第26話 神鏡がない!?
マイさんの登場で、嵐に見舞われた僕たちだったが、まだ、何も進んでいない。
何故なら、領主のエンシオさんとは、何も話していないからだ。
「ところで、あなた。いつまでも崩れ落ちていないで、ここに神鏡がない話しを進めなくてもいいの?」
「「「「「…………」」」」」
マイさんの言葉に、誰もが言葉を失った。
僕たちは、もう限界です。
シャルは、フルフルと身体を震わせてのびてしまうし、イーリスさんは座ったまま卒倒している。
ミリヤさんですら僕に倒れ込み、気を失い、他の皆も、気力を一気に削られ、グテーとする。
アンさんだけが、マイさんの両肩に手を置き、笑みを浮かべていた。
「マイ様も疲れたでしょう。
マイさんの顔が一瞬で青ざめる。
「えーと、アンちゃん私は大丈夫よ! イタタタタ。ちょっと、私は悪く、うっ、イタタタタ。何で私が、い、痛い! ゆ、ゆるして……ぎゃぁぁぁー」
彼女の断末魔が室内に響く。
そして、それがおさまると、部屋はシーンと静かになった。
その後、休憩を挟んだこともあって皆も落ち着いた。
そろそろ、何故、ユナハに神鏡がないのかを、聞かなければならない。
皆の様子からして、ここは僕が聞くべきだろう。
「コホン。エンシオさん、ユナハに神鏡がない事情を教えて下さい」
皆も僕がエンシオさんに質問したことで、皆の顔が引き締まる。
「いらないから!」
横からマイさんが答えた。
せっかく、引き締まった皆の顔が、引きつった顔へと変化する。
「……。えーと、なぜ、いらなくなったんですか?」
「大きくて邪魔だから!」
マイさんのことをハリセンでひっぱたきたい。
「でも、ユナハにも必要だったのでは?」
「えー、なんで? 私たちが持っていても使えないし、大きいだけで何の役にも立たないんだから、あんなものはポイよ、ポイ!」
もう、限界です。
「アンさん、お願いします」
「はい、フーカ様」
アンさんは、マイさんの肩をがっしりと掴む。
「ちょっと待って! フーカ君、ちゃんと話します。話しますから、アンちゃんを止めて! ちょっとからかっただけよ」
そのからかってくるのをやめて欲しいんだけど……。
僕がアンさんに目配せをすると、彼女は手を離し、スーと一歩下がる。
「では、何で捨てたんですか?」
「捨ててないわよ」
「えっ?」
ポイって言ったよね、ポイって……。
この人、姉ちゃんたちよりも
面倒くさい……。
「叔母様! それで、神鏡をどうしたんですか!」
しびれを切らしたシャルが、目くじらをたてて怒鳴る。
「もう、女の子がそんな顔をしないの! もっと、こう、お
くだらないことで首を傾げるマイさんに、シャルがフルフルしだした。
「アン!!!」
「はい、シャル様」
「ま、待って、今から話すんだから! 待って!」
疲れるし、話が進まない。
マイさんは、お茶を一口飲むと、テーブルに置いた。
「私の知る真相をお話ししましょう」
私の知るって……、真相って……、ツッコんだら負けだ!
シャルとアンさんの顔は引きつっている。
二人も相当我慢していることが伝わる。
それよりも、エンシオさんは、ただポツンと座って傍観しているだけって、あなたは、領主でしょ?
イーリスさんから聞かされている印象とは全然違うんだけど……。
「木枠で梱包して封印しました! フーカ君、君がユナハの神鏡から出て来てたら、今頃は干からびていたことでしょう!」
マイさんは、ビシッと僕を指差す。
そんな演出しなくていい!
