第47話 ペスとアスール

 僕はリンスバック港湾都市国に向かうため、ワイバーンの離着陸場にいた。

 これから向かうというのに少々問題が起きている。

 ペスが拗ねていて準備が進まないのだ。


 「ペス、ごめんよ。機嫌を直してよ」


 プイ。


 僕と目を合わせようともせず、横を向いてしまう。

 僕たちを見送りに来たシャルたちまで、どうしたものかと困惑する。

 僕は、ペスの視界に入る位置に移動した。


 プイ。


 僕とは反対側を向いてしまう。


 「フーカさん、ペスに何をしたんですか?」


 シャルは、問題児でも見るかのような視線を僕に向ける。


 「アルセから帰る時、アスールさんに乗ったのが気に入らなかったらしいんだ」


 「な、なるほど……」


 彼女は困った表情を浮かべた。

 僕たちは、ペスの機嫌をどう取ったらいいのか悩む。

 ジーナさんも、彼女の顔をなでながら話しかけてはいるけど、ペスの機嫌は直りそうにない。




 「なんだ! まだ、出発していないのか?」


 僕たちが困惑しているところに、アスールさんが現れた。


 ギロッ。


 ペスが彼女を睨みつけた。

 嫌な予感がする……。


 「なっ、なんだ、この小娘は!? 古竜であるわしを睨みつけるとはいい度胸だ!」


 彼女はペスを睨み返し、二頭? 一人と一頭? の視線がバチバチとぶつかる。

 ケイトは、アスールさんのそばに行き、小声で事情を説明した。

 すると、アスールさんは顔をニンマリとさせて、ペスに近付く。


 「ほーう。フーカをわしに取られて嫉妬しているのか。そうか、そうか」


 彼女はドヤ顔でペスの鼻先をペチペチと軽く叩く。


 「ガルッルル!」


 「なっ! 行き遅れだと! ……フンッ。何とでも言え、わしはもう行き遅れではないからな。なにせ、わしはフーカの婚約者だからな! アハハハハ」


 彼女の発言に、ペスとジーナさんが目を丸くして僕を見る。

 そして、その目は徐々に浮気常習者でも見る様な嫌悪の目つきへと変化していく。

 そ、そんな目で見ないで……クスン。

 落ち込んだ僕の肩にイーリスさんが手を回してくれたので、彼女を見ると、その顔は慰めではなく、自業自得だと言わんばかりの表情だった。


 「まあ、小娘。ペスと言ったか? お主の見る目は確かだが、お主ではわしの魅力には勝てんから、諦めろ! アハハハハ」


 アスールさんはとても上機嫌だ。


 カプッ。


 「……」


 「「「「「!!!」」」」」


 アスールさんの上半身がペスの口の中へ……。

 彼女の悲鳴は聞こえない。僕たちは衝撃が強すぎて、驚いていいのかどうしていいのか分からず、オロオロしてしまう。


 モニュモニュモニュ。ペッ。


 吐き出されたアスールさんの長く青い髪は、唾液でベトベトになり、無言のまま、四つん這いになっていた。

 彼女の上半身からは唾液が垂れ、地面を光らせる。

 今までのカプられた者たちとは違いアスールさんはドラゴンだ。

 僕たちには、恐怖ともいえる緊張感が走った。

 もし、激怒したアスールさんがドラゴンに変わってブレスを吐いたなら、ユナハ市が氷漬けにされてしまう……。


 「ドラゴンがワイバーンにカプられる光景を見れるなんて、えーと……ってやつですね!」


 レイリアは彼女のブレスの威力を見ていないから、そんなことを言えるのか? それとも、空気が読めていないのだろうか? 分からん……。


 「フーカ様、フーカ様。スクープをバッチリと動画で撮影できましたよ! これが日本なら『いいね!』がもらえて、視聴者数も獲得でき、きっと、バズったのに残念ですね!」


 ケイトはカメラを手に持ち、僕にドヤ顔を向ける。

 ここにもおかしなのがいた……。

 ん? 『いいね!』? 視聴者数? バズった? 誰がそんなことを教えた!

