第27話 エルフの国
「アンさん、今日はケイトもこの部屋で寝てもらおうと思うんだけど、いいかな?」
部屋に戻った僕は、アンさんに頼み事をした。
何故なら、昼間の一件からケイトのことが気になって仕方がないからだ。
「ええ、構いません。……昼間の件ですね」
僕が頷くと、彼女も頷いてから部屋を出て行く。
しばらくすると、アンさんが、ケイトとレイリアを連れて戻ってきた。
ケイトは、まだ、昼間の件を気にしているようで、元気がない。
「ケイト。ケイトの家族や知人たちには、危害を加えさせないから大丈夫だよ」
「ケイト、私が手を回してあります。安心なさい」
「フーカ様、アン様、ありがとうございます。ですが、私のせいでフーカ様には怪我を負わせ、もしかしたら、建国にも支障をきたすかもしれません」
彼女は、頭の回転が速いから、色々なことを想定しているのかもしれない。
そして、責任を重く受け止めてしまっているのだろう。
でも、僕は今回の一件で、階級社会が根強くはびこっているのが分かったことは、良かったと思っている。
ユナハの貴族たちが、リネットさんたちのような貴族と平民との垣根を低くしている良い人たちばかりだと思い込んでいたことに、気付かせてくれたのだから。
「ケイト。こんなことを言うと気を悪くするかもしれないけど、今回の件が起きた事で、僕は、僕の周りにいる人たちを基準にしていたことに気付けて良かったと思っているんだ。だから、ケイトが責任を感じることはないんだ。それに僕の傷はケイトが治してくれたでしょ」
「そうですよ。それにあいつらは、建国したら子爵から痴爵になるんですから!」
「レイリア……あれは冗談というか……売り言葉だったんだけど……」
「えっ……痴爵を作りましょうよ。フーカ様、絶対面白いですって! それに
レイリアの言う通り、戒めにはなるだろう。
ただ、家族まで巻き込むのは気が引ける。
罰として当人だけが受ける爵位としてならいいかな。
「うーん、貴族への刑罰として、シャルたちにも相談してみるよ」
すると、彼女は満足そうな笑みを浮かべている。
ケイトにも笑顔が戻った。
その夜は、ケイトの元気を取り戻すために用意していたドラマや時代劇とかを、パソコンで放映した。
ちゃんと、配信サイトで購入しているし、知人と見るのだから無断放映にはならないよね……。
映像が映し出されると、ケイト、レイリア、アンさんの三人は、パソコンの画面を食い入るように見ていた。
音声は日本語なので、聴き取れるのか聞いたら、意味の分からない単語はあるが、聴き取れるそうだ。
椿ちゃんはこの世界をどうしたいのだろうかと思ってしまう。
三人は夢中で見入っていて、話しかけると怒られそうなので、黙って彼女たちに付き合う。
しかし、途中で僕に限界が訪れてしまった。
あまり夜更かしをしないように忠告してから、ケイトに操作方法を教えて、先に就寝することにした。
朝、目が覚めると、三人はすでに起きていた。
……いや、違う。
三人の目の下にはクマができていて、目をしばしばさせている。
朝まで見ていたのか……。
だけど、強く叱ることも出来ない……僕も、いずれ同じことをする自信があるからだ。
「三人とも、ベッドに横になって! これは命令ね!」
彼女たちに有無を言わせず、ベッドに寝かせる。
手に魔力をイメージさせて、一人ずつ、服の上から簡単にマッサージを施していくと、三人はすぐに寝入ってしまったので、彼女たちに毛布を掛ける。
今日は、ワイバーンでの移動なのに、あんな状態じゃ、本当の意味で寝落ちしてしまうかもしれない。
シャレにならないよ……。
着替えを終えて、パソコンを確認すると、充電がほとんど空だった。
窓際にソーラパネルを置き、カーテンで部屋に光が差し込まないようにすると、パソコンをセットして、充電が開始されるのを確認する。
これで良し。
部屋の扉を音が立たないように開閉して、僕はシャルのところへと向かった。
コンコン。
「はい、どうぞ」
シャルの返事を聞いてから、室内へ入る。
シャルとイーリスさんがテーブルで、真面目そうな
まずい、会談中だったか……。
すると、男性がその場で立ち上がり、一礼をする。
僕もすぐに一礼を返した。
「あなたがフーカ様ですね。姉と妹がお世話になっています。私は、クリフ・フォン・ラートと申します。以後、お見知りおきを」
