第61話 パメラ

「はい、では私の部屋に来てください」

 屋敷に帰るなりオルガさんが言った。

 俺もオルガさんの部屋に向かう、みんなの後について行くと断られた。

「エリアス君は駄目です」

「なぜでしょう?」

「これは女子集会だからです」

 そう言われては仕方ない、俺は自分の部屋に戻った。


 しかし味気ない部屋だ。

 テーブル、椅子、ベッド、タンス。

 この世界の人なら、これだけでも贅沢なんだろう。

 でもそれ以上を知っている俺には物足りなかった。

 音楽もないから夜は暇だ。

 灯りもランプの油が高価だから早寝しないといけないし。

 でもこの屋敷は暖炉があるから、冬の長い夜に暖かさをもたらしくれる。

 そして暖炉の熱は料理に使える上に(自炊すればだけど)、夜は簡単な作業ができる程度に明るくなる。


 そんなどうでもいいことを最近では、常に【メンタルスキル】で考えているせいか、頭が疲れて眠くなりいつのまにか寝てしまった。


  *    *    *    *    *


「どうしたのオルガ」

「どうしたですってパメラ、わからないの?」


「あぁ、あのおばさん達の事ね」

「そうよ、いい歳をしてエリアス君に色目を使うなんて」


「きっとショタなのよ」

「ショタってなによ、オルガ」


「それはねルイディナ。エリアスっちに聞いたんだけど、『若い男の子が好きな人』の事らしいよ」

「それは若い人が好きな人も、いるんじゃないの?」

「そうじゃなくて、幼児好きの小さい女の子が好きな人を、ロリコン。その逆をショタコンて言うんだって」

「なによ、そのロリコンやショタコンて」


「おばさん達にはエリアスっちは黒髪、黒い瞳だからきっと、12~3歳くらいの少年に見えているはずよ」

「だからなんなのよ」

「いい、聞いて。自分の子供より年が若く、成人していない様に見える子供が好きな性癖がある人のことを、ショタコンて言うのよ」

「な、なるほど。オルガは博学だな」


「ちなみに『ショタ』は元々は鉄人28号の正太郎からきていて、『半ズボンが似合うくらいの若い男の子』ていう意味なんだって」


「「「 鉄人28号てなに?正太郎て? 」」」


「知らない。時々エリアスっちは布団の中で、事が終わった後に話をするの。でも分からない話や理解できない話も多いの。それに最近は独り言が口に出てることが多いから、私に言っているのか、独り言なのかも分からないわ」


「なにそれ、私の時は無いわよ」

「ルイディナの時はきっと甘えんぼさんじゃないの?」

「えっ、なんでわかるの?」

「あぁ、やっぱり。そんな感じがする。エリアスっちにしたら私達は家族なのよ」


「それは夫婦なんだから、そうでしょう」

「それは違うわ、オルガ。私が言っているのは役割よ」


「「 役割?? 」」


「そうよ、キングを倒して目覚めてから、なにかエリアスっちは変わったわ」

「どう言う風によ。私には同じに見えるわよ」

「オルガはエリアスっちに夢中で、盲目になっているからよ」

「わ、私はちゃんと見えてるわよ」

「そう言う意味じゃないのよ。オルガはエリアスっちへの愛で、何も見えなくなってるのよ」


「まあ、まあオルガ。さっきの家族の話だけど、どういう意味かな」

「あのね、結婚してから感じたんだけど、前より喜怒哀楽が顔に出ないよね」

「どういう意味?」

「感情が外に出なくなったと言うか」


「キングと戦い、怖い思いをして乗り越えたから、心が強くなったのよ」

「それは違うと思うオルガ。私が思うのはエリアスっちは壊れているんだと思うの」

「壊れてる?」


「えぇ、そう。心の無い人造人間」

「人造人間てなによ!」

「これも布団の中で聞いた本当か嘘か分からない話だけど。魔道具ではなく物を作る技術が発達した未来では、人工的に人を作れるようになるらしいの」

「人工的に人を作る?」

「手や足を金属で形成し、人工的に作った人そっくりな目や皮膚。そして体温も。見た目は人と同じもの。でも作りものだから心が無いの」


「「 心が無い? 」」


「でもそんなものを作ってどうするのさ」

「例えば人が出来ないような危険な事や作業を、人間の代わりにさせるんだって」

「魔物と戦わせたりとかか、そんなものを作れれば凄いな」

「そう、そして世界中で戦争が起きるわ。壊れない限り動き続ける戦士を、作れるんだから」


「でも仮の話でしょ、パメラ」

「そうよオルガ。でも話はまだあるの。その人造人間は思考はできるの、だから考えることはできるのよ。ただ無いのは『心』よ」


「『心』が無いなんて、そんな言い方。ひどいわパメラ」

「だから私が言う家族はルイディナはお母さん、私は歳が同じだから兄妹か妹ね。そしてオルガはお姉さんかな」


「そ、そんなだって」

「じゃあオルガ。エリアスっちに愛してるとか、好きだとか言われたことあるの」

「パ、パメラ、それ以上は言っては駄目よ」


「「「 止めないでルイディナ。私は無いわ、一度だって。可愛いとか愛してるとか言われたことは無いわ。どんなに抱かれてもね 」」」


〈〈〈〈〈 やめて~~!! 〉〉〉〉〉


 オルガは耳を手で押さえ、うずくまっていた。


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