 僕はオルガさんに視線を向ける。

 だが、彼女はブンブンと大きく首を横に振り、否定した。

 オルガさんじゃない……?

 僕の視界の端に、狼狽ろうばいしているヒーちゃんが飛び込む。

 犯人は分かったが、彼女を見ながら、どんな態度をとったらいいのか困惑していると、オルガさんがジト目で見つめてくる。

 うっ、心苦しい。でも、どうしていいのか分からない……。何故、僕がこんな生き地獄な状態に陥っているんだ……。

 僕は、オルガさんに両手を合わせて、何度も頭を下げると、彼女はドヤ顔で、ニンマリとした笑みを返してきた。

 く、悔しい……。




 ところで、アスールさんはどうなったのだろう?

 彼女に目を向けると、まだ四つん這いのままだった。

 やっぱり、激怒しているのだろうか?

 彼女がノソッと立ち上がる。

 身体の唾液がダラリと糸を引いて垂れる姿は、まるで妖怪かモンスターだった。

 その姿に、僕たちの背筋には冷たいものが走り、少しのけぞる。

 ただ、ケイトは、僕の横でカメラを構え、撮影を続けていた。

 何故だろう? 僕とケイトとのこの感覚の差に、何とも言えぬ違和感を感じる。


 「貴様ー! よくもこのわしにこんな真似をしてくれたな!」


 アスールさんは顔を真っ赤にした。

 やっぱり、怒ってる。どうか、ブレスを吐きませんように! 

 僕は祈る。

 だが、神様が椿ちゃんだということを思い出し、祈る価値があるのかと疑問を抱き、げんなりする。


 「ガルグルガルルガルグルル」


 「何を言っておる! 何がフーカ様は私のパートナーだ! 貴様のパートナーは、そこにいるジーナであろう!」


 アスールさんは少し呆れ気味に怒鳴る。

 その言葉を聞いたジーナさんがウルウルしながら、立ち尽くす。

 彼女にとってはショックだと思うが、巻き込まれ事故にあっている僕も他人事ではない。


 「ガル?」


 ペスは首をかしげながらジーナさんを見た。

 何か悩んでいる様に見える。


 「ガルル? グルル?」


 彼女は、下や上を向いて何かを悩んでいるように見える。

 その姿を見ているジーナさんは、歯を食いしばるような表情で、フルフルと身体を震わせていた。

 さすがにこれはキツイよと思っていると、皆の視線が僕に集まっている。

 その目は揃ってジト目であった。

 勘弁してくれー!


 「ガルルルルー!」


 ペスは喜んでいるような声を上げると、ジーナさんに頭をこすりつけた。

 自分のパートナーが誰なのかを再認識できたようだ。

 良かった。


 ゴツン。


 ジーナさんがペスの鼻先に拳骨を落とした。


 「「「「「!!!」」」」」


 えー、丸く収まると思ったのに何してんの……?


 「ガル」


 ペスがしょんぼりとする。


 「ペースー! 私の存在を忘れていただけでなく、私とフーカ様のどちらがパートナーかを悩んでましたよね!?」


 ジーナさんが凄い形相をしている。

 ペスは大きな身体をビクッとさせると、後退して縮こまってしまう。

 何だか主人に叱られている犬のようだ。

 ジーナさんが震えていたのは、怒りを抑え込んでいたのだと、この時に分かった。

 だけど、なんでアスールさんも僕の背中に隠れるようにして怯えているんだ?


 「ガルグルルガルガル」


 ペスがこちらに向かって叫んでいるのだが、僕には分からない。


 「ジーナ、ペスはお主のことを主従関係で見ておらん。母親や姉のような存在。つまり、家族だと思っていたのだ。だから、パートナーと言われてピンとこなかったのだ。わしからも頼む。ペスを許してやってくれ!」


 僕の背後からひょっこりと顔を出したアスールさんは、ペスの代弁をするどころか擁護ようごをする。

 僕たちは、彼女の豹変ぶりに唖然とする。


 「えーと、あのー。アスール様に頼まれてしまっては、私はペスを許すしかありません。それにペスが私を家族だと思ってくれていたことを知って、とても嬉しいので、もう許しています」