イーリスさんの弟さんだ。
茶髪のショートのイケメンで、どことなくイーリスさんに似ている。
「僕は、フーカ・モリです。イーリスさんとリネットさんにはご迷惑ばかりをおかけして、申し訳ないです。それに、イーリスさんとの婚約を勝手に決めてしまい、すみません」
僕は再び、一礼をした。
「頭をお上げ下さい。喜ばしいことであって、謝罪を受けることではありませんから」
顔を上げると、彼は微笑みながら手を差し出して、席を促してくれた。
四人でテーブルを囲む。
シャルたちは、エルフ領プレスディア王朝とウルス聖教国へと出ている間に、体制を整えるための相談をしていたのだそうだ。
僕は、イーリスさんを宰相にするつもりだったが、婚姻することになったので、それを諦めたことを告げた。
シャルとクリフさんが何故かと疑問を抱くので、国を私物化、あるいは独裁国家と思われてしまう可能性があることを説明する。
さらに、最初は、ある程度、強引に取り決めていくことになるが、最終的には、身分の垣根がない議会を開けるようにしたいからという理想を捕捉すると、納得してくれた。
話し合いが続くにつれて、人材不足が大きな課題になっていった。
例えば、リネットさんを政府の中枢で使いたくても、そうすると、アルセを仕切る者がいなくなってしまう。
それは、世襲制の影響で人材が育っていない証拠だった。
そのため、最初の段階では、僕たちに
しかし、これぞという人材や素質を持つ者を身分に関係なく雇用し、育て、取り入れていく方向ではまとまった。
そして、階級社会に囚われている者が、新しい人材を阻害しないための法の適用を取り入れることとなった。
ついでに、レイリアに言われた痴爵のことを冗談のつもりで話したら、シャルとイーリスさん、クリフさんの三人は笑いながらも採用してしまう。
いいのだろうか……。
また、軍部のほうにも問題があることを三人から知らされる。
新しい部隊を新設し、これから開発していく近代兵器に適応できる軍の基盤を作ってもらうため、シリウスに、軍部のほうをまとめてもらうのだが、兵装から戦い方までが、今までとは違った軍に切り替えていくため、兵士たちを鍛えなおす必要が出てきたのだ。
しかし、シリウスもその鍛えなおし方が見つからないと、シャルとイーリスさんは彼から相談をされたのだが、答えられなかったそうだ。
僕も何かないかと、軍隊の訓練をイメージしてみたが、思い浮かぶのは、自衛隊が災害復興で働く姿だった。
そこで、ユナハからアルセまでの街道の拡張工事をさせることを提案する。
三人は何の意味があるのかと疑問を抱いていた。
僕は、ユナハに来るまでの上空からしか見ていないが、街道は舗装されていない場所も多かったので、広く整備された道なら移動も早くなるし、軍の移動にも耐えられると告げた。
さらに、兵士にきつい労働強いることで強靭な肉体と精神を養い、その工事を見ている国民へ、軍が彼らのために働いているというアピールになることを告げた。
僕は鍛えなおす意味が違うような気がしたが、それしか思いつかないので押し通し、とどめに、シャルとイーリスさんも知っている自動車、バイク、軍車両などの話しをして誤魔化すと、二人はあっさりと納得した。
すると、二人は、あまり理解していなかったクリフさんに根気強く説明を始め、彼を納得させた。
そして、イーリスさんとクリフさんがこの提案をシリウスにも伝えて、彼との細かい調整をしてくれるとなった。
すんなり通ってしまったが、いいのだろうか……。
それからも、しばらく四人で話し合いを続けていく。
ユナハとアルセに警察の導入や、学校などの教育施設や公共施設の準備、街の区画整理に下水道と下水処理施設などと多くの提案が出され、イーリスさんとクリフさんが必死にメモってまとめていた。
その姿を見て、イーリスさんとクリフさんには、メモ帳とペンが必要だと感じる。
だが、限られた在庫しかないので、彼には我慢してもらい、あとでイーリスさんにメモ帳とペンを渡そうと思うのだった。
夢中で話していると、時間の経過は早いものだ。
名残惜しかったが、そろそろエルフ領プレスディア王朝王都エルシオに向けて旅立たなければならない。
僕はシャルと目くばせをしてから、立ち上がる。
