第16話 うなれ『トカゲ再生』
自分が得た数々のスキルを把握しきれていない。だから人前で披露したくなかったが、私を守ろうとした騎士ケント君が死にかけている。私は助ける方を選んだ。
「アヤメ殿、それは本当か」
「ケント君の鎧を脱がせて、時間がないでしょ」
上半身を裸にされたケント君は、血を吐いている。ハイオーガの膝が当たった右胸がへこんで紫色になっている。
「アヤメ殿、ハイポーションを飲ませても改善しません。肋骨が折れ、内蔵も損傷しているようです」
「スライムヒールでは無理だな。これしかないか」
ケント君の胸に手を当てた。
「トカゲ再生」
オオカミを捕まえて実験した。骨をたたき折ったり、ナイフで切りつけたりして「トカゲ再生」を唱えた。
すると、オオカミの傷が治った。このスキル、触れていれば自分以外にも利くことがわかった。
ただし、人では初めてだ。
それに・・。懸念材料もある。
「さらにトカゲ再生」
ゴキッ、ゴキッ、ゴキゴキ。
「ぐげえ、ぶほっ、ぐああああああ!」
「ケント!」
「何をした、あんた」
「うるさい! 治療に集中させて。ケント君が暴れて内臓を痛めないように押さえて」
「かなりひどい。ちょっとやそっとじゃ治らない。トカゲ再生、トカゲ再生、トカゲ再生、20回追加」
ベキベキベキ。
そうなのだ、トカゲ再生は「再生」。巻き戻す感じなのだ。損傷した内臓も治してくれる。粉砕骨折も治してくれる。
だけど、治すと同時に臓器に刺さった肋骨を無理矢理に引き抜く。へこんだ胸を強制的に膨らます。切れた神経が、強引に引っ張られて接合する。
ケント君はハイオーガに蹴られたとき以上の痛みを感じる。
だってオオカミで実験したとき、「熊力」でも押さえ切れないくらい暴れたもの。
「もう少しよ、耐えてケント君」
「ぐあっ、ぐあっ、ぐぐぐ、あ、はあっ、はあ、ああ」
よし,追加でトカゲ再生5回。
「ケントの頬に赤みがさしてきた・・」
「すー、すー、すー」
「何とか、なったと思う」
「ありがとう」
「ケントを助けてくれて感謝する」
なんて言いながら、10人くらいがけが人。隊長さんらしき人は腕が折れているようだし、副隊長と呼ばれていた人は右目がふさがっている。
「みんな、こっちに来て。オスカーさんも。治すわ」
トカゲ再生を30発ほど乱発し、隊長さんのねじれた腕を元に戻し、重傷者から順番に治していった。
「オスカーさん、副隊長さん、ほら遠慮しないの。騎士隊が先で自分は後回しって優しいね。オスカーさん右手、そのまんまじゃ動かなくなるし、副隊長さんの右目も殴られて白く濁って、失明寸前でしょ」
残りMPが分からず心配になってきたけど、まだだるさも感じない。
それに、オスカーさんの右手と副隊長の右目が相当なけがなのか、トカゲ再生5回ずつでも改善されない。
「どうせなら、治そう。ここで私が倒れても拘束されない。そう信じよう」
二人の患部に、「トカゲ再生」を50回ずつかけた。
ゴキゴキゴキ。
ビキビキビキ
「うわああああああ、痛い、痛い」
「目が痛い、ぐわあ」
「オスカー様!」
「副隊長!」
「治ってきてる。だから我慢して」
2人は5分くらいのたうち回ったが、何とか落ち着いた。
「良かった。治せたよ」
「ア、アヤメさん」
「もう起きれたの。良かったよ、ケント君」
「あなたは聖女様ですか?」
「ん?」
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