第9話 僕の魔法

 「うーん、はぁー」


 目が覚めた僕は、ベッドの上で大きく伸びをした。

 そして、ベッドから降りると、柔軟体操をする。

 筋力は落ちているけど、十分に身体を動かせる程度には回復してきたようだ。


 着替えを済ませてテーブルへ向かうと、ノートパソコンを開き、昨夜見つけた袋に入ったフラッシュメモリーの束を確認してみる。

 それはジャンルごとに別けられていて、その中身は百科事典から料理のレシピまでとあらゆるものが揃っていた。

 椿ちゃんたちが、僕をファルマティスに送るつもりがあったのではと、疑うほどに充実したものだったのだ。

 この世界で、これだけの知識を持つことはチートだから助かるのだけど……どこか納得できない。


コンコン。


 扉がノックされ、アンさんが部屋へと入ってくる。


 「フーカ様、おはようございます」


 「アンさん、おはようございます」


 アンさんは、僕をジーと見つめて、眉をひくつかせる。


 「フーカ様、何故、ベッドにいないのですか? そして、何故、着替えているのですか?」


 「ダメなの?」


 「当たり前です。目が覚めても侍従が来るまでベッドにいるものです。着替えも侍従にさせるのが普通です」


 「ごめんなさい。でも、僕は平民出身だし、日本ではそんなことをしないから、恥ずかしいんだけど」


 「ここはファルマティスです。それに、フーカ様は身分が王族よりも高いので、問題ありません」


 僕の身分が王族より高いって……そこは否定しないといけないと思ったのだが、彼女の威圧感が凄くて、言い返す勇気がない。


 「今日のご予定ですが、朝食後に休憩を挟み、ミリヤとケイトがフーカ様の魔法の適性を調べてくれます。その後、昼食を摂り、休憩を挟んでから私が城内を案内いたします。よろしいですか?」


 「はい!」


 さっきまでの威圧感は消えたが、秘書のような態度をとられるのもキツく感じる。


 アンさんがワゴンで朝食を運んできたので、ノートパソコンを窓際の机に移して、テーブルを綺麗にする。


 「フーカ様、まだ、分かっていないようですね!」


 「ごめんなさい。日本での習慣はすぐには治せないので、長い目で見てください」


 また、叱られてしまった……。




 朝食を終えて少し休んでいると、扉がノックされ、シャル、ミリヤさん、ケイト、レイリアが部屋に入ってくる。

 ケイトは、木箱を載せたワゴンを転がしている。

 そして、彼女は木箱からこぶし大の水晶玉がついた機器を取り出した。


 「フーカ様、この機器で魔法の適性と魔力量を測るので、私の対面から水晶に手を触れてください」


 僕はが言われたとおりにすると、水晶は白く輝きを放ち、その光の中には金色と銀色の光が混じっていた。


 「「「「「ハァー」」」」」


 その光景を眺めていた皆が一斉に大きな溜息をつき、頭を抱える。


 「ケイト、僕、何もしてないよね?」


 「ええ、何もしてないですが……結果がしでかしてます!」


 とても嫌な予感がする……。

 ケイトは、ジト目で僕を見つめている。


 「フーカ様の魔力量は多いです。魔力量が多いとされるエルフくらいですね」


 「……それだけ?」


 「いえ、問題は系統魔法が神聖魔法を中心とした何か? ということです」


 「何か? って何?」


 彼女は額に汗をにじませる。


 「知りません!」


 「…………」


 魔法のスペシャリストに知らないと言われ、ショックで言葉が出てこなかった。

 僕の様子を見かねたミリヤさんが、系統魔法の説明をしてくれる。


 「系統魔法には白の神聖魔法、黒の闇魔法、赤の火魔法、青の水魔法、黄の土魔法、紫の風魔法、緑の精霊魔法、茶の錬金魔法の八系統があります」


 そして、彼女は眉をしかめると、額に指をあてて悩みだす。


 「しかし、金や銀は見たこと……確認されたことがありません」


 室内が沈黙に包まれる。


 「皆、落ち着いて! フーカさんのしでかすことに動揺したら負けですよ!」


 シャルが場の空気を戻そうとしたのは分かるが、それは僕をディスってるだけだから……。


 ポンッ!