それよりも干からびてたって……怖いよ。
「それで、どこにしまったんですか?」
シャルは、少し冷静さを取り戻せたみたいだ。
「知らなーい!」
ブチッ。
ダメだった……。
シャルの顔が凄い形相に変わっていくと、イーリスさんが、すぐに彼女の身体を抑える。
何か突き刺さる視線を感じ、顔を上げると、アンさんがやっていいですよねと命令を催促する目配せをしてきた。
僕は首を横に振り、待つように合図を出すと、不服そうな顔をされてしまった。
神鏡がどうなったのか、どこにあるのかを聞くだけなのに、何でこんなにも疲れるはめに……。
「梱包された神鏡を、私がウルス聖教中央教会に送った。手元にあっても、欲しがる帝都貴族からせがまれるだけだったのでな。まさか、必要になるとは思わなかった。すまない」
エンシオさんが答え、頭を下げた。
「あーあ、言っちゃった。もう少し楽しめたのに!」
マイさんの言葉に、皆の顔が引きつる。
「とりあえず、今日は、シャルたちも疲れているだろう。部屋を用意させるので休んでくれ」
エンシオさんはそう言うと、僕たちの部屋の手配をしてくれる。
窓の外は、暗く、風雨となっていた。
僕たちは、用意された各部屋へと散っていく。
さすがに、今日は、皆が僕の部屋に集まることはなかった。
それだけ色々な意味で疲労が出たのだろう。
そして、その日を終えることとなった。
余談だが、僕だけがアンさんと同室になったのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
朝、目が覚めると、僕は光を部屋に入れるため、カーテンを開ける。
外は、昨日の天気が嘘のように、雲一つない晴天だった。
隣のベッドで寝ていたアンさんは、すでにいない。
もう、仕事を始めているのだろう。
勝手に着替えると、叱られるのだが、アンさんがいないのだから仕方がない。
そう理由をつけて、サッサと着替える。
最後にベストを着て、着替えを終えた。
以前、矢が刺さって破けた箇所は、アンさんが直してくれていた。
その
前よりもカッコよくなった気がして、気に入っている。
少しの間、アンさんを待っていたが、戻って来る気配がないので、最近の日課のシリウスとの稽古のため、木剣を持って彼の部屋へ向かった。
途中、擦れ違った警備兵に、シリウスの部屋の場所を尋ねると、レイリアとジーナさんを含めた三人で訓練場に向かった事を教えてくれた。
しかし、僕は訓練場の場所を知らなかったので、その警備兵が案内をしくれることとなった。
訓練場まで来ると、警備兵は、敬礼をして立ち去っていく。
僕は彼の去り際にお礼を述べると、彼は軽く頭を下げる。
訓練場は、ワイバーンの厩舎の反対側にあたる城の脇に位置していた。
さっそく、訓練場の中に入ると、三人の姿はすぐに見つかった。
「シリウス、レイリア、ジーナさん、僕も混ぜて!」
三人に駆け寄ると、彼らは笑顔で受け入れてくれる。
最初は、シリウスを相手に打ち込みの練習をし、次に、レイリアと組手をおこなった。
以前、シリウスにも言われたが、彼女から見ても、僕の剣道のスタイルは変則に感じるそうだ。
しかし、僕が弱すぎるために、何の意味も成していなかった。
彼女の一撃は、はじくだけでも手がしびれ、何度も木剣を落としてしまう。
彼女との決闘はなんだったのだろうかと思うほどに負かされた。
「私は、何故、フーカ様に負けたのでしょう?」
レイリアがポツリとはいた言葉に、僕とシリウスは苦笑するしかなかった。
「フーカ様、レイリア様に勝ったことがあるんですか!」
ジーナさんが食いついてきた。
「まぐれと奇跡と幸運と神の思し召しが重なっただけです」
僕の返事に、レイリアとシリウスが苦笑する。
「フーカ様、私と組手をして下さい!」
ジーナさんは、目を輝かせて頼んでくる。
彼女は、僕の返事を聞いていたのだろうか……。
「でも、レイリアとの組手で握力が……」
「なら、
断るための言い訳が、何も武器を持たない方向に向かってしまった。
それも、ジーナさんが自身のある方向へ……。
こっちの体術って、近接格闘なのかな?
とにかく、断ろう。
「では、危なくないと思ったら、私とシリウスが止めますから、二人とも思う存分やって下さい!」
レイリアは何を言っているのかな……?
