第33話 報酬は誰の物

 俺達は礼服を買い、アリッサさんと冒険者ギルドに戻ってきた。


「おかえり、ゆっくりだったわね」

 受付のヘルガさんが茶化す。


「今日はありがとうございました。アリッサさん」

「いいえ、大したことは無いわ」

「あぁ、そういえばこれって売れますか?」

 俺はストレージの中から、レッドキャップが持っていた斧を出した。


「これは?」

「キングが持っていた斧です」

「キングの斧!!」


 念のため、渡す前に鑑定してみよう。

【スキル・鑑定】簡略化発動!

 名称:レッドキャップの斧

 詳細:攻撃力27

    素早さ+5

 レッドキャップの魔力で作られた斧

 攻撃力と素早さが上がる


 ほほう、中々だ。

 でも俺は斧は使わないし、今はお金が欲しい。


 受付に戻どったアリッサさんに斧を渡した。

「鑑定してもらうから少し待っていてね」


 査定が終わるまで、いつもの飲食コーナーで待つ。

 そういえばヘルガさんが少し気になる。


【スキル・鑑定】簡略化発動

 名前:ヘルガ

 種族:小人族ホビット

 年齢:150歳

 性別:女

 職業:レンジャー

 レベル:30


 なっ、ホビットだったのか。

 どおりで幼そうな割にはれてるはずだ。

 えっ、レベル30だって!

 アリッサさんがレベル35だから、この2人が居れば大概のことが出来るのでは?

 

 そんなことを考えていると査定が終わったようだ。


「エリアス君、査定結果がでたわ。エンチャントも付与されていて、とても貴重よ。ギルドで買取りできる額は700万円よ」


「「「 700万円!! 」」」


 アリッサさん以外の受付4人が一斉にこちらを向く。

 それはそうだろう、この世界では平均日給が3,000円だ。

 700万円なら休まず働いて月90,000円と考えても、78ヵ月分近い報酬になる。

 レッドキャップの報酬1,000万円を合わせると、16年分くらい生活できる。

「エリアス君。キング報酬と合わせると、8年くらい生活できるわね」


「「「 8年~!! 」」」


 8年?

 計算が合わない。

 いえいえ、アリッサさん。

 いくらお金が入ったからと言って、月平均額の倍は使いませんよ。

 いやだな~。

 そんな浪費家に見えるのかな?

 それとも読み書きや算術ができる人は少ないから、計算できないのかな?


(エリアス君。これで2人で8年くらい生活できるわね)


「玉の輿「玉輿「玉輿「玉輿「玉輿「玉輿「玉輿「玉輿「玉輿「玉輿」


 あれ?

 どこからか『たまこし』て輪唱りんしょうが聞こえるけど?

 歌詞が短すぎない?


 見ると5つあるギルドの受付の内、アリッサさん以外の4人がこちらを見ながら輪唱している。

 なにか怖いんですいけど。

 これはなにか?

 近いうちにギルド内で学芸会でもあるのか?

 練習か?


 バンッ!バンッ!

「は~い。みんな静かにしてね!」

 アリッサさんが、なぜか勝ち誇ったように言う。


「おばさんのくせに……「ヒソ、ヒソ、ヒソ…「チェンジだ……」


 な、なんか怖い。

 女性の職場は仲が良さそうなのに、陰で何を言われているのか分からないと聞く。

 お金をもらったら、そろそろ帰ろう。


「はい、エリアス君。これがキングの斧を売ったお金よ」

 そう言いながらトレイの上に700万円が載っている。

「エリアス君はマジック・バッグがあるから良いわね。普通はこんな大金、持って歩けないからギルドに預けておくのよ」

「預けると金利が付きますか?」

「金利?」

「あぁ、付かないんですね。やはり自分で持ってます」

 ギルドでは資産運用と言う考え方はないのか。


 アリッサさんにお礼を言ってギルドを後にした。


「ただいま~!」

「おかえり~!エリアスおにいちゃん」

 宿屋『なごみ亭』のアンナちゃんがん迎えてくれる。

「宿の宿泊延長ありがとう。オルガお姉ちゃんからお金はもらったからね」

 しっかりしてるな。

 10歳くらいのはずなのに。

 環境が人を大人にするのか?



 トン、トン。

 俺はオルガさん達が泊まっている部屋のドアをノックした。

「あら、おかえりなさいエリアス君。中へどうぞ」

 オルガさんに言われ、部屋の中へ入る。

 オルガさん達は3人部屋を借りているから、俺の部屋より広いんだ。

 中にはルイディナさんとパメラさんも居た。


「宿代払っておいたわ。ところでギルドはどうだったの?」

 ルイディナさんに聞かれ、かいつまんで話した。

 ギルド長に会いアレンの街の領主、ドゥメルグ公爵に呼ばれるかもしれないこと。

 そのため、礼服を買ってことを話した。

「凄いわ。公爵家に呼ばれるなんて」


「で、エリアスっち。報酬はいくらでたの?」

 パメラさんが聞いてきた。

「えっ、うん。まあね」

 と、ごまかした。

 

「え、なんで言わないの?」

「そうですよ。それによって今後の予定が変わるのに」

 なぜ予定があるんだオルガさん?

「まさか、ろくな金額も出なかったなんて事はないよね」

 3人になぜか詰められる。


 そう言えば地球にいた時、友達に人の収入が気になる奴が居たな。

 給与を聞いてくるけど、答えないとしつこかった。

 なぜ人のお金のことが気になるんだろう?

 お金の事ばかり言ってると嫌われるのに。


「ねえ、いくらでたの?」

 俺は仕方なく言った。


「1,000万円です」


「「「 は? 」」」


「1,000万円ですよ」


「「「 1,000万円!! 」」」


「ど、どうしょう」

「落ち着いて、パメラ」

「だってそんな大金、持ったことないから怖いよ」

 いえ、持っているのは俺ですけど。


「そうね、パメラ。分かるわ。私は新しい弓と防具が欲しいわ」

 いや、だからルイディナさん。


「私もローブがほしいな?」

「私も剣が欲しいわ。でも貯めておく事を考えないと駄目よパメラ。1,000万円なんて2年くらいしか持たないわ」

 いや、十分9年くらい持ちますけど。


「それに宿代も馬鹿にならないわ。4人分だと」

 4人分?

 なぜ4人で考えるのですか?

 俺は1人ですが。



「ではエリアス君、出して」

「へ?」

「ここに出して。失くしたらどうするの?」


 ドンッ!ドンッ!とテーブルをオルガさんが叩く。

 か、顔が近い。

 結婚前はしおらしかったのに、結婚した途端に豹変したようなシチュエーション。


「大丈夫です、オルガさん。俺のマジック・バッグに入れておきますから」

「チィッ」

 え、なんですか、その『気づいたか』みたいな顔は?


 結局、仕方なくオルガさんには剣を、ルイディナさんには弓と防具を、パメラさんにはローブを買うことになった。

 今回の報酬は俺が持っていていいが、次からの討伐報酬などは今まで通りオルガさんに預けるように言われた。


 レッドキャップの斧を売った700万は黙っておこう。 

 パーティーを組むって難しいな。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 読んで頂いてありがとうございます。

 面白いと思って頂けたら★マーク、♥マークを押して応援頂くと励みになり嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る