「フーカ様、お気をつけ下さい」
そう言ってくれたクリフさんと握手をかわす。
「フーカ様、今度行くのは、他国なんですから、やらかしたりしないで下さいね」
イーリスさんは、そう言って僕を抱きしめた。
嬉しいのだけど、素直に喜べない。
「うん、善処します。それと、イーリスさんに渡すものがあるから、ワイバーンの厩舎でね」
「はい」
僕は三人に手を振り、自分の部屋へと向かう。
クリフさんに会ったら、相談するべきことがあったような気がするが、思い出せなかった。
いまさら戻るのも恥ずかしいし、思い出せないのなら、大したことではないだろう。
部屋に戻ると、既に目を覚ましていたケイト、レイリア、アンさんの三人が支度をしていた。
三人とも僕の顔を見ると、顔を赤らめ黙々と支度を続ける。
僕もあえて触れずに、混じって支度をする。
そして、支度を終えると、待っていてくれた三人と一緒に、ワイバーンの厩舎へと向かった。
今回は、僕とミリヤさん、シャルとアンさん、ケイトとオルガさん、レイリアとメイドさんで一組となり、他の三頭には、メイド二人、親衛隊二人、近衛騎士団二人が乗り、同行する。
「ペス、ジーナさん、また、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「クオオォォー」
ペスの顔をなでてあげると、嬉しそうに吠えながら頬ずりをしてくる。
イーリスさんたちが厩舎へと見送りに現れた。
僕は、イーリスさんのところに行き、メモ帳とペンを渡す。
「このペン、後ろについている白いので擦ると消えるから」
「ありがとうございます。大切に使います」
彼女はそう言って、僕を抱きしめた。
二回目だけど、皆がいる前だと恥ずかしい。
「フーカ君、フーカ君。私には何かないの?」
面倒くさい人が出てきた。
マイさんにあげる物……。
ポケットをまさぐると飴玉があった、舐めるとシュワシュワするタイプを渡すのは惜しいけど、仕方なくそれを渡す。
「袋から出して口の中で舐めて下さい」
「ありがとう!」
抱き付いてこようとするので、一歩下がった。
「むむ。何故逃げるのかしら」
「気のせいです」
彼女はプクーと膨れる。
ヨン君とシリウスにも別れを告げ、エンシオさんとクリフさんに頭を下げると、ペスの元へと戻った。
僕たちは皆に手を振り、エルフ領プレスディア王朝王都エルシオに向けてユナハを飛び立つ。
ユナハ城が徐々に小さくなり離れていく。
そして、向かう方向には大森林が緑色のグラデーションのように広がっていた。
◇◇◇◇◇
どれくらい飛んでいるのだろうか、大森林がすぐそばに見える位置まで近づいていた。
木々が深々と生い茂り、ちょっと、怖いくらいだ。
眼下には、城壁で囲まれた都市が見える。
その都市の中心にも南北を分けるように壁が建っている。
ジーナさんがこちらを振り向く。
「入国手続きをするために、下に見えるクレント市に一度降ります。少し時間がかかると思いますから、食事と休息もとりましょう」
「はい、お願いします」
彼女は、僕の返事を聞くと、降下を始めた。
そして、城壁の外側に着地すると、馬に乗った二人の兵士がこちらに向かってくる。
一人は簡素な防具のエルフだった。
二人をシャルが呼び、何やら話すと、二人は敬礼をして城壁へと戻った行った。
しばらくすると、大型の馬車が二両、こちらへと向かってきて、僕たちの目の前で停車する。
シャルがこの馬車で市内に入ることを告げたので、僕たちが乗り込むと、馬車はジーナさんたちを残して城壁へと向かって走り出した。
僕たちは、城壁の検問所を素通りして中へ入ると、街並みが現れる。
少し田舎っぽい感じの街ではあったが、驚かされたのは、街行く人たちの中にエルフが多く見受けられ、その中には、エルフ女性と人間の男性が仲睦まじく歩いている姿もあったことだった。
さらに、青色や緑色などのカラフルな髪をしたエルフがいることにも驚かされる。
帝都はもちろんのこと、ユナハやアルセでも、こんな光景は見られなかった。
「この街、凄いね。こんなに多くのエルフが共存してるなんて、驚きだよ」
「このクレント市は、国境を挟んで北クレントと南クレントに別れていて、市内であれば、市民は国境を自由に行き来できますから、エルフ族も人族も種族意識がなく、お隣さん感覚なのでしょう」
