹介をサラッと告げるな!」
マイさんとレオちゃん王が揉めているようだ。
「えっ? ごめんなさい。そうよね。はい、フーカ君、お口開けて、べーってして!」
「んべー」
僕は思考が停まったまま、マイさんの言う通りにする。
「「「「「!!!」」」」」
レオちゃん王たちが僕を見て驚く。
「ほら、凄いでしょ!」
マイさんが自慢げだ。
「なっ! アホか! お前は我らの立場も考えろ! 貴様らもボケっとフーカ殿を上から見下ろすな! さっさと上座から降りんか!」
レオちゃん王が僕の前に跪くと、ドワーフたちが一斉に跪く。
「あら。これは爽快ね。どうだ、思い知ったか! 皆の者、苦しゅうない! オホホホホ」
「マイ、お前にではない! 何でお前が偉そうにしてるんだ!?」
「えっ? だって、フーカ君は親戚だもん! 甥っ子みたいなもんだわ!」
「この世は不条理か!」
マイさんはえげつない笑みを浮かべ、レオちゃん王は頭を抱えて、崩れ落ちた。
そして、僕は卒倒する。
◇◇◇◇◇
僕は我に返ると、何か今までのことが
ところで、ここは何処だ?
豪華な調度品があちらこちらに置いてある。
全体的に落ち着いた感じのいい部屋だ。
「あら、気が付いたわね」
マイさんが僕の顔を覗き込む。
キョロキョロと辺りを確認すると、僕はソファーに寝かされていた。
「マイさんの顔を見たら、頭痛がしてきた」
「何それ、酷いわ!」
彼女は、プクーと頬を膨らませた。
彼女を無視して、ソファーから起き上がり、座り直す。
イーリスさんたちは、別のソファーで、ぐったりしていた。
「大丈夫ですか? お水をどうぞ」
「ありがとうございます」
水を渡してくれた女性は、僕より少し背が低いくらいの伸長、焦げ茶色のショートカットに色白の肌、童顔で可愛いらしい面立ち。
そして、スレンダーな体型をしている。
おそらく、ドワーフの女性なのだろうが、僕の知っているドワーフ感が全くない。
「彼女は、レオちゃんの末っ子よ!」
「カーヤ・ガイハンクです。よろしくお願いいたします」
彼女は軍服姿だったが、ドレスを着ている時の様に、軽く腰を下げて会釈をする。
「フーカ・モリです。よろしくお願いします」
「フーカ君、何、赤くなってるの。これ以上、お嫁さんを増やすと、
「マイさん! 意味が違う! って、なんで競馬用語?」
「細かいことは気にしなくていいの! フーカ君が察してくれれば、言葉なんて、
ダメだ。マイさんを相手にしていると、疲労が増すばかりだ……。
「おぉ、フーカ殿、気付かれたか」
レオちゃん王が現れ、気遣われてしまった。
「レオちゃん王、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「「ブフォッ!」」
マイさんとカーヤさんが吹き出し、笑い転げ、レオちゃん王はしかめっ面をする。
僕は状況が把握できずに、キョトンとしてしまう。
「フーカ殿、マイが悪いことは分かっている。だが、わしはレオパルトだ。せめて、レオと呼んでくれ」
「申し訳ありません。レオさんと呼ばせていただきます!」
僕は直立し、深く頭を下げて謝罪した。
「そうしてくれると、わしも助かる」
レオさんはそう言うと、笑い転げている二人を睨みつける。
「お、お父様、ごめんなさい。で、でも、レオちゃん王って……アハハハハ」
カーヤさんのツボに入ったらしい。
「カ、カーヤちゃん、家臣たちに……レオちゃん陛下って呼ばせてみたら……ブハッ」
「ブフォッ!」
カーヤさんは、さらに吹き出し、お腹を抱えてうずくまる。
「マイ! お前は、もう、しゃべるな!」
二人の大笑いに、彼は顔を赤らめ、苦悶する。
「フーカ殿、向こうで話そう。こいつらがいると、真面目な話が出来ん!」
「はい」
僕は彼と大きなテーブルまで行き、彼の向かい側に座る。
真面目な話しということだったので、イーリスさんも呼んだ。
彼女が席につくと、三人で話しを始める。
内容は、ユナハ国建国後の話しだった。
ガイハンク国はユナハ国と同盟を結ぶことを約束し、カーディア帝国と戦火が開くことになれば、援護してくれることになった。
これで、ガイハンク、リンスバック、ユナハの三か所でカーディア帝国を包囲できる。
問題は敵に回るであろう周辺国の動向だけとなった。
また、リンスバックからの帝都進軍を容易にするためにリンスバックと帝都を結ぶトンネルを帝国側に気付かれないように直してほしいと頼み、ついでに、ユナハに技術者を派遣し、土木技術を教えて欲ししいことも頼んだ。
しかし、土木工事をしてはくれるが、技術を教えるのは渋られる。
