4
学校を出、
そのまま
「おっ」
鏡の前に立ち、変な所が無いか入念にチェックを済ませているとドアホンが、お待ち兼ねの客人が着いた
「遅刻。我、空腹ぞ」
「……開口一番に、それか。
てか、習慣で来てるだけで、別に約束とかしてねぇんだから、遅刻なんざじゃねぇだろが」
※
「お疲れ。どうだった?」
「ん。まぁ、役目は果たせたと思う」
「上出来。よくやった。
褒めて使わす」
「ん。良きに計らえ」
「しゃしゃんな」
「どっち」
いつも通りノンアルを飲みながら、ひたすら目の前のご馳走に有り付く
ここだけ切り取ると、
「にしても、これで
「あんた、片方よりは下じゃん」
「言っとくけど俺、あの二人よりかは精神的に大人な
「……どうだろ。案外、そうでもないかもよ? リュウさんも、
「そかぁ?
てか、『リュウさん』?」
「あー……」
二組を
「ん。そう呼ぶ
もう
「ふーん。心境の変化って
「ん。そんな
「……別に
あんまり良くなさそうに、そう
好都合だった。
「……
食事と皿洗いを済ませ、まだ残っていたカクテルを消化しつつ
「ん?」
「付き合って」
まだ照れと
それでも足りないらしかったので、今度はコントローラーを置き、膝の上に両手を置き、面接中みたいな気分で
「あんたが断トツで好き。
その方が、色々と楽なのかもしれないし、それも有りだなと内心、卑怯な事も考えた。
でも、その方法を、少なくとも今の
そんな状態じゃ満たされない、長続きしないと。
だから、正攻法、ストレートに突っ込む
どうせうだうだ、グダグダと語った
だったら、これ
「……」
何発か
「……正気で本気か?」
「両方同時に言うの、
てか、とっとと答えて。
逃げんな」
「『答えて』ったって、お前……」
操作しつつ盛大に
もうひと押し必要らしい。
「言っとくけど、別に当てられたとかじゃないから。
二つの意味で、子供の時より、ずっと好き」
「それがおかしんだよ。前提からして
お前、先生狙いだったんじゃねぇのかよ」
「全部、フェイク。本命のあんたを、誘い込む
「……聖人君子か
どこまで人間、
「ね。
で? あんたの気持ちは?」
「んなもん……聞かなくても、分かるだろ。
俺は、色々と
色々と雑だし、お前と喧嘩してばっかだし、いきなりキレたりする。
俺と
「ん。かもね。
別に
今みたいに、のんびりしてるのも乙だしね。
てか、建前とか取っ払って、そろそろ本題に入ってくれる? どうするの?」
「そうしたいのも山々だが、そのステップに移る前に確認事項が多過ぎるだ、うわっ!?」
集中力を持って行かれ過ぎたのだろう。
これで、
「どうする? また
構わないけど、その代わり、次に
「……俺が勝ったら?」
「そんなの、考えるだけ無駄。
勝たせる気も負ける気も
「っ……!」
リザルトを飛ばし、狭くて障害物の
やっと、火が点いて来たらしい。
「上等」
「勝手なのは承知だけどさ。
「は?」
「あんたも、
当たり前だよね。だって
それも、形式上だけじゃなく、小学生になるまでは一緒のお風呂とか、高校生にもなって
そもそも、あんたの名前だって、
「
「じゃあ、その溢れんばかりの料理スキル、ちったぁ
話、戻すよ。要は、
そりゃそうだよね。あんたと
だって、どんだけ
さもなくば、互いに生きて行けないんだから」
「で、自分の当てが外れてて、万が一にも俺にフラれたら困るから、先生と恋人ごっこしてたってか?」
「そう。
けど、どっかの
「お前……
若気の至りじゃ済まされねぇぞ」
「自覚してるし、猛省したし、謝罪も済ませた。でも、それで
理由はどうあれ、
でも、だからこそ、そこまでした以上、ここまで来たら、きちんと当初の目的を
これだけの
「言っとくが、この件に関しては、俺はお前にも、
「ううん。かけてる」
「
シールドを壊されフラフラし出した
まだ動揺したままの
「俺がいつ、誰に迷惑かけたってんだよ」
「
あんた、
だから、あんな
でも、
違う?」
そろそろ本格的にピンチだったので、
そして互いの体力がゼロに戻り、1スト差のままリスポーンする。
「それだけじゃない。
内容自体もそうだけど、あの契約で
あんたは薄々、
でも、確信には至らなかった。だから、不格好に後出しで撤回し取り消した
いつか
「
もし仮に、お前が惚れてる相手が俺だとしたら、寝言なりで先生の名前を口にしてたのは
「当たり前でしょ。
こんなの、夢の中ですら平謝り、懺悔したくなるに決まってる。
てか、『仮に』って
「
「かもね。ま、
で、次の質問は?」
ロケットの
「……分かった。お前のタゲが俺なのは認めよう。
じゃあ、
「そんなの、こっちだって知らない。
ただ、あんたと
「それが、イコール好きってなっか?」
「だから、知らないって。
でも、
近代的な意味で、あんたと組んず解れつする未来をフラゲしてただけだった。
あんなんになる前の