 「うむ。ペス、良かったな!」


 ジーナさんの言葉にペスとアスールさんが、ホッとしたように喜ぶ。


 「ガルルルルー!」


 ペスはジーナさんに頭をこすりつけると、翼を広げたり、尾を振って喜びを表現する。

 すると、ジーナさんも満面の笑みを浮かべて、彼女の鼻先をなでる。

 丸く収まってよかった。




 「それはそうと、アスールさんは、なんで、ジーナさんにビビッてたの?」


 「うっ。そ、それは……。ジーナが竜騎兵の素質を持っているから、あやつが怒ったので、わしも反射的に叱られると思ってしまったのだ」


 「「「「「えっ? えぇぇぇー!」」」」」


 僕たちは仰天した。

 ジーナさん自身も目をぱちくりとさせている。

 そして、彼女を飛竜兵たちが尊敬の眼差しで見つめていた。


 「ねえ、シャル。竜騎兵の素質って凄いんじゃないの?」


 「凄いどころじゃないです。一国に一人いるだけでも、それはもう、大変なことです!」

 

 シャルは驚愕の事実に目を見開いたままだ。


 「ジーナさん、凄いね! 超レアキャラだったんだね!」


 「「「「「ちょうれあきゃら?」」」」」


 ジーナさんと皆が、眉をひそめて僕を見る。


 「えーと、選ばれた人材っていうか、めったにお目にかかれない人物ってこと」


 皆は納得しきれていないような表情だったが、この場は流してくれた。


 「あ、ありがとうございます。ですが、私にはペスがいるので、飛竜兵のままですけどね!」


 「「「「「……」」」」」


 ジーナさんの言葉を聞いて、皆の顔が暗くなった。

 ペスがいるんだし、それは仕方ないよね。




 「ところで、出発の予定時刻からだいぶ経っていますけど、大丈夫ですか?」


 アンさんが、恐縮きょうしゅくそうに言い出した。


 「そうだった! 急いで準備しないと!」


 僕はバタバタと準備に取り掛かる。

 そして、同行するメンバーも忙しく動き始めた。


 「ケイトさん、これをあげます。ケイトさんを護ってくれるので、常に持っていて下さい」


 ヒーちゃんはケイトに駆け寄ると、僕の持っている扇子と同じ物を渡した。

 

 「これは……。ヒサメ様、こんな貴重なも物、私なんかが頂けません」


 彼女は扇子を見て驚き、拒んだ。


 「皆さんから、ケイトさんの事情を勝手に聴いてしまいました。ごめんなさい。でも、事情を知ってしまった以上は見過ごせません。ですから、受け取ってください。ケイトさんに悪意を向ける者は、椿様の加護がぶっ飛ばしてくれます」


