第23話 再びのお屋敷生活
「それで、母が満足してくれたわけか」
「はい、おかげさまで」
「そうか……」
エレーヌの侍女達が役目をきっちり果たせるようになった今、リリカの王宮での役目は終わった。
エレーヌはウィルジアの屋敷に顔を出さなくなり、お城で快適に生活している。
リリカがもう来ないと分かった時、侍女達は涙ながらに感謝の言葉を述べ、「リリカ様万歳!」「お屋敷生活が嫌になったら、いつでも来てください!」とあたたかく見送ってくれた。
ウィルジアとリリカの元に、再びの平穏が訪れた。
「面倒な母でごめん」
「いいえ、素敵なお母様でいらっしゃいます」
「君はほんとにすごいな」
全くネガティブなことを言わないリリカにウィルジアは感心の目を送る。天使か。天が与えたもうた使用人の鑑か。
リリカはニコニコしていた。笑顔が可愛い。
ウィルジアはボソリとつぶやく。
「母に取られなくて良かった……」
「私のご主人様はウィルジア様なので、ここを離れることはありませんよ?」
「あ、うん。ありがとう」
ウィルジアはリリカの淹れてくれたコーヒーを飲みながら心底ホッとする。すると銀のトレーを持ってテーブル脇に立っていたリリカがこんなことを言い出した。
「私はウィルジア様に感謝しています」
「僕に? なんで?」
「エレーヌ様専属侍女の皆様にエレーヌ様の好みをメモするよう助言したのですが、ウィルジア様が私に読み書きを教えてくださらなければ出てこないアイデアでした」
「あぁ……そういえばリリカは、文字を読めなかったね」
「はい。私はあの時、情報を文字に書き記す素晴らしさを知りました。書いておけば、忘れた時に読み返せる。いつでもどこでも思い出せる。みんなが同じ情報を共有できる。文字って素晴らしいですね! 侍女の皆様が教養のある方達でしたので、スムーズに行きました。本当に感謝しています」
「そんなに喜んでもらえたなら、良かった」
リリカはにっこり笑って小首を傾げた。
「私は、素敵なご主人様にお仕えできて幸せです」
可愛い。なんていい子なんだ。やばい動悸がしてきた。
ウィルジアは自分の胸の内を支配する初めての感情に戸惑いつつ、目線を逸らしてしどろもどろに言った。
「……これからも君にそう言ってもらえるように、努力するよ」
具体的には、書斎で寝落ちしないようにするとか。
顔に熱が集まるのを感じて、ウィルジアは前髪を引っ張る。リリカの手により短く切られた前髪では、この赤面した表情を隠すのは不可能だった。
リリカはそんなウィルジアをやっぱり笑顔で見つめながら、「今のままでもウィルジア様は十分に素敵です」と言って、ますますウィルジアを赤面させたのだった。
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