第65話 話し合い

「アーマン村長、新しい男爵様が本日、着いたとか」

「あぁ、オズワルド。お越しになったよ」


 ここはアーマン村長の家にある居間だ。

 村には皆が集まれる広いところが他になく、村長の家が集会所にもなっている。

 

 ここに集まっているのは、村の畑仕事を取りまとめている人達や顔役の人達だ。

 自治会みたいなものだ。

 例えるならアーマン村長が会長で、村人をまとめている役員が何人かいる。


「で、どんな感じの人ですか?」

 オズワルドは40代半ばくらい。

 畑仕事をしている人達の顔役で、日焼けした肌が黒く筋肉質な髪の短い男だ。


「あぁ、とても美少年だったよ」

「美少年??」

 そんな言葉が出るとは思わず、集まった人たちは驚いていた。


「この地方では珍しい黒髪、黒い瞳の美少年だったよ。見た目は12~14歳くらいに見える。貴族の紋章がなければ信じられないくらいだったよ」

「もしかしたら、その子の名はエリアスて言わないかい?」

「どうしてそれをコーネリアさん」

「あはは、そういう事かい。私の店に家族できてくれたのさ。今日、この村に引っ越してきたからと言うから、てっきり村長のところに泊まるかと思ったら男爵様かい」


 そこには食堂のアルマン夫婦が居た。

 夫のアルマンは以前は冒険者をやっていた。

 この村に依頼で来た時に食堂の一人娘コーネリアを見初みそめた。

 コーネリアと結婚をして冒険者は引退し、コーネリアの親から食堂を継いだのだ。


「アルマンは男爵様をどう見た?」

 村長がアルマンに聞く。

「そうだな、剣は持っていたがそれほどの腕とも思えなかったな」

「いや、冒険者としての腕の話ではなく人間性なのだが」

「あはは、そうか、ついな。良い奴だと思うぞ。仕事はないかと言っていた」

「仕事だと?」

「あぁ、まさか男爵様とは知らないから、この村で生活するなら狩りぐらいしかないことを話したのさ」

「実はそこなんだが、税率は来年の秋の収穫分から4割ではなく、3~3.5割位にするように言われてきたらしい」

「3~3.5割なら私達も助かるな」

 みんなが嬉しそうに頷く。

「だがそれだとエリアス様達が暮らしていけないと言われてな」


「な、なんだと。また税率を上げるのか!それなら前と変わらないじゃないか!」


「まあ、落ち着けフレイザー。私も最初はそう思ったさ」

 フレイザーは35歳くらいで、農家のいわば青年団のリーダー的な存在だ。


「どう言う事だよ」

「実はエリアス様には奥様が3人いらっしゃてな」

「3人もか?それなら前の領主と変わらない女好きなのか?」

「それは違うと思うわ、フレイザー」

「な、なんだよ。コーネリアさん」

「どちらかと言うと男爵様は女好きと言うより、人が良い感じかな」

「あぁ、そうだな。最初、セルベルト卿とお呼びしたところ、エリアスで良いとおっしゃってくださった。堅苦しいのが嫌いなのだろう」

 アーマン村長が言う。


「元冒険者なら、そうなるさ。でもよく増長しなかったな。今まで権力を持ったことがない奴は大概、力を持つと傲慢になるのにな」

「そうだね、あんた。エリアス様は元から育ちが良さそうだし。奥さんも気が強そうだから、他に女性をなんて言いそうも無いね」

 アルマンとコーネリアが言う。


「エリアス様と奥様達は冒険者でパーティーを組んでいて、男爵になったのを機会に結婚したと言っていましたな」

 アーマン村長が言えばアルマンが応える。

「だから上下関係がなく、仲間みないな感じだったのか。それに奥さんが3人いたら3~3.5割じゃ生活できないだろうな。貴族だと体裁面でも金がかかるらしいからな」



「それで、税率の話はどうなったんだい?」

 オズワルドのサブリーダーの1人ラルフが言い出した。


「すまなかった、つい話がそれたようだ。税率は変わらず3~3.5割で良いそうだ」

「でも男爵様は、それでは生活できないんだろ?」

「あぁ、だから新しい農法を授けて頂いた」


「「「 新しい農法だって! 」」」


 その場にいる全員が驚いている。

 今までは二式農業が当たり前だと思い、やって来たからだ。


「それはどんな農法なんだい?」

 オズワルドのもう1人のサブリーダー、サムソンが言いだす。


「それは…」


 アーマン村長はエリアスに聞いた、混合農業について話し始めた。


 そしてこの混合農業が、このヴィラーの村を大きく変えることをこの時は誰も分からなかった。


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