5章 シャカンキョリ -side.M-

エピローグ

 スマブ○大戦の翌日。

 あたし達三姉妹は、『焼き鳥みやび』に来ていた。



「だからさぁ!! 最初と最後の、唐突なテコ入れは何!?

 てか、最初からテコ入れとか、マジ意味不明なんだけど!?

 あそこだけめっちゃ浮いてるじゃんかぁ!!」

「分かってないなー。導入部分なんて、あんな形で良いんだよー。

 そっちこそ、話が飛び飛びで広く浅く無難にって感じじゃーん。そのくせゆかりちゃんとのシーンだけ、妙に艶いし長いしー。

 夏葵なつきちゃん、そっちなのー? メイン、忘れちゃったー?」

 卒業式も終えた頃、あたし達は姉妹揃って、焼き鳥みやびへと集まっていた。

 そこで、とある目的の為に作戦会議をしていたのだ(なお、お察しの通り、すで紅羽いろはちゃんは出来上がりつつある)。



「そもそも、夏葵なつき

 あんたと空晴すばるの馴れ初めって、あんたが女子力の無駄アピールのために自作の弁当を見せびらかしてたら、空晴すばるの作って来た弁当にボロ負けしたのが悔しいわ恥ずかしいわで、そっから毎日、弁当勝負し始めたことだったじゃない。

 何、サラッと改変してんの? そんなに、空晴すばるに張り合った結果、完敗、大破続きだった過去が悔しいの? 空晴すばるのみならず、風月かづきやリュウさんにも勝てないもんねー。

 おー、よしよし」

「ち〜が〜う〜!!

 主役の舞桜まおちゃんのために花を持たせたの、尺を残してたのっ!

 そもそも、うちの男性陣が揃いも揃って料理上手うまぎるだけだし、三人相手じゃなきゃうちが余裕で圧勝、優勝だしぃっ!

 てか、舞桜まおちゃんこそ、引っ張り過ぎ! なんで一日の出来事で一話、消費してんのよ!?

 あ、待って!? ナデナデは続行で! ステイ!」

「犬かあたしゃ。忙しい奴め。

 でも、まぁ……確かに、心の底からしゃくだけど、紅羽いろはちゃんのは見事なのよねぇ、最初と最後の、ただただだだ寒い三文芝居はともかく。

 あたし達で言う所の引きが少なくて、イベント盛り沢山な上、RTAペースで伏線を連続で回収してるし。カットしなくて正解だったわ。

 まぁ、序盤はクズいけど」

本当ホント、それなー。真性のクズだよねー、私。

 だから、ずっと根に持つかんねー? 折角せっかく、可愛い可愛い愛しの夏葵なつきちゃんが、『三人でうちのデビュー作書こう』って誘ってくれたのに、私のターンだけカットなんてさぁ」

「もう、その話はいでしょ?