 「私、分かったかもしれません!」


 レイリアは手を叩くと、何かに気付いたようだったが、皆は、いぶかしげな表情を彼女に向ける。


 「金と銀は、フーカ様の神様の加護の色です」


 皆の態度に気を悪くした彼女は、ふくれっ面で発言した。


 ……。


 少しの静寂の後、ミリヤさんとケイトが驚いた顔でレイリアを見つめた。


 「フーカ様、懇意にしている二柱の神様の加護は分かりますか?」


 「知らない……」


 ミリヤさんの質問に、潤守神社で販売されていた御守りを思い浮かべてみたが、それらしいものはなかった気がする。


 「フーカ様、二柱のイメージを挙げていってください。その中にヒントがあるかもしれません」


 すると、ケイトが何か閃いたように話しかけてくる。

 僕は椿ちゃんと雫姉ちゃんを思い浮かべた。


 「椿ちゃんは……娯楽、怠惰たいだ傲慢ごうまん、お調子者、滑稽こっけい、わんぱく、エロ、ポンコツ、無駄美人むだびじんってところかな。雫姉ちゃんは、才色兼備、几帳面、優雅、穏やか、しっかりもの、一片いっぺん氷心ひょうしんって感じだと思う」


 皆が何とも言えぬ顔で、こちらを見ている。


 「フーカさん、エロ気、ポンコツ、無駄美人、一片の氷心って何ですか?」


 「エロ気は性的、官能的に偏った色気、ポンコツは役に立たないこと、無駄美人は美人なのに言動や行動で台無しにしていること、一片の氷心は澄みきって汚れのない心。こんな感じの意味だよ」


 シャルの質問に答えてあげると、彼女たちは頭を抱えた。


 「フーカさん、ツバキ様は邪神なんですか?」


 「違うよ。豊穣の神だよ」


 シャルたちは、僕に呆れた視線を送ってくる。


 「では、シズク様は何の神様なんですか?」


 「雫姉ちゃんは知恵の神だよ」


 シャルは頷くと椅子に座り、何やら考えこんでいた。

 そして、皆も椅子に座りだしたので、僕も真似ることにした。


 「金は豊穣、銀は知恵の加護を表しているのでしょう」


 ミリヤさんが考えを口にした。


 「ミリヤ様、加護が分かっても、豊穣と知恵の加護が何の魔法に関わっているのかまでは分かりません」


 僕は、加護が何かを理解した。

 交通安全、家内安全、縁結びとかしか頭に浮かばなかったことは、伏せておくことにしよう。


 ミリヤさんが眉間にしわをよせ、考え込んでいる。


 「ミリヤ、どうしたの?」


 シャルが彼女を気にかけて、声を掛けた。


 「シャル様、おそらく、ツバキ様が女神ウルシュナ様、シズク様が女神ルース様だと思われます」


 皆は驚きを隠せない表情をしていたが、シャルだけがその場に崩れ落ちた。

 彼女の気持ちはよく分かるので、そっとしておくことにする。


 「ミリヤさん、何故、そう思ったの?」


 「紋章の穂はウルシュナ様、羽ペンはルース様を意味し、ツバキ様とシズク様の神紋しんもんにも描かれていたことと、加護の種類が同じだからです。……二柱はツバキ様が姉でシズク様が妹の姉妹神ですよね?」