途中から、ヒーちゃんも話しに参加し、パソコンで日本のトンネル施工方法を見せたりした。
レオさんはシールド機に興味を持ったり鉄筋コンクリートに興味を持ったりと興奮しまくる。
さっきまで、渋っていた技術提供も日本の土木技術を教えることで難なく解決してしまった。
そして、ドワーフなら鍛冶が得意だろうと、ヒーちゃんに頼んで工業関係の動画を見せたところ、当たりだった。
ガイハンク国は金属や機械を中心とした工業が得意のようだ。
僕は、彼に贈り物として、工具セットを渡す。
すると、感極まったのか、レオさんは涙を流して喜んだ。
さすがに、ミニ工具セットで泣かれると、僕とヒーちゃんは心苦しかった。
彼に、この工具を量産できるようになったら、進呈するとまで言われ、僕たちはさらに心苦しくなる。
その後も話し合いは続き、政治面や交易関係はイーリスさんが全てまとめてくれた。
条約などの署名は、僕のサインでもいいということなので、僕がサインをする。
僕が出来る範囲のガイハンク国との交渉は終わった。
後はのんびりと出来る。
明日にはここを発ち、リンスバックで一泊してからユナハに戻ることになるだろう。
「気になっていたんですけど、レオさんとマイさんはどんな経緯で知り合ったんですか?」
レオさんは眉をひそめ、少し迷ってから話し出す。
「わしの娘、そこにいるカーヤが、闇ギルドにさらわれてな……。カーヤを取り返すため密かに人員を集めたら、マイ、ミリヤ殿の母のエイヤ、父のアノ、その他にも数人が集まったのだ。そのメンバーでパーティーを組み、闇ギルドを襲撃してカーヤを救出したのだが……。その頃から、マイは、我が国に来てはどんちゃん騒ぎ、暇が出来ると訪れ、何かとやらかし、責任を追及される前に国外逃亡。だが、カーヤがマイを母親のように慕うものだから、疎遠にすることもできない。そんな仲だ」
彼は言い終わると溜息を吐き、仲良くじゃれあってるマイさんとカーヤさんを見つめて、苦笑する。
「うちの親戚が、申し訳ありません」
僕は深く謝罪する。
「かまわん。いちいちマイのことで謝っていたら、お互いに身が持たんぞ。アレのことは天災とでも思って気にせんことだ。ハッハッハ」
彼は笑って済ましてくれた。
一見、怖そうなのだが、陽気なお爺さんって感じで、とても好感を抱ける。
ん? 天災って……マイさんはドラゴン扱いなのか……。
僕は苦笑するしかなかった。
「そう言えば、ミリヤ殿。今、ご両親が、この国に滞在していると報告を受けておる。会っていくのなら呼ぶが、どうする?」
「マイ様も居るというのに、あの二人まで呼ぶと、とても面倒くさくなるのが目に見えているので、ご遠慮します」
彼女はキッパリと断った。
「そ、そうか……。まあ、そうだな……。エイヤはエルの性格を濃く引いているからな……」
彼は苦笑し、ミリヤさんを見つめると、彼女も苦笑して返し、二人で深い溜息をついた。
僕は会ってみたいと思ったのだが、二人の表情を見て、その思いを改めた。
そんな僕たちのもとに、カーヤさんが来る。
「お父様、少し前にユナハから届いた物についての確認はしたのですか?」
「おっ、忘れておった。カーヤ、持ってきてくれ」
「はい」
彼女は棚の開き戸を開け、貴重な物を持つように何かを手に取ると、こちらへと戻って来る。
彼女が丁寧な手つきでテーブルに青い布を広げていく。
その布が広げられていくにつれて、僕たちの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「これなのだが、本当に新国家の国旗なのか?」
「「は、はい……」」
僕とイーリスさんは、小声で歯切れ悪く答える。
「そ、そうか……。あまりにもふざけたデザイン……これは失敬。変わったデザインの国旗だったので、真偽のほどが知りたかったのだ。……本当に、この国旗でいいのか?」
レオさんは眉をひそめ、最後に声を落として聞いてきた。
「マイさんがやらかしたことで、すでに取り返しのつかない状態です」
「なっ、マイが……。こんなことしか言えんが、ガンバレ!」
「はい」
彼は天を仰いで「この世は不条理か」とつぶやく。
僕たちはマイさんを見つめる。
こちらの視線に気付いた彼女は、科を作り、もじもじと恥ずかしがる。
「「「「「……」」」」」
僕、レオさん、カーヤさん、イーリスさん、ヒーちゃんの五人は溜息をつき、肩を落とすのだった。
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