 ちゃんと採用したんだし。っても、仮に没っても、あたしとの仲直りのシーンとワゴンの所は、あたしの一人称で回すもりだったけどね。

 それより、夏葵なつき本当ホントに良かったの? 折角せっかくのあんたのデビュー作が、あたし達との合作なんて。

 それも、ノンフィクションだし」

「まっ、私達も結構、恥ずかしい事してるけどねー。

 ってか、そもそも、ここまでアレな話、誰も現実だなんて信じないし、そもそも真に受けないだろうから、なんの問題も無いだろうけどねー」

おおむね同意。ただ、紅羽いろはちゃんは黙ってて。

 で、夏葵なつきいの?」

「あー、うん……」

 夏葵なつきは巻いた髪をイジりつつ、外方そっぽを向きながら返す。



いの。うち一人じゃ不安だったから。

 手伝ってくれて、ありがと。おかげで、最高に華々しいスタートが切れそうだよ。

 提供された話ってかネタが、ちょーっとばかし予想外にヘビーだったってーか、生々し過ぎて逆にリアルっぽくなかったけど。

 最後のスマブ○犬オクトは、ちょっと劇薬過ぎたけど。あんなこと出来できないから。教えてないから。うち、そこまで間抜けじゃないし。

 紅羽いろはちゃんのなんでもり、コミカルっり意識しぎってか、対抗心出しぎだよ、舞桜まおちゃん」

「あっはっはっ♪ 前半、進研ゼミみたいー♪」

「こーら、茶化すな。

 あと、それについては謝る。ちょっと巫山戯ふざけ過ぎた」

 紅羽いろはちゃんに軽くチョップを食らわすと、あたし達は本題に入る。



「さてと……二人共。

 こうして、風月かづき空晴すばる勿論もちろんリュウさんもない中、一緒に来たのは他でもない。確認する為よ。

 ズバリ……どうだった?」

 肘杖しつつあたしが質問した事で、仁義なき女性会たたかいの火蓋が、切って落とされる。



 紅羽いろはちゃんは目を閉じクネクネ動き出し、夏葵なつきは赤面しつつ目をらした。



勿論もちろん、最高だったー♪

 トシくん、うぶくせしてテクいんだー♪」

「マジか。意外」

 この話を聞いて、あたしがそこまでダメージ受けてないのも含めて。

 そういえばあの人、初プレイのくせしてスマブ○超絶強かったっけ。飲み込み、異常に早いのな。



「きっと、必死に勉強したんでしょ?

 ヤッシー、そんなタイプだし」

「いんや……あれは、勘と本能任せだったね、完全に。

 百戦錬磨の紅羽ちゃんには分かる……」

「……本番は一度もしたこと無かったくせに。

 チュートリアルをクリアしてから一向に進んでなかった、ログボ勢のくせに……」

「甘いなぁ、作り込みが。

 そこは、『チューと本命リアルは未経験』って言うべきだよー。

 あと、前者はともかく、後者の例えが、分かりづらいって意味でも微妙、弱い。奇を衒った上に欲張ったのは失策だったね」

なんで突然、マジレス気味に審査されたし!?」

 ヒートアップして来た二人を「まぁまぁ……」と宥め、冷静になった夏葵に問う。



「そういう夏葵なつきは?

 空晴すばるとの初めて、どうだった?」

「べ、別に……。

 普通っていうか、まぁ……上の上、みたいな?」

「普通じゃないじゃん」「きゃわたん〜♪」と、二人で集中砲火を浴びせると、夏葵なつきは躍起になり、反撃とばかりに身を乗り出しあたしを問いただす。



「そういう、舞桜まおちゃんは!?

 カヅにぃと、ちゃんと出来たの!?」

「ん。お陰様で。

 本当ホント、ありがとね、二人共」

 感謝を伝えるべく、あたしは二人の頭を同時に撫でた。二人共、クシャッと笑ってくれた。



「さて、と。気になる話題が出た所でなんだけど、次の議題。

 略称、どうする?」

「そりゃもう、『シャリ』一択っしょ夜は焼肉っしょー」

いやよ!! そんな、寿司みたいなの!

『シャカキョ』でいじゃん!

 あと、ここは焼き鳥!」

寿司馬鹿バカにすんなし、侍戦隊随一の貢献者だぞー?

 だって私ー、『ゃ』『ゅ』『ょ』が付いてると言い難いんだもーん♪

 2個も入ってるじゃーん♪」

「何その、めっちゃ個人的な理由!

 じゃあ、『シャカリキ』は!?」

「あははははっ♪

 何その、バッドバッドにエムゥい名前! 超ウケる〜♪」

真面目まじめにやれぇっ!!

 あと、特撮ネタ入れぎぃっ!!」

「寿司だけにねー♪」

うっさい! カヅにぃでもないのに、詰まんないギャグ挟むな!

 で、舞桜まおちゃん審議官!! 判決は!?」

「ちゃん?

 ん、まぁ……『シャリ』で。あたしも滑舌悪いから」

ルラ切り者ぉぉぉぉぉ!!」

 訂正。あたしの妹も同じである。特撮ネタが多分に含まれるのも含めて。



「ほいじゃ、次の議題。

 ペンネーム」

「『春夏秋ふゆなし』って、どー?