 「当たってます」


 「そうですか。でしたら、同一の女神様として認識した方がいいかと思います」


 僕たちは、その意見に頷く。

 そして、僕はファルマティスと椿ちゃんたちとの関係性が、より濃くなることに苦笑するのだった。




 「ところで、フーカ様の魔法はどうするのですか?」


 レイリアは、皆に向かって、思い出したように口を開く。


 「少し強引ですが、フーカ様に魔法を使ってもらうしかないですね」


 ケイトの言葉に、僕は戸惑ってしまう。


 「いきなり使って、大丈夫なものなの?」


 「私は魔導士なので、魔法を教えるのも仕事ですから、大丈夫です。それに、初歩的な神聖魔法でしたら、何の害もありません」


 「それなら、よろしくお願いします」


 「はい。では、魔法を意識するために私と両手を重ねて下さい」


 ケイトが差し出した両手に手を添える。

 何だか、少し恥ずかしい。

 柔らかな彼女の手が熱を帯び、僕たちの手が光りだす。

 僕は手の血液が温まり、身体全体に送られ、循環しているような不思議な感覚を感じた。

 手の光がおさまると、彼女は「これで簡単な魔法なら使ます」と言って手を離す。


 「神聖魔法の基本、治癒魔法ちゆまほうを試しましょう」


 「お願いします」


 「それでしたら、私が被験者になりますね」


 レイリアは、そう言うと自らの左の手のひらを剣で切った。

 僕は驚いて、彼女に駆け寄った。

 軽く切ればいいのに、傷は少し深めだった。


 「フーカ様、そんなに驚かなくても大丈夫ですよ。騎士ならこれくらいの傷は日常茶飯事にちじょうさはんじですから!」


 そんな日常茶飯事は嫌だ……。騎士って怖い。


 僕はケイトに教わりながら、レイリアの手のひらに自分の手をかざすと、意識を集中させる。

 僕の手が光り出すと、彼女の傷が塞がっていくが、うっすらと傷痕が残ってしまった。

 さらに意識を集中し、彼女の傷痕に手をかざす。

 思わず手が傷痕に触れてしまった。

 すると、傷痕は一瞬で消え、綺麗な手のひらとなる。

 しかし、剣の練習でできたであろう豆や剣だこ、過去の切り傷までもが消えている。

 レイリアは、自分の手のひらをさすって首を傾げた。


 「レイリア? どうしたの?」


 ケイトは彼女の様子が気になり、声を掛けた。


 「綺麗になってます」


 「は? 何を言っているの?」


 レイリアは、ケイトの手を取ると両方の手のひらを触らせた。


 「レイリアの右の手のひらは皮が固いのに、左の手のひらは柔らかく綺麗になっています……」


 ケイトは、皆にも分かるように言った。

 そして、皆はレイリアの両方の手のひらを触り比べて驚きだす。


 「フーカ様、右の手のひらにも治癒魔法をかけてみて下さい」


 僕はケイトに言われた通り、レイリアの右の手のひらに治癒魔法をかけたが変化はなかった。


 「今度は、手のひらに触れながら治癒魔法をかけてみて下さい」


 再び、彼女に言われた通りにすると、レイリアの右の手のひらは左と同じように、豆や剣だこ、過去の切り傷までが消え、皮膚も柔らかくなっていた。

 それを確認したシャルたちは、驚きを隠せないでいる。


 「こんなことは上位の神聖魔法でもありえません!」


 ミリヤさんが叫ぶように言い放ち、ケイトが考え込みだす。


 「他の実験……確証もほしいので……レイリア、ベッドに全裸で横になりなさい!」


 顔を真っ赤にしたレイリアは、フルフルと首を大きく横に振る。


 「レイリア、お願い。これはとっても大切なことなの!」


 シャルが両手を重ね、拝むようにお願いをした。


 「シャル様まで……うー。わ、分かりました」


 レイリアは、しぶしぶと服を脱ぎだす。

 僕は動転してしまった……。何故、ここで脱ぎだす!

 すると、アンさんがその様子を察して、レイリアの頭を叩く。

 そして、彼女をベッドの脇にある衝立まで連れて行った。

 僕はベッドとは反対を向き、彼女の準備が整うのを待つ。


 「フーカ様、準備が出来ましたので、こちらに来て下さい」


 ケイトが声を掛けてきた。

 振り返ると、背中を出し、腰から下はシーツを掛けられたレイリアがベッドに横たわっている。

 僕はレイリアのそばに行くと、彼女の背中を凝視してしまう。

 彼女の背中には右肩の下から腰の左側にかけて深く斬られた傷痕があったからだ。


 「この傷は、レイリアをよく思わぬ味方が戦闘中に切りつけたものです。彼女は一命を取り留めましたが重傷でした。そのせいで、彼女を欠いた我が軍は敗走、彼女は責任を取らされるところでしたが、前皇帝が手を差し伸べ、シャル様の護衛に就かせたことで難を逃れました」