ミリヤさんは、嬉しそうに話す。
彼女にとって、ここから先のエルフの国は故郷なのだから、当然かもしれない。
ふと、アルセを褒められて嬉しそうにしていたイーリスさんの笑顔を思い出す。
「ユナハ国はクレント市をお手本に、さらにその上の多種族共存を目指そう! 最終的には、ファンタジーに出てくるような国にしよう!」
ユナハ国もイーリスさんやミリヤさんの故郷のように、訪れた人が褒めてくれるような国にしたい。
そう思って、口走ってしまった。
ちょっと邪な考えも含んでしまったが、問題はないだろう。
「そのファンタジーは、よく分からないけど、強い経済力を持つ国にするためには、多種族共存は、私もいいと思います」
シャルがすぐに賛成してくれて、素直に嬉しかった。
そうこうしているうちに、馬車が豪華そうなレストランの前で停まり、僕らはそこで食事を摂ることにした。
その店には、エルフのウエイトレスさんがいて、とても新鮮だったが、彼女はミリヤさんを見て、驚き、緊張する。
ハイエルフって、普通のエルフからだと、貴族や王族のような存在なのかも知れない。
しかし、オルガさんを見ても、再び同じ反応をとった。
ダークエルフだからなのか、オルガさんのことを知っていたからなのかまでは、分からない……。
食事を終えて、まったりしていると、先ほどの二人の兵士が訪れ、シャルに何か書状のようなものを渡す。
彼女はその中身を確認すると、二人にお礼を述べてから立ち上がった。
「入国の許可がおりました。戻りましょう」
僕たちは、シャルに続くように店を後にした。
ジーナさんたちのところに戻ると、店の人に届けてもらった彼女たちのお弁当とペスたちのご飯のお礼を言われた。
気にすることはないんだけどね。
なにせ、僕たちだけがいい物を食べて、彼女たちが干し肉と水だけでは、ブラックな職場だと言われてしまうからね。
そして、出発の準備を終えた僕たちは、王都エルシオに向けてクレント市を飛び立つ。
アルセに続き、ここも、『落ち着いたら観光するリスト』に入れておこう。
◇◇◇◇◇
その後は、大森林の上空をひたすら飛んでいた。
見えるのは木々ばかりで、集落があるようには見えない。
街道らしきものは、チラチラと見え隠れするのだが、森が深すぎてよく分からない。
こんな状態でも方向を見失わずに飛べる飛竜部隊は、凄いと思う。
僕なら、方向がズレてしまっても、気付かずに進んでいることだろう。
前方で、キラッと何かが光った気がした。
目を凝らすと、白い人工物らしき物があるようだが、遠くてよく分からない。
ずーっとその方角を注視していると、黒い点が四つ、段々と濃くなっていく。
こちらに向かってきている?
黒い点は、近付くにつれて、その姿がハッキリとしてきた。
それは、騎士の格好をしたエルフたちだった。
それも、白い翼を持つ馬、そう、ペガサスに乗っているのだ。
「おぉー! あれって、ペガサスだよね。カッコいいなー!」
その生き物を見て興奮していた僕に、ペスが冷めた視線を送ってくる。
違う、違うんだ! ペスだってカッコいいんだ! ただ、物語に出てくる伝説的な生き物を目の当たりにして、ちょっと興奮してしまっただけなんだ。
そう言いたかった、だが、ペスの視線が痛すぎて言葉にならなかった……。
うなだれる僕をよそに、エルフたちはこちらに近寄ると、付いてくるようにと叫んだ。
エルフの騎士たちは、全員が美形の女性だったのだが、僕はそれどころではなかった。
「彼女たちは、王都エルシオの上空を警備している
「そうなんだ」
ミリヤさんが彼女たちのことを教えてくれたが、今の僕には、ペスに嫌われたかもしれないことのほうが気がかりで、彼女に素っ気ない返事をしてしまった。
返事をしてから、しまった! と思ったのだが、どう取り
その様子を察したジーナさんが、チラッ、チラッと定期的にこちらを気にしてくる。
それが、さらに僕を追い込む。
じわりじわりと確実に僕の精神を削っていく。
まさに生き地獄……。
前方には、王都エルシオが見えた。
それは、大樹ばかりの森に唐突に現れた都市というよりも白亜色をした一つのオブジェだった。
一つの大きな石の塊を削って城を造ったとしか言いようのない光景に、カッパドキアを連想させられる。