 春夏冬あきなしみたいな感じでさー♪」

「ん。日日○あき○さんみたいで、遊び心と趣が両立してて面白い。有り。

 ただし、一部のファン、てか母さんから、仲間外れにされたことでクレーム出る、でも言葉には出さず態度で示すだろうから、具体的にはご飯、もしくは夏葵なつきの小遣い減らされる可能性、危険性が微レ存。

 そん時は紅羽いろはちゃんが全力をもって、責任を持って対処すること

「え〜!?」

「じゃあ、名前は『三花みか』でどう?

 三人、三色の花って感じで」

「ん。んじゃん。

 じゃあ、それで」

「ちょっと! ちょっと、ちょっとぉ!!

 流石さすがに、お母さんの相手は出来ないかんね!? 務まんないかんねぇ!?

 勘弁、遠慮ぉ!!」

ひとの口癖、取んな」

本当ホントうっさいなぁ、紅羽いろはちゃんは。

 まっ、精々せいぜいせっせとケボんなよ。偉大なるうちために」

ルラ切り者ぉぉぉぉぉ!!」

 ……流行ってんの? それ。大分、遅くない?



「しっかし、良かったのー?

 こーんな美味しいネタ、早々に消化しちゃってさー」

いのっ!

 バズったら、下敷きにして、今度こそソロで書けば良いし!」

「ぐーふーふー、なるほどー。

 意外と計算してるんだねー、夏葵なつきちゃーん」

「その、昔の青狸なんだかキューティー画家なんだか分からない笑い方、止めれ!」

「じゃーず、私達三姉妹の分っしょー。

 他にもボーイズ·サイドも用意してー。

 んで、お父さんとお母さんの分とー、夏葵なつきちゃんとゆかりちゃんのGLるIFルートも補完してー。

 あ、最後のが特に需要ありそーだから、最初に書くべきかもー」

「却下、却下ぁ! 特にヤッシーのは絶対ぜったい駄目ダメっ!

 あの人、舞桜まおちゃんより長ったらしく書くから! 纏めるの、下手過ぎるからぁっ!!」

「……それ、国語の教師として、どうなの? 今更だけどさ。

 あと、GLるのは構わないんか。

 てか、おい小娘。今あんた、何てった? おぉ? 性懲りも無く」

「不快だ、不愉快だ〜♪ 今日、夏葵なつきちゃんの奢り〜♪ はい決定〜♪

 答えは聞いてないっ♪」

「意見は求めない」

「ぎゃぁぁぁ!!

 地雷、踏んだぁぁぁ!!」



 ま、何はともあれ。

 あたしが実家に帰り、さら紅羽いろはちゃんの清書係の任を解かれクリエイターとして駆け出した事で、夏葵なつき紅羽いろはちゃんに一方的に向けていたヘイトは無くなった。

 こうして姉妹水入らずで語り、笑い合える様になったのは、手放しで喜ばしいと思う。

 今までしたくても実現不可だった分、これからはじっくり、ゆっくり溝を埋めて行きたいと切に思う。

 だって折角せっかく、家族をつなぎ止めてくれるキー·アイテムも、修理された状態で帰って来たのだから。





 あれから、一年後。あたしの身の回りでは、色んな事があわただしく変化して行った。

 


 ず、我が家は、紅羽いろはちゃんの全面的負担により、大々的に増築された。

 部屋は増えるわ、駐車場スペースは広くなるわ、それぞれの車庫が出来るわと、さながら秘密基地の様相を呈していた。

 隣の売り地まで紅羽いろはちゃんが購入したことで、それはもう際立って進化した。もっとも具体的な例を挙げるならば、駐車スペースが3倍、つまりは10台分になった。



 そして何より、家族が増えた。

 いや、別にあたし達の間に子供が出来たわけではなく(かといって欲しくない訳でもないむし今直ぐ欲しい)、単純に男性陣が全員、うちに引っ越して来たのだ。



「リュウさんや空晴すばるはともかく、俺、要る!?