 アンさんが悲しげに語った。

  僕は吐き気をもよおすほどの怒りをこらえ、レイリアの傷痕を治してあげたいと思った。

 そして、僕はリュックをあさる。

 姉ちゃんにマッサージを強いられていた時に使っていたマッサージオイルが入れられているに違いないと思ったからだ。

 やっぱり、あった! 

 リュックの中には、一〇〇から二〇〇ミリの瓶がほとんどなのに、五〇〇ミリサイズの大きな物が入れられていた……。

 僕は呆れながら、マッサージオイルを持つと、ベッドに上がる。

 そして、レイリアの太腿の上に腰を下ろすと、適量のマッサージオイルを手になじませ、オイルの温度を上げる。

 辺りにフローラルの香りが漂うと、シャルたちが好機の目を向けてくる。

 僕の下では、レイリアが何をされるのかと強張っていた。


 「シャル様たちは、楽しそうでいいすね……」


 レイリアの皮肉を初めて聞いた。

 僕はエステをイメージして、魔法を使いながらレイリアの背中にマッサージオイルを塗り広げていく。


 「ヒィッ!」


 彼女から悲鳴が上がったが、無視して腰から背中にかけてマッサージを始める。


 「はぁー。あふん……ふぅん。ふにゃん」


 つやのある? ような形容しづらい声を出し始める。

 こっちのほうが恥ずかしくなってくるから、やめて欲しい……。


 僕がマッサージを終えると、レイリアの背中の傷痕はなくなっていた。

 それどころか、艶と張りがあるきめ細やかな綺麗な肌へと生まれ変わっていた。

 シャルたちは、彼女の背中を注意深く確かめだす。

 なのに、当の本人は、とても気持ちが良かったのだろうか、うっとりとした顔で寝息を立てていた。


 「フーカ様の魔法は治癒魔法の効果もあるのですが、どちらかと言うと美容魔法と呼ぶべきですね」


 ファンタジーに出てくるような魔法をイメージしていただけに、ケイトの言葉は、僕にショックを与えた。


 「このまま全身もお願いします!」


 シャルはレイリアが寝ていることに乗じて、とんでもないことを言い出した。


 「そうですね。美容魔法は今までになかった新しい魔法ですから、その効果を確認したいですね」


 ケイトまで彼女にのっかってくる。


 「いや、本人の承諾もなしにやるのはまずいよ!」


 「フーカさん、レイリアも年頃の女の子です。身体に傷や痣があるのは可哀想です」


 僕は断ったのだが、憂いの目で懇願してくるシャルに押し切られてしまった。


 仕方なく、僕はレイリアの足からマッサージを始める。

 アンさんがサポートをしてくれたので、レイリアの女性を主張するところは、完全ではなかったが、僕が目にする前に、タオルで隠されていった。

 レイリアの身体は、シャルが言うように、多くの痣や傷痕があった。

 戦うということを、軽く考えていたことに反省をした。


 胸とお尻以外のマッサージを終えた。

 途中から、レイリアが寝ながらも、なまめかしい喘ぎ声を漏らすので、僕は精神的に疲労困憊となっていた。


 「ふぅー。これで一通りは終わったね」


 「まだ残ってますよ?」


 「は?」


 「女性として、とても大切なところが残っています!」


 シャルからとんでもない試練が課せられる。


 「これから先は、本人の承諾を得なければシャレにならないよ!」


