5

 紆余曲折をて、あたし風月かづきようやく結ばれた。



 今まで散々、アレな日々を繰り返して来たけど、それでも変わらずあたしそばに置いてくれるみんなためにも、心機一転し、新たにスタートしようと思う。



 ……のは、いんだけどさ。


「おい、誰だ!?『カヅキング』にしやがったの!」

「ちょ〜お〜ご〜お〜きん〜♪

 カ〜ヅ〜キ〜ン〜グ〜♪」

「きっさっまぁぁぁぁぁ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!

 『エロハ』は!! 『エロハ』は、駄目ダメぇ!! 私、もうエロくないもん、背伸び止めたもんっ!!

 せめて『イロカ』とか『ホヘポテト』にしてぇぇぇ!!」

「大差ねぇ!! だが、望み通り『ホヘポテト』にしてやんよ!!

 あと、オクト!! お前、GCコンの希少価値、分かってんのか!?

 貸してんだから、もう少し大事に扱え!!」

「ちょっと、空晴すばる!!『リゼ○』ってなによ!?

 怒られるわよ!?」

「だって、他に思い付かんし……。

 余談だけど、あんたと俺の名前、組み合わせると、それっぽいよな」

本当ホントに余談、止めれ!!」

「えーっと……。

 ここで、攻撃……でしたか? ゆかりさん」

「違います、先生。

 そっちは、移動です」

「はー、なるほど。

 こっちですね」

「先生。

 そこはポーズです」

「分かりました。こうですね。

 任せてください。これでも僕、子供の頃、カンフー映画をよく観てて」

「先生。それは、動かして操作するタイプじゃないです。

 座ってください。何より、大人おとなしく話を聞いてください。

 あなたの専属コーチを交換条件に、夏葵なつきにデートさせる算段なので」

「あー!! トシくん、浮気してるー!!

 いーけないんだ、いけないんだー!!」

「ちょっと待った!

 何それ、初耳なんだけどぉ!?」

夏葵なつき、あんた……。

 俺じゃあ飽き足りないっていうのか……?」

「ち、違うし!!

 てか、女同士でもデートって言うし!

 勘違いも露骨なガッカリもめろし、空晴すばる!」

「あら? 私は、それ以上のもりで言ったんだけれど?

 うふふ」

ゆかりぃぃぃっ!!」

「だぁぁぁ!! オク、手前てめ巫山戯ふざけっ……!!

 舌で操作すんじゃねぇぇぇぇぇ!! つか、返せぇぇぇぇぇ!!

 誰でもいから、止めろぉぉぉぉぉ!!

 噛むなぁぁぁぁぁ!! スティック壊れるぅぅぅぅぅ!!」

にぎやかで楽しいね、母さん」

「そうね、あなた」

「……」



 ……あたしの偏見塗れの持論なのは百も承知で言わせてしい。

 あたしの中では、初めてのあとに挟まれるのって、倦怠けんたい感と満足感と多幸感に包まれたピロー·トークとか、互いに顔を突き合わせられないまま、ぎこちなく体調を気遣う初々ういういしく瑞々みずみずしい朝とか、そういうシーンのはず

 なのに……この騒がしい、カオスぎる現状は、なんなんだろうか。



 とてもじゃないが、ツッコミし切れない。

 どう考えても、人数だけの所為せいじゃないでしょ、これ。



「……はぁ……」

 すでに頭がおかしくなりそうだが、いよいよもって本格的に収拾しゅうしゅうがつかなくなる前に、そろそろ説明に入るとしよう。

 


 ず昨晩(というか今朝)、風月かづきあたしは恋人ごっこを卒業し、一蓮托生、二人で一人系の幼馴染おさななじみ的なラインを踏み越え、ついに、晴れて、やっと、念願叶い正真正銘、大っぴらに恋人同士になった。

 っても、お察しの通り、目に見えた劇的な変化とかは特に無く、今までの延長線でしかないわけだが。



 で、なんで現在、全員があたしの実家に勢揃いしているかというと、主催者かづき曰く、『卒業記念の打ち上げ』らしい。

 ま、このグループは花鳥かとり家が半数を占めてる訳だし、全員が一堂に会するには、ここが打って付けというか暗黙の了解というか、そういう流れになるのは自然だろう。こんな大所帯じゃ、カラオケ行っても大して歌えそうにないし。



 風月かづきが嬉々として『卒業記念』とうたっているのが、なにやら文面通り以外の含意も込められている気がしたし(絶対に言わないけど)、我ながらバカップルっぽくってアレだが、今位くらいは二人でのんびり、ゆったり静かに過ごしたかったのが本心である。

 しかし、ペット·ショップで訴える子犬みたいなウルウル、キラキラした目でうったえられ、更にキスの嵐という追撃まで食らった以上、あたしから抵抗の意思はついえた。

 まぁ、『それ、もっと違う、別のシーンで使えよ!! 夜とか夜とか夜とかさぁ!!』とは思ったが。

 いや、これだけ取ると随分ずいぶん、肉食系だな、自分。てか、何だかんだで充分、カップルっぽいことしてるな、あたし



 なにはともあれ。そんなこんなで、総勢9人(+1匹)で絶賛、ス○ブラ中というわけだ(っても、父さんと母さんはほとんど見る専の方針みたいだが)。

 最新作だと、同時に8人まで対戦出来できるというのだから、時代の進歩とは恐ろしい。試合を目で追うのも含めて、付いて行くのが大変である。格ゲーだと余計、目まぐるしいし。