 ヒーちゃんはニッコリと笑って渡すが、その扇子の威力は、結構、物騒なんだよね。

 その証拠に、威力を知っているレイリアたちの顔も引きつってるよ。

 でも、留守番のケイトを、あの貴族共から護ってくれるなら、彼女にはちょうどいい。


 「ヒサメ様、ありがとうございます」


 彼女は扇子をギュッと握りしめると、深く頭を下げ、お礼を述べた。


 そんな二人のそばをアンさんがウロチョロと行ったり来たりとしている。

 そう言えば、アンさんは、扇子に描かれた狐のイラストがお気に入りだった……。


 「ヒーちゃん、その扇子は、まだ余分にあるの?」


 「はい、あります。でも、フー君は持っていますよね?」


 彼女は不思議そうに僕を見つめる。


 「僕が欲しいんじゃなくて、アンさんが扇子に描かれた狐のイラストのファンなんだよ。だから、アンさんにも渡して欲しいなと」


 「そういうことですか。分かりました。アンさん!」


 彼女が呼ぶと、アンさんは、シュバッと一秒もかからずに現れた。

 ヒーちゃんは、さすがに驚いて一歩下がる。


 「あの、こ、これをどうぞ……」


 「ヒサメ様! ありがとうございます!」


 アンさんは扇子を受け取ると、大きな声でお礼を言い、何度も深く頭を下げた。

 そして、陽気な鼻歌交じりで扇子を広げると、狐のイラストに見惚れだす。

 その様子に僕とヒーちゃんは苦笑するしかなかった。




 準備が整うと、僕とイーリスさんがペスに乗り、ヒーちゃんとミリヤさんがもう一頭に乗った。

 そして、アスールさんがドラゴンへと変わる。

 ペスが翼を広げ、少し助走をつけると、翼を羽ばたかせて飛び立つ。

 その後には、もう一頭とアスールさんが続く。

 ペスたちがユナハ城を旋回して、高度を上げていくと、下では、シャルたちが白いハンカチを振って見送っていた。

 見送りの時に、白いハンカチを振るのが定着してしまっている……。


 ペスは、ある程度の高度まで上がると、リンスバック港湾都市国に向かって飛ぶ。

 前方には山脈がそびえたち、右前方には、この前、行ったばかりのウル湖が見えた。


 しばらく飛び続けていると、ジーナさんがこちらを振り返る。


 「ウル湖には行ったんですよね」


 「うん、ちょうどあの辺りで炭酸水の湧水を見つけて、その少し先のところでアスールさんと出会って、美肌効果がある炭酸の温泉を見つけたんだ。簡単な造りの露天風呂もあるから、今度、入りに行くといいよ!」


 僕は指でウル湖を指差して説明した。


 「美肌効果ですか。今度、是非、行ってみます!」


 「ジーナ! その時は、私も誘って下さい!」


 イーリスさんが僕にのしかかるように、ジーナさんへ声を掛ける。


 「分かりました。行くときはお誘いします」


 「ありがとう。お願いね」


 彼女の返答にイーリスさんは嬉しそうにする。

 女性って、美容関係が本当に好きだな。


 「ペス、ジーナ、わしの結界の中へ入れ。山脈越えがあるし、時間も短縮した方がいいだろう」


 「はい、アスール様。お願いします」


 ガルルルル。


 ペスとジーナさんが返事をすると、アスールさんが先導を始めた。

 アスールさんに乗っていた時よりもペスに乗っている時のほうが、ドラゴンの速度がどれだけ早いかが実感できた。




 ウル村が近付いてくる。


 「ん? ペス、ジーナ。先に行っておれ。わしは少し離れる」


 アスールさんは、そう言うと、ウル湖の死の領域に向かって急降下していく。

 彼女が離れたことで、ペスの速度は一気に落ちる。

 アスールさんは、何をしに行ったのだろう?


 「あれ? アスールさんは一緒に来てるけど、国に帰らないのかな?」


 「おそらく、リンスバック港湾都市国の首都リンスバック市まで私たちを送ってから、その足で帰るつもりだと思います」


 僕の疑問に、イーリスさんが答えてくれた。

 なるほど。温泉調査の時も何かと手伝ってくれていたし、アスールさんは面倒見の良い性格なのかもしれない。


 シュナ山脈が近付いてくる。

 上空から見ると、山脈がユナハ、カーディア、リンスバックを分断するように三つ又に分かれていた。

 ユナハ市と帝都はワイバーンなら、山脈を超えられるから、たいして遠くないのか。 


 「ワイバーンで行けば帝都とユナハは近いんだね」


 「ええ、そうですが、山脈越えは天候が不安定なので、経験を積んだ飛竜兵がいないと危険なんです。悪天候になったら、ワイバーンの降りれる場所を探して、天候の回復を待たなくてはなませんし、その待機中は、獣や魔獣、場所によっては盗賊も警戒しなければなりません。ですから、普段は山脈を回避するか、わりと天候の安定した場所を越えるんです」


 「そうなんだ。ん? これから山脈越えをするんだよね……」


 「フフフ。大丈夫ですよ。ジーナはもちろんのこと、アルセの飛竜部隊は、国内で最も優秀ですから問題ありません。えーと、フーカ様の世界だと、パソコンで空のエリート部隊と言っていた……とっぷがん? あぐれっさー部隊? みたいなものです。それに、フーカ様はジーナ隊に、ぶるーいんぱるす? のようなことをさせたいと言っていたではないですか。彼女たちを信じてあげて下さい。」