 舞桜まおの部屋のぐ向かいだぞ!?

 裏側だぞ!?」などと風月かづきは当初、ゴネねていた。

 が、「こういうのは形から入るのが大事なんだ」「そんなだからお前は駄目ダメなんだ」 という全員からの意見、批判、そうスカンを受け、折れた。

 その際に、「これで名実共に、本当に花鳥風月じゃん」と揶揄からかうと、「今直宮灯原みやびはら 舞桜まおにしてやろうか?」とカウンターをもらい、暗黙の了解により深夜戦のすえあたしが勝利を辛くももぎ取った。

 やーい、花鳥風月ー。



 風月かづきの話になったし、それぞれの家族のその後について触れよう。



 風月かづきは現在、紅羽いろはちゃんを筆頭株主にしたことで独立、みずからのPCゲーム会社を立ち上げ、意気投合した腕利きのスタッフを集め、プロデューサー兼メインライターとして忙しく活動している。


本人は、「これで少しでも、俺でも観られる様な、純愛がテーマのAVとか増えると良いんだが」と笑っていた。

 あたしの相手をする事で弱点を克服しつつあるのは嬉しいが、変なプレイなりコスプレなりを上目遣いで許容される日々を送らされる身にもなって欲しい。

 拒むのなんて土台、はなっから不可能なんだから。



 空晴すばるは、風月かづきの会社にデザイナーとして入り、キャラデザを担当している。

 あの強面風な彼の手により生み出される可愛らしいく美しい、それでいて媚び過ぎない、あからさまに狙い過ぎていない、完全には現実離れしていないデザインは、制作発表当初から話題騒然となった。

 今も風月かづきと日夜、「ああでもない」「こうでもない」と熱く激しい議論を交わしながら二作目を鋭意製作中である。

 また、背景などの勉強もしつつ、夏葵なつきの書いたラノベ専属の挿絵担当もこなすなど、相変わらず器用である。



 リュウさんは伊達だて眼鏡を外し、イケメンのままで周囲に接するようになった。

 それにより、人見知りを直したいらしい。

 お陰で生徒達は勿論、女性の教師陣にも引っ切り無しに言い寄られているのだが初中後しょっちゅう紅羽いろはちゃんが遊びに行きスキンシップをしまくる事で魔除けをしているので何とかなっている様子ようすだ。

 最近だと、こっそり首元、何なら頬にキス·マークなども付けられており、そのまま食卓に来たりするので、あたし達は当人達を除いて全員、可笑しくてたまらない。



 紅羽いろはちゃんも、リュウさんに当てられたのか、今までのペンネームの正体を明かした後、リュウさんの承諾を得、社岳やしろだけ 紅羽いろはとしての活動を開始。

 これまでの様々なジャンルのファンが一同に会することになり、別にスキャンダルでもないのに世間はしばらく悪い意味でにぎわっていた。

 が一度ひとたび紅羽いろはちゃんの作品が世に出ると、その歴史的新境地の目撃者になった彼等の大部分は、泣きながら笑顔で手を取り合ったのだった。

 ただし、紅羽いろはちゃんは唯一、不完全な形でネットに挙げていた事実は明かさず、今も続けている。

 理由を聞くと、「音楽と一緒だよ。合法的にただで楽しめるのが現代的、近未来的でーんじゃん」と笑っていた。

 そういう所が有るから、彼女を心からは嫌えない、勝てないと思い知らされた。

 あんな適当、気紛れな性格でガッチガチの純文学なんて書いてて、映えある賞などももらっているのだから、本当に腹立つし、それ以上に誇らしい。



 夏葵なつきは、空晴すばるの影響からか、すっかり恋愛物メインで活動するラノベ作家になった。

 空晴すばるの絵柄も手伝い、ポップでキュート、それでいて時にシリアスな急展開なども入れるので、中々に興味深い。

 他にも、バラエティやイベントなどにも積極的に出演したり、漫画原作も行ったりと、幅広く活動している。

「いつかクイズやキャスターもやりたい」と本人は息巻いていたが、かといって本業は忘れない辺り、アイドルや女優みたいな事まではしない辺り、彼女はすでに立派にプロとして働いていると思う。