僕は、落ち込んでいることなど忘れて、その光景に目を奪われてしまう。
「何これ……。都市じゃなくて、一つの城だよね」
「寿命を終えて石化した
「化石で造った城の中に街をつくるなんて……凄いね」
「日本にもありますよね。スペースコロニーでしたっけ?」
「……あれは、まだ予想図というか……構想をイメージ化するために絵にしただけで、架空のものだから」
「でも、写真? でしたよね?」
ミリヤさんはパソコンで見せたCGを実物だと思ってしまったようだ。ということは、他の皆も勘違いしているかもしれない。
あとで、確認しておいたほうが良さそうだ。
「あの写真は……説明が難しいので、簡単に言うと、写真に見えるように加工した絵なんだよ」
「そうなんですか。本当にあると思ったので、ちょっと残念ですが、でも、絵を写真にする技術があるのも凄いですね」
彼女の顔は、がっかりしたり驚いたりと忙しくしていた。
彼女との間に、さっきまでの気まずさがなくなったことに、僕は安堵する。
ミリヤさんと話しているうちに、ペスは降下を始めていた。
しかし、ワイバーンが降りられるような場所はどこにもない。
どうするのだろうと思っていると、エルフたちが城の壁に開いた穴へと誘導する。ぽっかりと口を開けた穴が近付いてくる。
トンネルに飛行機で飛び込むみたいで、とても怖い。
自分でも顔が恐怖で引きつっていくのが分かる。
ペスが穴へと飛び込む。
思わず目を瞑ってしまう。
どうなったのだろうと恐る恐る目を開けると、ドーム状に広がった空間を旋回しながら、ゆっくりと着地するところだった。
怖がっていたことが、恥ずかしいほど簡単に到着してしまった。
ジーナさんとペスがこっちを向いてニマーとする。
ビビっているところを見られたに違いない……穴があったら入りたいって、すでに穴には入っているんだけどね。
後続が次々と入ってくる。
シャルたちは誰も怖がっておらず、
僕だけが怖がっていたことに、恥ずかしさと悔しさが込み上げてくる。
シャルたちはワイバーンから降りると、僕のところに集まり案内が来るのを待つ。
すると、先ほどの天馬騎士団の四人と衛兵らしきエルフが二人こちらへと近付き、一人の騎士が一歩前へと出る。
青色のミディアムヘアーをした美女だった。
「私は天馬騎士団団長のハンネ・ロクサです。女王陛下がお待ちです。ご案内いたします。それにしても、フッ、見事な怖がりっぷりでしたね。皇女殿下ともあろうお方がこの程度の従者を連れているとは……」
ハンネさんは、僕に飽きれたような視線を向けると、鼻で笑った。
カチン!
「ペス! カプ!」
カプッ。
「ぎゃぁぁぁー」
ハンネさんの悲鳴がドームに響き渡る。
目の前で団長がワイバーンにくわえられて愕然とする団員たち。
上半身をくわえられている彼女の姿は、相変わらずのシュールな光景だった。
「ペス! ペッ!」
ペスはモニュモニュした後に、ペッとハンネさんを吐き出す。
彼女は倒れたまま起き上がることもなく、泣き出しそうな顔をしていた。
「ハンネ団長、大丈夫ですか?」
団員たちは、心配をするものの唾液でベトベトになり、異臭を放つ彼女に近寄りはしなかった。
その光景を見て、シャルとケイトはカプられたことを思い出したのか、魂が抜けた顔をしている。
他の皆はというと、青ざめた顔をしていたが、ミリヤさんだけは、笑いを堪えるのに苦労していた。
「フ、フーカさんは、他国で何をしでかしてるんですか! これからお願いをするんですよ! 少しは自重して下さい!」
シャルは魂が戻ったとたん、顔を真っ赤にして激怒していた。
「シャル様、先に喧嘩を売ってきたのはハンネです。自業自得です」
僕が口を開こうとすると、ミリヤさんが庇ってくれた。
「ハンネ、身体を洗うついでに頭を冷やしてから、顔を出しなさい。誰か、ハンネの代わりに案内をしなさい!」
「はっ!」
ミリヤさんの命令口調に、団員の一人が緊張した面持ちで返事をすると、僕たちの案内をしてくれた。
ミリヤさんは何も気にかけていないようだが、シャルたちの視線が突き刺さってくる。
精神的に痛いから、やめて欲しい……。
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