これでは、断れない。
僕とジーナさんの組手が始まる。
彼女は、ボクサーのような構えを見せた。
僕は、構えなんて知らないので、腕で防御ができるようにして、その場に棒立ちだ。
彼女が殴りかかってきたので、身体を横に向けてかわしながら、彼女の手首を掴み、肘に手をあてて、彼女を投げ飛ばす。
彼女はひっくり返ったまま、きょとんとしている。
レイリアとシリウスもきょとんとしている。
ジーナさんは、立ち上がって再び襲ってきた。
僕に掴みかかってくる彼女を、再び似たような要領で投げ飛ばす。
三人がきょとんとする。
そんな事を、何度か繰り返した。
「ま、参りました」
ジーナさんは、目を
「フーカ様は、徒手が得意だったんですか?」
レイリアも目を爛々とさせている。
「いや、爺ちゃんから教わっただけで、得意とかじゃないんだけど、日本ではよく絡まれてたから、使う頻度が高かっただけかな」
何だろう、三人の目が僕を憐れんでいるように見える……。
「そうですか。大変だったんですね。このあと、ウルス聖教国へ行く予定を話し合うことになるでしょうし、今日は、あがりましょう」
レイリアは、心のこもってない言い方で締めくくると、後片付けを始める。
僕たちも手伝い、四人で訓練場を後にする。
四人で廊下を歩いていると、騒いでいる連中がいるので、壁に隠れるようにして覗いてみる。
そこにいたのは、ケイトと二人の若い男だった。
二人の男は服装から貴族のようだ。
一人は、カールのかかった金髪を後ろで束ね、でっぷりとした体型で目つきが悪く、頬が垂れている顔をしていた。
もう一人は、ストレートの灰色の髪を後ろで束ね、ひょろっとした痩せ型でいやらしい顔つきが印象的だ。
「これはこれは、テネル様。ユナハにお戻りでしたか。噂では、研究室を閉鎖されても皇女殿下にしがみついていらっしゃるそうですな。何でも、皇女殿下の弱みを握っているそうではないですか。我々にも教えて欲しいものですな。なあ、マシュー」
「そうですな。まあ、商人ふぜいが皇女殿下のお抱えになるには、それくらいの悪知恵を働かさなければならないのでしょう」
二人は、ニヤニヤしながらケイトを
「私は、そんなことはしていませんし、その発言は、皇女殿下に対しても非礼だと思われます」
何だろう、いつものケイトらしくない気がする。
「お前が皇女殿下の弱みを握っていないというのなら、今夜、我々が特別に、お前を取り調べてやろう。あとで使いの者を送るから、しっかりと身体を洗っておくのだぞ!」
マシューと呼ばれていたやつが、ケイトの身体を品定めでもするように見回すと、とんでもないことを言い出した。
「いえ、私は……」
ケイトは下を向いて、青ざめてしまう。
「あいつら誰?」
僕が振り返ると、彼らを見る三人の目が血走っている。
「金髪が、チャド・フォン・アドラムで、灰色の髪が、マシュー・フォン・ベイツですね。どちらも子爵家の子息です」
シリウスが淡々と答える。
それが、異様に怖かった。
「あの二人は貴族主義者で有名らしいです。貴族主義を掲げてる連中は、
ジーナさんは身体を震わせ、嫌悪感をあらわにしている。
「ケイトも魔法の一つでもくらわせればいいのに、何を怯えてるの?」
「おそらく、お父さんの商売や家族に飛び火することを恐れているのでしょう。これ以上は見ていられません」
レイリアが飛び出そうとするので、彼女の身体を押さえる。
「僕がいくよ! ケイトが
「それは、また、えげつないことを……。それよりも、私の胸をいつまで掴んでるんですか!」
レイリアが顔を真っ赤にして言うまで、気が付かなかった。
急いで手を放したが、ジーナさんの視線は冷たく、シリウスは苦笑して知らぬふりをする。
僕は、ベストと木剣をシリウスに渡し、ケイトたちのもとへと走った。
「ケーイートー!」
彼女にギュウっとしがみつくと、少し体が震えていた。
「フ、フーカ様、何でここに?」
彼女は驚きを隠せないでいる。
「ケイトが、変な奴らに絡まれてるから助けに来たんだよ!」
マシューとチャドがムッとした顔を見せる。
