第63話 オルガ

 アルマン食堂で夕食を食べ私達は屋敷に戻る帰り道。

 エリアス君が口を開く。


「みんな、どうしたんだい?そんな顔をしてさ」

「エリアスっちは、鈍ちんだからわからないのよ」

 パメラがそう答える。


 私はオルガ。

 エリアス君は実年齢より若く見えるわ。

 黒髪、黒い瞳の美形の少年。

 まずこの国では見ない容姿。

 

 私達が居るジリヤ国は内陸にあり、四方を山や隣国に囲まれている。

 王都を国の中心に作り、それを守るかのように周りに東西南北に6つの州を、更に王都寄りの東西に2つの州を置き公爵家を配置し外敵に備えている。


 王都から一番、東端にあるのが今までいたアレンの街。

 アレンの街と隣接している東側のガルシア国とは、大きなアスケル山脈に阻まれている。

 それは攻めることも、攻められることもできないくらい厳しい山脈だとか。

 そのガルシア国は決着のつかない敵対している魔族を倒すために、異世界から勇者を召喚して戦わせていたと聞いているわ。


 その勇者の特徴が黒髪、黒い瞳。

 でも数百年前に魔族とも和解し、勇者も結婚し子供を成し世代を重ねた。

 そのため勇者の子孫が増え黒髪や黒い瞳は、珍しいけれど居ない訳ではないわ。

 ただあんなにも黒髪、黒い瞳は今まで見たことがなかった。


 おばさん達が驚いているのは私達に対してよ。

 12~14歳くらいだと思っていた美少年が実は成人していて、しかも私達みたいな嫁さんが3人もいて。

 私達3人はけして器量が良い訳ではないから。

 だからおばさん達にしてみたら青天の霹靂なんだと思うわ。

 そしてそんな女に捕まったエリアス君に、同情した顔を向ける。

 これからもそんな風に見られるのかしら?

 

 エリアス君が男爵だと分かったら、なおさら私達は変な目で見られるのかしら?

 世間を知らなそうな男爵に取入り、器量も良くないのにお嫁さんになった3人と。

 屋敷に着き家の居間にみんなで集まった。


「寝具が揃って良かったね。さすがに布団なしではね」

 エリアス君が嬉しそうに話す。


 エリアス君への、この気持ちはいつからだろう。

 私はバグベアに吹き飛ばされ動けなくなり殺されそうになった。

 その時に私をかばい助けてくれたのがエリアス君。

 美形で黒髪、黒い瞳の少年に、戦いの最中にも関わらず私は見惚れた。

 それから私は気を失った。


 気づいた時はバグベアにやられた腕の傷を、エリアス君がハイポーションを使い治してくれた後だった。

 高価なハイポーションを、見ず知らずの他人に使うなんて。


 その時かな。

 泉から水が湧き出すように、突然気持ちがあふれ出す。

 まるで魔法にかけられたように、気持ちが抑えられなくなったわ。

 


 エリアス君がくつろぎながら話し出す。 

「あぁ、それから今までみんなと一緒に寝るのは一日おきだったけど。これからは1人1部屋あるんだから好きなときにしようね」

 なにかエリアス君が変なことを言っている。

 お休みが欲しいと言っているの?


 でも気にならない。

 なぜか分からないけど、彼の言う事は全て許せる気がするの。

 そして信じられるわ。




 この先、この村でどうなって行くのか分からない。

 エリアス君ならきっといい領主になれるわ。


 私達はその力になるだけ。

 それに戦いになれば、エリアス君の防御スキルはとても高いと聞いたわ。

 彼が盾なら私はエリアス君のほこになろう。

 そして彼からたくさん教わり、強くなって彼にふさわしい嫁になろう。


「それから明日の朝、アーマン村長の家に行き村の皆さんに挨拶しないといけないから、寝坊しないでくださいね」


 時々、何かが違う気がする時があるけど、きっと気のせいね。


 私はほこであなたは盾。



 それは矛盾むじゅん


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