 「ここまで好き放題にレイリアの身体をまさぐっておいて、今更、何を怖気づいているのですか?」


 シャルは悪役のような笑みを浮かべている。

 言い方からして、はめられた気がする……。

 このメンバーで、唯一、常識を持ち合わせているアンさんなら助けてくれると思い、彼女に視線を送る。


 「それでしたら、こうしましょう」


 アンさんは、僕の目にタオルを巻いて、目隠しをした。

 アンさんもダメだった……。


 仕方なく、レイリアのお尻をマッサージする。

 指先から、柔らかくも張りのある感覚が伝わってくると、妙に緊張してくる。

 そして、彼女の悶える声が高らかになると、罪悪感が生まれてくる。


 お尻のマッサージを終えたころには、僕は頭に血が上って、のぼせそうだった。

 僕がレイリアから離れると、アンさんは彼女を仰向けにしたようだ。


 「準備が出来ました」


 アンさんはそう言うと、目隠し状態の僕を誘導する。

 最後の難関をむかえることとなった。

 恐る恐るレイリアの胸を触る。

 ちょっと触れただけで、ビクッと身体を反応させる彼女にドギマギしてしまう。

 女性の胸に触れられるのに、罰ゲームを受けてる気分だ。

 僕は、意を決して彼女の胸を揉みだすと、柔らかく、指が沈み込んでいくのを感じた。

 目隠し越しだが、触ってみると僕が思っていたよりも大きいことが分かる。

 僕は、姉ちゃんが、教え込もうとしていたバストアップのマッサージを思い出しながら、施術していく。

 そして、最後の仕上げに、彼女の胸をこねくり回した。


 「あぁぁぁぁぁん!」


 彼女は、高らかに叫んでのけぞる。

 僕は、いきなりのけぞられたことで後方に転がってしまった。

 何とか起き上がると、転がったはずみで目隠しが取れてしまい、彼女の全裸が視界に入る。

 仰向けなのにあまり崩れていない膨らみと、髪と同じ赤毛が生えた下の方を凝視してしまった僕は、鼻から何かが垂れてくる。

 アンさんが僕を支えるようにして、鼻に布を当ててくれた。

 そして、ケイトが僕の額に手を当てると、ひんやりとした感覚が頭から身体に向かって流れてくる。

 火照った身体が冷やされていく感覚は、とても心地よかった。

 僕の状態が落ち着くと、アンさんがふらふら状態の僕に寄り添いながら、椅子まで誘導してくれた。


 「アン、こっちに来てレイリアを確認してみて!」


 シャルに呼ばれたアンさんは、レイリアの身体をチェックする。

 ミリヤさんが僕にニコッと微笑んだ。

 そして、ベッドに備えられたカーテンを広げ、彼女の身体を隠す。


 「凄い効果ですね。マッサージ前と比べると、胸は、サイズ、張り、形、すべて向上、お尻は、形と張りが向上、身体全体的に見ても肌の艶や張りが向上、体形もバランスが良くなっています」


 アンさんがシャルに結果を報告する。

 カーテンから出たきたシャルたちは、欲望に取りつかれているような目で僕の所へと向かってくる。

 なんか、怖いんだけど……。


 「フーカ様の魔法は、危険かもしれないですね」


 「何故?」


 ケイトの言葉の意味が、まったく分からない。


 「考えてもみてください、この魔法が世に知られれば世界中の女性がフーカ様を手に入れようとします。おそらく、手段を選ばないでしょうね。……女性にとって、この美容魔法は世界を敵に回してでも独占したいはずです。同じ女性として断言できます!」