 イーリスさんは振り返っている僕に微笑む。


 「アスール様もいるから大丈夫ですよ」


 ジーナさんが振り返って念を押してきた。

 本人の前で失礼な事を言ってしまった……。


 「待たせたな!」


 アスールさんが戻ってきた。


 「何しに行ったの?」


 「ペスの唾液を洗い流しに行っていただけだ」


 アスールさんが答えると、僕たちは自然と嫌そうな目をしてしまった。


 「そんな目をするな! 洗ってきたのだから汚くないぞ! 臭いも落ちたし、今はピカピカだ!」


 彼女は必死になって主張する。


 「ガルル」


 「謝るでない。もう済んだことだ。気にしておらん」


 ペスはアスールさんをカプった事を謝ったらしい。

 アスールさんって、豪放磊落ごうほうらいらくなんだよね。


 アスールさんが戻ったことで、再び速度が上がる。

 山脈には雲がかかっているが、彼女は気にもかけずに突き進む。僕たちは彼女の後ろに付いて行くだけで、難なく山脈を越えてしまった。

 山脈越えは危険だと聞いていたのに、あっさりと越えてしまって、拍子抜けだ。

 そして、山脈を越えた先には、まだ遠いが海が見え、右手には、山脈が並行して続く。

 

 「遠くに見える海が東海で、右に連なっている山脈がルース山脈です。この山脈に沿って進むと、目的地のリンスバック市があります」


 イーリスさんがガイドをしてくれる。

 雫姉ちゃんの名前がついている山脈なんだ。


 「そろそろ、リンスバック市が見えてくるぞ。わしはこの辺で別れて、国に戻ることにする。すぐに戻るが、フーカ、お主らも達者でな!」


 アスールさんが声を掛けてくる。


 「アスールさん、ありがとう! 必ず帰ってきてね!」


 「うむ。嫁入り道具も持って、すぐに戻ってくるから安心せい。ただ、大所帯で訪ねるかもしれんが、大目に見てくれ!」


 彼女が、何だか不吉なことを言った気がする……。

 後ろにいる飛竜兵にジーナさんが手信号を送ると、ヒーちゃんとミリヤさんの乗るワイバーンがアスールさんに近付く。

 そして、皆も彼女との別れの挨拶を済ませた。


 「ペス、フーカたちのことを頼むぞ。では、さらばだ!」


 「ガルル! ガルルガルグルルルルル。ガルッルガル。ガルガル、ガルルルグル」


 アスールさんが最後の言葉を掛けると、ペスが何やら長く叫ぶ。


 「うむ。なるほど。そうだな! そうしよう!」


 「「「「「???」」」」」


 僕たちには、二人の会話が分からない。


 「アスールさん、ペスは何て?」


 「わしとペスが揉めた原因は、レクラム領領主がアルセに軍を進行させたのが悪い。そして、領主と手を組んでいる帝国宰相の一族が手引きしていたかもしれん。だから、帝都、ボイテルロック領首都、レクラム領首都を帰り際に少し脅して帰ることにする。ペスよ、わしらを仲違いさせた報いは晴らす。お主はフーカたちを護るのだぞ!」


 「ガル!」


 「うむ。良い返事だ! では、今度こそさらばだ!」


 アスールさんはペスと勝手に話しを進めた挙句、僕たちには何も意見を求めずに、帝都の方角へと飛び去ってしまった。


 「待って!!! 待ってー! アスールさーん!!!」

 「「アスール様!!! お待ち下さい!」」」


 僕の声も、イーリスさんとミリヤさんの声も、彼女には届かなかった。

 ジーナさんは、青ざめた顔でペスを叱る。

 しかし、ペスは、私は悪くないと言わんばかりの堂々とした表情で澄ましていた。


 僕は、青ざめてうなだれる。

 僕の背中には、イーリスさんのうなだれた頭が乗せられた。

 あー。また、おおごとに巻き込まれる……。

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