「おい、貴様! 変な奴らとは我々のことか! 貴族に対してのその暴言は見過ごせぬぞ!」
マシューというのは、やたらと貴族をふりかざしてくるな。
「貴族だろうが、王族だろうが、一人の女性を男が二人がかりでいじめていれば、変な奴らか変態の他に何がある! 三文字で答えろ!」
「そんなこと、知るか! 使用人の分際で口答えとは、分かっているのだろうな!」
チャドが顔を真っ赤にして、怒鳴ってくる。僕の事を使用人だと思っているのか。
「ち、か、んというんだ。お前たちは痴漢だ! 女の敵だ! 今から子爵じゃなく、
「「キサマー!!!」」
二人が激怒した。
「ブフッ」と後ろから吹き出す声が聞こえた。
レイリアのようだ。
「身分の違いを分からせてやる!」
チャドが僕に掴みかかって、殴ってくる。
「これは、貴族様からのありがたい指導だ!」
マシューも暴行に参加してくる。
ケイトは顔を青くして、ただ、その場に立ち尽くしていた。
彼らの僕への暴行はなかなか終わらない、殴る蹴るの繰り返しが続く。
し、しつこい……。
「この身の程知らずが! 貴族様に逆らうことの恐怖を心に刻め! ハッハッハ」
マシューは高笑いをしながら暴行を続ける。
「口先だけの小僧が、その顔のように女へ
チャドは満面の笑みで暴行を続ける。
彼らの思想はよく分かった。
そして、売春の
しかし、二人は程度というものを知らないのか、暴行が終わらない。
それどころか、夢中になりだし、激しくなってきた。
身体を小さく丸めて耐えていたが、ちょっと、ヤバいかもしれない……。
「おい、何をしている!」
シリウスの声だ。
マシューとチャドの二人は、その声を聞くや否や逃げ出す。
助かったけど、もうちょっと早く助けて欲しかった。
「フーカしゃまー、なにししぇるんですぅかー。うー。グス」
ケイトが駆け寄って号泣しながら、僕を抱えるように抱きしめる。
顔が柔らかい膨らみに包まれて嬉しいが、息苦しい。
「フーカ様、大丈夫ですか? フーカ様の徒手なら、返り討ちにできたと思うんですけど」
ジーナさんが不思議そうに、ケイトの胸の間から顔を出した僕を覗き込む。
「無抵抗な人を、それも、自分たちよりも上位の者に危害を加えたら、ただじゃすまないよね。それに、現場を見てる人が三人もいる。ムフフ」
「「えげつない!」」
ジーナさんとレイリアが声を揃えて、僕をディスった……。
「それよりも、シャルたちとこれからのことを決めないと。奴らのことは、そのあとで……そうだ、貴族たちが集まる時にでも、さらし者にしよう!」
僕がニンマリすると、ジーナさんとレイリア、シリウスの三人は、引きつり気味に苦笑いをして、僕を起こしてくれた。
そして、僕たちはケイトも連れて、エンシオさんの執務室へと向かう。
◇◇◇◇◇
僕たち五人が、エンシオさんの執務室に入ると、建国の段取りをしていたシャル、イーリスさん、エンシオさんは、僕の顔を見るなり仰天し、少しパニックを起こした。
まだ、ケイトに治癒魔法をかけてもらっていないから、顔が腫れて血がにじんでいたらしい。
この顔で訪れたのは失敗だった。
しかし、いつまでもあそこにいたら、騒ぎが大きくなり、僕の計画が台無しになってしまう。
僕は、事の成り行きを説明し、彼女たちに落ち着いてもらう。
三人は頭を抱えると、僕に謝罪をしてきた。
そこに、知らせを聞いた皆が、執務室になだれ込んでくる。
まだ、ケイトに治療されている僕を見て、皆が固まってしまう。
シャルが僕の代わりに、皆へ事の成り行きを説明してる間に、僕はケイトに治療を続けてもらった。
少しして、説明を聞き終えたミリヤさんが治療に加わり、僕は全快する。
痛いところはなくなった。
しかし、今、エンシオさんの執務室では、異様な空気が放たれていた。
皆が僕とケイトのために怒ってくれるのはうれしいけど、今は我慢して欲しい。
特に、アンさんとオルガさん、マイさんの三人が激高していて、それを止めるのにヨン君までが駆り出される始末だ……。
「あなた、ユナハを滅ぼしましょう!」
マイさんは何を言い出してるの?