 僕は、ファルマティスでの危険度が、思いもよらぬことで追加された事実に落胆した。

 一方で、シャルたちは僕の魔法を治癒魔法ということにして、美容魔法が使えることは極秘にするという意見で一致団結したようだ。


 「ところで、美容魔法が男性にも効果があるのか、把握しておく必要があると思います」


 ケイトの発言に皆は頷くと、シリウスさんを呼んで、彼にも美容魔法を試すこととなった。

 アンさんが、早速、手配しようとすると、シャルが手で待つように合図をして、イーリスさんも一緒に呼ぶようにと付け加える。

 アンさんは黙って頷き、部屋の外にいる衛兵に用件を伝えた。




 「フーカ様、美容魔法をしばらくの間は無暗むやみに使わないでください。これから出会う交渉相手が女性であれば、切り札としても使えます」


 ケイトは意外としたたかなのかも知れない。

 僕は、そんな彼女に黙って頷く。


 ベッドの方で物音がする。

 どうやら、レイリアが目を覚ましたようだ。

 すると、ケイトがベッドへと向かった。

 彼女は、レイリアが服を着ようとすると、まだ身体を締め付けないほうがいいと言って、彼女にガウンを渡していた。

 そして、そのガウンを着た彼女は、まっすぐに僕のもとへと来る。


 「フーカ様、ありがとうございました。おかげで身体が軽くなりました!」


 腕をブンブン回し、彼女はご満悦だった。


 「うん、良かったね」


 僕は軽く頷き、下を向いた。

 彼女を見ると先ほどまでの姿が浮かんで、顔が火照ってくるのがわかる。

 僕の様子に気付いた彼女は、首を傾げて見つめてくる。


 「私のガウン姿に顔を赤らめるなんて、意外となんですね」


 人の気も知らずに僕をからかってくる彼女を叩きたかった。

 雫姉ちゃんを見習って、今度、ハリセンを作ろうと思う。

 僕たちを見ていたシャルたちは、笑いを堪えようと顔をひくつかせるように強張らせていた。


 コンコン。


 扉がノックされ、イーリスさんとシリウスさんが入ってくる。

 シャルとケイトが二人に今までの経緯を話すと、途中でイーリスさんが崩れ落ちる光景を目にした。

 シリウスさんは動じていないようだったが苦笑している。

 話し終えた二人は、レイリアをまじまじと見つめて驚く。

 そして、ケイトがシリウスさんを連れて、僕のそばに来る。


 「シリウスにも美容魔法を試してください」


 ケイトに僕は頷いてみせる。


 シリウスさんが剣で少し切った指先を差し出すと、僕は手をかざして美容魔法をかけた。

 だが、彼には何も起こらず、指先からは血がにじみ出ているままだった。

 それを確認したケイトは、彼に手をかざし治癒魔法をかける。

 すると、その傷はすぐに治った。


 「どうやら、フーカ様の美容魔法は、女性限定みたいですね……」


 ケイトは困った顔をすると、そう口にした。

 そして、皆でどうしたものかと悩むこと数分。


 「フーカさん魔力はあったが魔法を使えるようになるには、しばらくは、勉強と練習が必要という事で話しを合わせましょう」


 シャルの意見に、皆は頷いて同意を示す。


 「それにしても、女性限定だなんて、スケベな魔法ですね!」


 「断じて違う!」


 今すぐ、レイリアを叩きたい……。

 僕はハリセンを作ることを決意したのだった。

 そして、シャルたちは僕とレイリアを交互にみては、クスクスと笑っていた。


 「フーカ様、今回の計画を無事に終えたら、褒美として私にもマッサージをして欲しいのですが、お願いできますか?」


 イーリスさんが真剣な顔で唐突に頼んでくる。


 「さすがに無理です。僕は男ですよ」


 「では、フーカ様が理性を失くしたときは、そのままとぎをしても構いません。責任も問いません。それでもダメですか?」


 彼女がとんでもないことを言いだした。


 「分かりました。伽はしなくていいですし、下着をつけた状態でなら引き受けます。いいですか?」


 鬼気迫る勢いで頼み込んでくる彼女に、僕は条件を付けて引き受けることにした。


 「それで構いません。ありがとうございます!」


 彼女は満面の笑みを浮かべ喜ぶ。

 ふと、シャル、ミリヤさん、ケイトの三人が視界に入ると、彼女たちが少し赤らめた顔を下げた状態で手を挙げていた。

 僕は困惑してしまい、アンさんに助けを求めるべく視線を送ったのだが、彼女も手を挙げていた。

 全員に手を挙げられたことで、断りづらくなった僕は観念して、イーリスさんと同じ条件ならと、彼女たちの要望も飲むことにした。

 そして、彼女たちの様子を見つめていたレイリアが、ドヤ顔で「私は既にしてもらいました」と自慢を始める。

 僕は、これが『知らぬが仏』ということなのだろうと思った。


 ちょうど、お昼になり、僕たちは一緒に昼食をとることにするのだった。

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