 はっきり言って、あたしなんかよりも余程、プロ意識が高いと思う。

 まぁだからといって、ガキ○の年末スペシャルにサプライズで登場し、熱唱するだけ熱唱して無言でクールに帰ったり、叶○妹とセットで際どい格好で現れてバズーカを発射したりしたのは流石さすがにやりぎだと思うが。

 しかも何が酷いって、リアタイ視聴するまで我が家の誰にも教えてなかったことだ。お陰で力うどんを食べていた(何か色々と違わない?)空晴すばるは、驚いた拍子に餅を喉に詰まらせかけた。

 この子、クイズやキャスターまでやる必要、無いんじゃあ……?



 母さんと父さんは、還暦を迎えたのでそろって退職し、熟年離婚疑惑が浮上していたのが嘘みたいに常に一緒にて(なんと、トイレやお風呂もだ)、仲良く明るくイチャイチャと老後を満喫している。

 あまつさえ、「テレビで観てたら綺麗だったから」などと軽弾みに、ほう·れん·そうも無く旅行で家を空けている、なんてことが相次ぐようになった。

 おかげで最近の我が家では……。

「これじゃ私が帰って来た意味、無くないっ!?

 あと、増築した意味っ!!」

「まさかこれ、うちよりも早く子供出来ちゃうのワンチャン!?

 セブンティウイザンならぬシックスティウイザン!?

 ちょっと、男子ぃっ! しっかりしなさいよぉ!」

夏葵なつきちゃん、違う、初産じゃない!!

 さもないと私達、とんでもなくややこしいことになる!!」

「気持ち的に!!」

「それならセウト!!」

 といった具合に、紅羽いろはちゃんと夏葵なつきは、すっかり日常的に当たり散らしている(最後はよく分からないコントになっていたが。てか、結局アウトなんかい)。



 最後にあたし

 二人みたいに際限なく、コンスタントかつ万能に書けるタイプではないので、ノベライズや下読み、風月かづきのゲームのサブやスクリプトなどのかたわら、アニメや映画、ドラマの脚本などを回してもらったりと、多岐に渡って執筆して食いつないでいる。

 紅羽いろはちゃんの清書係として勤めていたのが、こんな形で奏功するとは夢にも思わなかったが、おかげで読み取ったりまとめたり調整するのが得意になり今の仕事に繋がったので、結果オーライだ。

 とはいっても、下積み時代が長くても新参者なのは変わらないので、売れっ子の紅羽いろはちゃんの作品はおろか、夏葵なつき原作のメディア化を預けてもらうにのさえ、まだほど遠い。

 これは風月かづきにしか話していない(というか、話さなくても全員にお見通しだろう)が、二人のメディア化のシナリオを担当するのが、今のあたしの一番の目標、ひそかな夢だ。

 あ、勿論、風月かづき空晴すばるのもね。

 


 そんなわけで、同じ一つ屋根の下であたし達は生活を共にしていたが、各々おのおのに時間や締切に追われ、起床時間もバラバラ、けれどなるべく食事だけは一緒に済ませる。



 そんな日々を送り続け、ようやく互いに仕事が一段落したタイミングで、例のワゴンで夢の国に旅行で行く事になった。

 祖父母との約束を果たすのも大事な目的の一つだが、だからといって遺影を持ち運ぶわけには流石さすがに行かないので夏葵なつきが、この日のために、二人をモデルにしたアクキーを拵え、スマホに付けてくれている。

