第30話 ヘルガさん

 冒険者ギルドに着いた俺はドアを開け中に入った。

 昼のこの時間は空いていて好きだな。


 受付を見るとアリッサさんは、冒険者の相手をしていた。

 顔見せに来たので、終わるまで依頼書でも見ようかな。

 そう思い掲示板のところに行こうとした時だ。


「やめて下さい!」

「このアマッ」

 大きな声がした方を見ると、15~6歳?の受付の女の子が腕を掴まれている。

 新人だろうか?

 見るとスキンヘッドのイカツイ冒険者に絡まれていた。


「数字がほしいんだろ?なら俺と一回付き合えよ。」

「痛い!放してください。ここはそういう所ではありません」

「このDランクのガスパール様が稼いでやるよ」

 あ、いるんだ。こういう奴。


 冒険者にはそれぞれ、受付に担当がいる。

 ギルドも売上が無いと成り立たない。

 冒険者のサポートをすることで、受付にも報酬が出る仕組みだ。


 そして見渡すと誰も反応しない。

 アリッサさんやコルネールさんも。

 数人いる他の冒険者の人も見向きもしない。

 なぜだ?


「きゃ~~!!」

 俺は仕方なく、近寄って声を掛けた。

「やめてください。嫌がっているじゃないですか?」

「なんだと、小僧!誰に向かって口を利いてると思ってんだ」


「確かに俺は歳より若く見えますが17歳です。小僧ではないと思います

「「「 17歳!! 」」」

 ギルドにいた他の人達が俺の言葉に反応した。

 このことには反応するんだ?


(まあエリアス君。元気になったのね、良かった)

 1人アリッサは微笑んだ。


「オ、オジサンだとお~!俺はこう見えても23歳だ」

「ではいい年をした大人が、なぜこんな分別もないことをするのでしょうか?」

「この女も売上が無いと困るだろう。だから交換条件を出して何が悪い」

「それに手を放してあげてください。痛がってるじゃないですか」


「なっ、お前に俺の何がわかるんだ?この女が薦める依頼は報酬は良いが危険な物ばかり。それでも俺はこの女のために、頑張って依頼をこなしてきたのに。それなのにこの女ときたら一度も…」


 あ~、これはあれだ。

 女の子の見返りを求めて仕事を受けていた、てことだ。

 自分にもその分、報酬は入るはずなのに。

 受付の人の報酬は、自分が稼いでいるんだから付き合えよ、てことなんだ。

 しかもロリコンかよ。

 これは立ち入らない方が良かったな。


 女が悪いのか?

 それとも男が悪いのか?

 そんな手法に騙された男が悪いのか~、それとも騙した女か悪いのか~。

 あぁ、あの時、君に出会わなければ~。

 こんな思いはしなかったのに~。

 この思いも麻疹はしかのように一時のやまい~。

 すぐに治るさ、と自分を慰める~。

 なんか、演歌の歌詞ができそうだ。

 歌詞を作るなら、舞台はやっぱり港町みなとまちかな?


「おい、坊主。なにが港町だ?アレンの街に海はねえぞ」


 あっ、まずい。

 また口に出ていたのか。

 気を付けないと。


「だから、何に気をつけるんだよ」


「ガスパールさん、もうそれくらいにしたら。みんなも呆れてるわ」

「いや、でもアリッサさん。この坊主が」

「坊主ではありません。Miracle manミラクル マン(奇跡の人)の1人、エリアス君よ」

「お、お前があのレッドキャップを倒したエリアスか!」

「いいえ、一人ではなく、みなさんと倒したんですよ」

「そ、そうか、すまねえ。あの時、他の依頼で街を離れていたが、戻ってきたらスタンピードがあったと聞いて。残ったみんなが頑張ってくれたおかげで、帰る場所が無くならなくてよかった。感謝するぜ」

「あ、いいえ。自分にできることを、やったまでですから」

「ガスパールさん。私からもヘルガによく言っておくから、今日のところは、ね?」


(あの受付の人、ヘルガさんて言うのか)

「わかったよアリッサさん。じゃあ、またなエリアス。何かあったら言ってくれ」

 そう言ってガスパールさんはギルドを出ていった。


 みんな関わり合わないわけだ。

 俺も知っていたら関わらなかった。


 ちょうど、アリッサさんも手が空いたようだ。

 挨拶をしておこう。

 そう思いアリッサさんのところに、移動しようと思ったときに声を掛けられた。

「あなたがエリアス君」

「はい、そうですが」

 俺はヘルガさんの前にいることをすっかり忘れていた。


 ヘルガさんは髪は青みがかった黒色。

 ミディアムでストレートだ。


「ねえ、私のものにならない?」

「へ?なりません」

「は、早わね。即答なの!」

「ええ、俺は物ではないし。アリッサさんに今日は用事があったので」

「アリッサさんが担当なの?私にチェンジしない?」

 ここは飲み屋か?

 アリッサさんの目の前で言う?


「俺はアリッサさんがいいので」

「アリッサさんのどごがいいの?見た目、若そうだけど中身はおばさんよ」

「なんですって、ヘルガ。もう一度言ってごらんなさいよ」

 アリッサさんも受付越しに言ってくる。

 まあ確かにアリッサさんは250歳の森妖精エルフだからね…。

 15~6歳の女の子から見たらね。

 ヘルガさん、なんで知ってるんだろう?

 それに新入社員なのかな?

 その割にはれてるようだけど?


「誰が、ですって?」

 あっ、ここにもオルガさんと同じように、相手の思考が読める超能力者が!


「思考が読めるて、あなたが喋…「「エリアス君、具合はもう大丈夫なの?」」

「ええ、アリッサさん。大丈夫です。ご心配をお掛け致しました」

 ヘルガさんが話している途中で、アリッサさんがさえぎった。


「ヘルガ。私とエリアス君は仲の良いお友達なの、ジャムをもらえるほどね」


「「「「 えっ!ジャムですって 」」」」


「そうよ。この前、ブルーベリージャムをもらったわ。それにイチジク山盛もね」


「「「「 ブルーベリージャムにイチジク山盛りですって!! 」」」」


「しかも、『森の果物は季節ごとに違うから、その都度たくさん採ってきますね』とも言ってくれたわ」


「「「「季節ごとにたくさん、果物をくれるですって!!」」」」


「そうよ、だからあなたの入る余地はないの。わかった?」

「ジャム、果物、最高の愛の言葉…あわわ、あわわ、あわわ」

 ヘルガさんは両手をわなわなし、白目を向き泡を吹きそうになってた。

 大丈夫か?


「エリアス君。実はギルド長が呼んでいるの。お時間いいかしら」

「はい、大丈夫です」

「良かった。では私と一緒に2階に来てくれるかしら」

「分かりました」


 俺はアリッサさんと一緒に2階に上がり、ドアを叩いた。


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