第31話 検証

 俺はギルド長に呼ばれ、アリッサさんと一緒に2階に上がりドアを叩いた。


「どうぞ、入ってくれたまえ」

「失礼します」

 アリッサさんが先に入り、俺はその後に続いた。

 ソファにスタンピードの時に見た、ギルド長パウルさんが座っていた。


(イッ!)

 部屋に入った途端、嫌な感じがした。


「やあエリアス君だね。呼び出して悪かったね。ま、座ってくれたまえ」

 俺は向かいに座り、アリッサさんはパウルさんの横に座った。

「私がギルド長のパウルだ。具合はよくなったかい?魔力枯渇だったようだが」

「はい、おかげさまで良くなりました」


「そうか、それはよかった。街を救った英雄に、なにかあったら大変だからね」

「俺だけではありません。コンラードさん達も一緒でした」

「ああ、知っている。中央突破の時は全員だった。それも目覚ましい働きだ」


 今度はアリッサさんが口をひらいた。

「騎士団からの報告書を読み上げます。冒険者24人が風のように走り抜け、誰も欠けることもなく中央突破に成功した。その後、キング(レッドキャップ)に1人の冒険者が立ち向かう。そして騎士団の鉄の鎧さえも吹き飛ばす、キングの斧の斬撃を素手の腕で受け止める。(えっ!なにそれ)そして突然、青い炎がキングの顔を包み焼けただれた」

 そこで一旦、読み上げるのをアリッサさんはやめた。


「ここまで間違いないかね。エリアス君」

「はい、間違いありません」

「ここで疑問が出てくる。まずキングの斧の攻撃を素手の腕で受け止めるとは、どういうことなんだ?」

「俺のスキルです。キングの顔を焼いたのも俺のスキルです」

「スキルか。普通はスキルなら個人の秘密なので、それ以上は聞けない。だが騎士団から来た質問の場合は違う」

「教えるくらいなら、この街を出ていきます」

「そう言うだろうな。君ならどこに行っても引く手あまただろう。では次だ」


 アリッサさんが続きを読み始まる。

「その後、騎士団のナウム副長が、冒険者達を助けるため加勢するがキングを倒せず。ナウム副長死亡。キングを止めようとするが遠巻きに見てるだけ。そしてエリアス君の指先から魔法と思われるものが出てキングの体を貫き、徐々に切り裂いていきエリアス君は魔力枯渇。その後、キングも息絶える。報告は以上です」


「今度はどうかね」

「ナウム副長が冒険者達を助けるため加勢したのは噓です。最初から俺達を捨て駒にして、手柄だけ奪おうとして死んだだけです」

「他の冒険者から聞いて知っている。魔力枯渇の原因になった魔法の様なものとは」

「水魔法の応用ですよ」

「水魔法?だが細く途切れることなく、出続けていたようだが」

「その通りです。ですがそれ以上は言えません」

「そうか、わかった。君は冒険者だ。優秀な人材はギルドとしては、手放したくはないからな。騎士団にはうまく言っておこう」

「ありがとうございます」


「そこでギルドとしてはキングを倒せるほどの冒険者を、Eのままにしておくわけにはいかない。君はDランクだ」

「Dランクですか!」

「あぁ、ソロでDランクに上がるのは難しい。それ以上、上げると面倒なことになり、低すぎるのも問題だ。だからDランクなんだよ」

「そうですか。他にまだ何かありますか?」

「あぁ、ある。これだ」


 パウルさんは机に大きな巾着を置いた。

「今回のキングを倒した報酬だ。1,000万円ある。騎士団からだ」

 アリッサさんの目が一瞬、光った気がした。


「キングを倒し、街を救った金額としては安い気がするがな」

「それでも生活に余裕ができるから嬉しいです」


「それとキングの魔石がこれだ」

 テーブルの上に縦横10cmくらいの赤いルビーの様な魔石が置かれた。


「売るなら300万円で買取るがどうする?」

「いえ、これは売りません。パーティーのメンバーに魔術師がいるので、その子用にロッドを作ろうと思います」

「ほう、そうかい。で、これからエリアス君はどうするんだい?」

「どうすると言われても」

「キングを倒した功績は大きい。貴族になることも可能だからな」

「貴族ですか」

「貴族になりたいかね?」

「貴族自体がよく分からないので」

「それはそうだな。下には目を光らせ、上には気を遣う。そして自分の食い扶持を稼ぐ。簡単に言えばそれが貴族だな」

「なにか面倒そうですね」


「まっ、そう言うな。それに公爵家に呼ばれている」

「は?」

「アレンの領主、ドゥメルグ公爵様より呼出しがかかっているのさ。目が覚めたら通達するように言われていてな」

「行かないと駄目なのでしょうか?」

「貴族の呼出しは強制だからな。その金で訪問用の礼服を用意しておけよ」

「礼服?」

「貴族のお宅に伺う場合は礼服があるのよ」

 そう言うアリッサさん。


「時間があればオーダーメイドだけど、期間がなければ中古になるわね」

「今後のことを考えて、オーダーメイドで作っておけ。公爵家からの呼出しに間に合わなければ中古を買えばいい」

 そうパウルさんに言われた。

「礼服なんて言われても、購入したことがないので分かりません」

「それなら今から、アリッサと一緒に行けばいい。いいな、アリッサ」

「は、はい!」(これはデ、デートかしら)


こうして俺とアリッサさんは、礼服を買いに行くことになった。


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