「そんなことはしないで下さい。これから、建国するところを滅ぼしてしまったら、どこで建国するんですか!」
「リンスバックをあげます!」
僕は反論したが、彼女の返事に唖然としてしまう。
「嫁いだ人が、実家を差し出さないで下さい!」
プクーと彼女は膨れてしまった。
「奴らのことは、僕がなぶって楽しみ……コホン、僕がそれなりの制裁を加えるので、今は保留ということでお願いします。それと、エンシオさん、アドラム子爵家とベイツ子爵家の監視をお願いします。他の貴族主義者も網にかかるかもしれないですから」
僕は彼に頭を下げる。
「分かりました。では、貴族主義者の疑いがある家にも監視を置きましょう」
「よろしくお願いします。それと、マイさんは、ぜったいに、余計なことをしないように!」
再び、彼女はプクーと膨れてしまった。
何かをするつもりだったな……危なかったー。
これで、あとは、神鏡のことだけだ。
シャルたちと、ウルス聖教国に神鏡を返還してもらうにしても、移送には時間がかかるらしく、どうするかを相談する。
その結果、ウルス聖教国には神鏡を返還してもらいたいことを告げ、それとは別に、僕たちがエルフ領プレスディア王朝を経由して、ウルス聖教国へ入ることにした。
まずは、エルフ領プレスディア王朝でエルヴィーラ・プレスディア女王に会い、建国後に国としての承認と同盟の約束、魔道具の技術支援と共同開発を取り付けること。
次に、ウルス聖教国でダミアーノ・アゴスト教皇に会い、エルフ領プレスディア王朝と同じく、建国後に国としての承認と同盟の約束を取り付ける。
そして、ウルス聖教中央教会にある神鏡と神殿を使わせてもらう。
これが、今回の旅の目的だ。
「今回は、シリウス、イーリス、ヨン君にはユナハに残ってもらいます」
「えー、何で? シャルお姉ちゃんたちばかり楽しむ気だな! ズルいぞ!」
シャルの言葉にヨン君が反発する。
「ヨン君には、教育と勉強が必要です。里に返りたくなければ、素直に受けて下さい。これは、オルガとも相談したことです。フーカさんのそばにヨン君を置くための準備でもあるんです。分かって下さい」
「兄ちゃんのそばにいるためなら、仕方ないか……」
「では、イーリスと叔母様があなたを指導するので、二人を頼るように」
「イーリスお姉ちゃん、マイお姉様、よろしくお願いするぞ……します」
ヨン君が二人に頭を下げる。
「ちょっと、待った! ヨン君、叔母様のことをマイお姉様って呼んだわよね! それ、何?」
シャルが動揺して、ヨン君につかみかかる。
「マイお姉様が、フーカ君の親戚にあたる私のことは、マイお姉様と呼ぶことって。それが、貴族のたしなみ? だって」
シャルがマイさんを睨みつけた。
「ヨン君、変だなと感じたら、直ぐにイーリスに聞くのよ! 間違っても、叔母様みたいになったらだめだからね」
「指導係に任命しておいて、何よそれ! 少しぐらい遊んでもいいじゃない」
「ヨン君で遊ばないで下さい! 彼は、いたいけな少年なんですよ!」
マイさんに対して、シャルが顔を真っ赤にして怒り出す。
ヨン君の教育と勉強をマイさんに任しても大丈夫なのだろうか?
イーリスさんの負担が増えて、大変そうだ。
「そうだ。今度、リンスバック港湾都市にも行くんだから、カエノお婆ちゃんに会ったら、マイさんのことを相談してみるよ」
僕はシャルに向かって言ったのだが、マイさんが凄い勢いで僕に飛びついてきた。
「フーカ君、それはダメよ。絶対ダメよ。私がお母様に殺されてしまうわ! 後生だから許して下さい。ヨン君の指導はきっちりとします。だから、お母様だけには……お願いします」
彼女は、土下座までする。
「わ、分かりました。だから、ヨン君のことをお願いします」
「はい、もちろんです」
彼女は冷や汗をかきながらも、笑顔を浮かべる。
マイさんにも苦手なものというより、かなわない人がいたことに、少しホッとしてしまう。
「では、明日、エルフ領プレスディア王朝の王都エルシオに向けて出立します。また、ワイバーンを使いたいと思います。ジーナ、よろしくね」
「はい、かしこまりました」
シャルにジーナさんが返事をして、一区切りがついた。
僕たちは、他にも細かいことを打ち合わせてから、執務室を後にする。
神鏡を使って行う王印の儀式を終えるまでは、スタート地点にも立っていないのに、肝心の神鏡がないというハプニング。
その原因が、血縁者……。
それに、他の出来事も思い浮かべると、ユナハに来てから、異常な確率でおおごとに巻き込まれているのではないだろうかと、僕は考え込むのだった。
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