 ちなみにその間、我が家の愛犬オクトは、ゆかりちゃんが住み込みで面倒を見てくれる事になっている。



「安心して任せて。私達、すっかり仲良しだもの。ねぇ、オッくん」と、ゆかりちゃんはオクトを抱っこして顔を舐められていた。

 が、あれは恐らく、オクトが一番懐いてる夏葵なつきの匂いに反応しているのが一番の理由だと思うが、誰も触れないでいた。


そうして穏やかな空気が流れる中、「ところで」と、ゆかりちゃんは切り出した。

「この子、お宝探しとか、得意だったりする?」と。

 


 ……出版化されていた『シャカンキョリ』を全員が読んでいたから、知っている。彼女が、どういう意味と意図の下、この発言をしたのか。

 案のじょう、「オクトに変な事させんなぁ!!」と、夏葵なつきに怒られていたが。



 ガチだったんだ、あれ……。よく書かれるの承諾したなぁ……。

 まぁ、『承諾云々』に関しては、この場にいるみんなに当て嵌まる事だし、少し驚いただけで、だからといってあたし達も何が変わるってんでもないが……。

 っても、タゲが夏葵なつきにだけ向かってるとか、その夏葵なつきが上手いこと制御してるっぽいとか、そういう、ともすればちょっとアレな安心感も有るけど……。

 ……やっぱ、クズいんかな? あたし



 夏葵なつきのみがいささか不安、あたしおおいに不安を残す形となったが、あたし達はゆかりちゃんにオクトと我が家を預け、正面から見て一番左に置いてあるワゴンに乗り、出発した。



 去りぎわあたしは、並んでいたそれぞれの車を見た。そして、思った。

 あたし達の車は車庫によって遮られていて、壁こそある。でも昔みたいに、不必要にスペースが空いたりはしていない。丁度、今のあたし達と同じように。


ただ唯一、異なる点は、もうあたし達には壁なんて無いって事。いつでも、好きな風に求められるってこと



 二人がけの後部座席に座るあたしはチョンチョンと、横に座る風月かづきの服のすそを引っ張り、サインを送る。

 風月かづきは見詰め返し、すでに空になっていたペットボトルを、二人の間辺りの位置に落とす。

 そして、互いに拾う振りをしてかがみ……座席の裏で、誰にも内緒な、秘密のキスをした。



「……この、甘えん坊」

「……欲たかり」

 互いに小声でジャブを放ったあと、もう一度、あたし達は手を握り、口付けを交わした。

 誓いを立てるように。

 未来を、永遠にそばことを、約束するように。





 複雑を通り越していびつな片想いを続けていたアンニュイ、ドライを装った、本当ほんとうは直情的かつお喋りな次女、舞桜まお



 初恋すら迎えていなかった、ボーイッシュで勝ち気で素直で元気な、ちょっとだけ素直になれた不器用な三女、夏葵なつき



 本気の恋はいまだに未経験だった、適当で気分屋で元ミザントロープで、けどやる時にはやる、魔性の女風の長女、紅羽いろは



 これは、そんな、個性も年齢も経験も恋愛観もタイプもバラバラな、山有り谷有り性格に難有りまくりの三姉妹の、三姉妹による、三姉妹のためにお送りする。崩壊寸前の家族と、一筋縄では行かない恋を再生し、再び生き直すまでの、やり直しの物語。



 花鳥かとり家を乗せて、家族のシンボルは、夢の国へと向かう。

 装いを新たに。これからどころかすでに家族になりつつある、大切な人達も乗せて。 



 家族が増えても、この先もずっと、あたし達を、未来に運んで行ってくれる。

 喧嘩けんかしてても、また、きっとつなげてくれる。

 だって、あたし達も、この車も、見えない糸で結ばれているから。

 どんなに離れそうになっても、実際に断ち切られても、何度だってまた、一緒になれる。



 加速と減速と停止を繰り返しながら、遠回りもしながら、時々休みを挟みながら、たまに高速に乗りながら、それでも真っ直ぐ、未来を目指して。

 あたし達の物語ものがたりは、人生のドライブは、これからも続いて行く。



 ずっと、ずっと、進んで行く。

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