 にしても、紅羽いろはちゃんも夏葵なつきも元気だなぁ。

 大方おおかたあたしよろしく、朝までズッコンバッコン没頭してただろうに、むしろツヤツヤしてるくらいだし。

 あと、男性陣も、そんなに疲弊してない(風月かづきは際立ってうるさいし、空晴すばるも表情はともかくテンションは常に平坦だから分かりにくいけど)。



舞桜まお

 などと余所事にふけっていると、風月かづきが隣から呼んで来た。

 ふと画面を見ると、操作キャラを選んでいないのはあたしだけだった。

 待って、オクトにすら負けてるのは流石さすがに心外なんだけど。

 てか、すごい今更な上に天丼だけど、なんでワンちゃんがゲームやれてるの? そんで、あたし以外のみんなは揃いも揃って、なんで割と順応してるの?

 え、みんな夏葵なつきの動画、観てた感じ?



「……」

 色々と考えた末に、あたしは思考を放棄し、えず得意キャラではなくオールラウンダー型を選んだ。

 ちなみに九分九厘、紅羽いろはちゃんが犯人だろうけど、あたしの名前が『マオウ』になっていた。いや、ま、確かに似てるけど。

 そうして、いくつかの不安要素を抱えつつも、試合開始。



「待て!!

 オクトお前、めっちゃ強くなってんじゃねぇか!! 普通以上に戦えてんじゃねぇか!

 どうなってんだよ、一体!」

「へっへーんだ! 何たって、うちが手塩にかけて育てたからねー!

 て、わぁぁぁ!! 飼い犬に噛まれたぁ!!」

「無差別かよっ!?

 しくった、チーム戦にすべきだった!!

 でも、ここまで来てリセットするなんてみっともねぇ真似マネ出来できねぇ!!」

「ねぇ。なんだかさっきから、先生の動きが明らかにおかしい。妙に落ち着いてる、手慣れてるわ。

 どう見ても、素人しろうとじゃないんだけれど」

「え? 初心者ですよ?

 やり方覚えたばかりの」

「たった今!?

 ほんの数秒で!?」

「なるほど。そう来ますか。

 分かりました。こちとら、夏葵なつきとのデート権が賭かってるんですから。

 意地でも蹴散らしてご覧に入れます」

「わぁぁぁ!!

 ゆかりちゃんが、急に強くなったぁぁぁ!!」

「そりゃ、目の前に油揚げぶら下げてるし。

 でも、そういうことなら、俺だって負けない」

「ぎゃぁぁぁ!!

 今度は、空晴すばるくんが化けたぁぁぁ!?」

「そもそも、デート権とかいからっ! 賭けるなら、せめてチーム·メイトになってからにしろしっ!

 てか、シード権みたいに言うなしっ!」

「ダーク·ホースしかねぇじゃねぇか!

 出だしから、とんだ番狂わせだ! 怖ぇよ、ただただ!!

 てか、そんなドロドロしたの持って来んな! 他所よそでやってくれ!

 ただでさえアレなのに益々ますます、気が気じゃねぇ!!」

「ほら、風月かづき。あんた一応、ゲーム·クリエーターでしょ?

 根性見せろ」

舞桜まお手前てめえ!!

 なに、離れたとこで一人だけ堂々と涼しい顔で高みの見物、決め込んでやがる!?

 ほんで、俺はシナリオ·ライターだ!!」

「あ。そういえば、カヅにぃ

 前にカヅにぃの部屋で見付けたプロットからインスピレーション湧いたんでキャラデザ作って来たんだけど、見るか?」

「い·ま!? 今、言うか!? 後にしろ!!

 あと、勝手に人の部屋に入んな!

 ほんで、俺に話し掛けるからって、ゲーム画面でも近付いて来んなっ! しかも、攻撃して来んなっ!」

「掃除しようと思って。

 カヅにぃ、汚部屋っぽいから」

「女子かっ! お前は、彼女か、母親かっ! そもそも理由、聞いてんじゃねぇよ!?

 んで、必要なお世話だ、助かる!

 これからも継続してくれ! いつでも好き勝手、入ってくれ!」

「うぃーっ」

「ちょっと、カヅにぃ!! 人の彼氏、勝手に便利な使用人扱いすんなし!

 あんたも、ほいほい了承すんなし!」

 とまぁ、こんな調子で、台詞セリフだけでも分かるくらいにアレな感じで、家族っぽい、日常っぽいことを全力でやるあたし達。



 その後も、紅羽いろはちゃんだけを敵チーム(チームとも言わない)に設定してフルボッコにしたり、最強カップル決定戦(オクトとゆかりちゃんチームは違う)を行ったり、全員で同じキャラを使って影分身みたいな感じにして大混乱、大混雑させたり、そんな感じに年甲斐も無くどんちゃん騒ぎに明け暮れる。



 そうしている間に、あたしはもう、細かいことはどうでも良くなった。

 あたし達らしく、楽しくやかましく時間を共有出来できてさえいれば、もう充分だと。

 こんなふうに心からみんなで叫んでいられるくらい、もう元通りなんだと。

 パーソナルスペースや、異性間の、親しき仲にも礼儀有り的なあれこれは存在すれども、少なくとも者間しゃかん距離きょりなんて、うに無くなったのだと。

 どこにも、誰にも、もう必要さえ無いのだと。

 


 そう主張、確認し合うように高らかに笑える現状を、幸せを、喜びを、あたしは噛み締めていた。

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