それに、先生に許されてからずっと、
これでも、不満? 不足?」
「足りないね。
もしそうなら、初めてキスした時、どうして最後まで遂げなかった?」
確かに
自分で追い込んどいて
で、焦るわ二の足踏むわ、リリースしようとした
その
それでいて、翌日から大してギクシャクし始めたりせず、まるで何事も無かった
そして、
ひょっとしたら、告白が失敗して起こると想定される不都合の中で、
そんなメイン·イベントを挟んどいて、それまで通りになるのが、そうせざるを得ないのが、じゃないと冗談抜きで生きて行けないのが、辛くて悲しくて不甲斐無くてどうしようもなくて、堪らない。
経験上、そう判断し、いつの間にか予防線を張っていたのかもしれない。
「だって、先生との
でも、いざ先生を前にすると、
だから、自分から退路を断つべく、
結果、大成功。二人は無事に結ばれたし、それどころか奇跡的に嫌われずにも済んだ」
「……事実は小説より奇なりって、マジなのな」
「ね」
仕方ないかもしれない。物心がついた頃から常にセットだったから今更、恋人にってなっても困るのだ。
これまで一緒に過ごして来た時間が長過ぎて、既に距離が近付き過ぎてて、どうすれば
てか、そう簡単にスイッチ、スナッチ
似た者同士というか、知らず知らずの
改めて思い返してみると、例の契約を含めずとも、
いつだか
ちゃんちゃらおかしいな。ここまで求め合っておいて今更、別の
本人には一生、言わないけど、
なんて
負けを認めたのかもしれない。
……ま。そう簡単に、負けさせもしないんだけど。
「おまっ……!?」
そうして、
これで、
「……
コントローラーを取り戻しポーズをかけ、混乱しながら、こっちを見る
「
「勝ちたいんじゃなくて、勝つ。ただそれだけ。
でも、こんなんじゃ
本調子の
そこまでやらないと、この戦いに
一旦、コントローラーを手放し体の向きを変え、正面切って
「
だから、単なる時間稼ぎに他ならない前哨戦は、もう終わり。
ここからが、次こそが、
「お前……紛う
とんでもなく面倒だ」
「当たり前じゃん。多かれ少なかれ変わってなきゃ、面倒じゃなきゃ、クリエーターなんて名乗れない。
じゃなきゃ、誰かの予想と期待を裏切る想像、創造なんて不可能なんだから」
軽く肩を回し手と足を伸ばし、髪を結び前髪を避け、
「
でも、それでも
だったら、いつか神作を生み出す
人間として、大人として、男女として、物書きとして、
彼らしい、
「……面白ぇ。乗った。しこたま後悔させてやんよ」
二人乗り用のソファから降り、入水前のストレッチを始める
やっぱり子供っぽくて、
「ねぇ、そこの可愛い僕。
お姉さんが、たっぷり愛して溺れさせてあげよっか」
頬杖をつきつつ、精一杯にフェミニンっぽく演じると、
どこまでも失礼だな、こいつ。だから
「
「策士が、策に?」
「お前が、俺にだ。
そんで
てなっと、出たとこ勝負、当たって砕けろ精神、粉骨砕身で臨むしか
「それもう、負け確じゃん?」
「だとしても、逃げる
男には、負けイベと分かり切ってても挑まなきゃならねぇ時が
で、そういう大健闘のゴールには大抵、極上の異性が付き物なんだ」
「お目が高いこと。
じゃあ
「言われるまでも
「ヘタレ。じゃあ、
「お前、違う方の本番までする
「あんたのがでしょ。
てか、こっちは
「……え」
豆鉄砲食らってる
「バーカ。さっさとテレビの電源だけ、落としとけ。
あと、あんたが先に戻るだろうから、冷やしノンアルの準備よろ」
「
「
じゃ、そゆ
それにつけても……
だが、目を瞑って
某漫画みたいに、カモがネギしょってGo To 鍋とは行かないのである。
だからこそ、面白い。
だからこそ、楽しめる。
だからこそ、やり
「なーんて……やっぱ、変わってんな」
何せ、これから行われる延長線こそが、
※
振り返ってみても、
ゲーム中に告白してるし、もう双方の気持ちが割れてるにも
そのゲームだって、ハードは起動し続けてる以上、電気代だってかかってるのに、それを承知で放置してると来た。
多分、また最初からやり直したら今日までと逆戻りな気がするし、今までの奇妙な日々だって心からは嫌いになれない、切り離したくないから、
断っておくが、
プロットすら練ってないし、
ストックや真剣勝負、道連れやカウンターなどの要素を、これまでの
とどの詰まり、有り体が
変に肩肘なり意地なり格式なり張って背伸びした
まぁ……とか
もしものケースを想定して。
「ん」
「ん」
そして、互いに飲み終え、ゴミ箱に入れ、戦闘準備に取り掛かる。
「先に封じとくぞ。
もう無駄話、それに詰まんねぇ小細工は無しだ」
「ん。
そっちが勝ったら?」
「今夜、お前を
「お好きにどうぞ。
「やってみろ」
「させてみろ」
そんな調子で軽く殴り合い、拳を突き合わせ武運を祈った
止まらせていた時間を、動かした。
そこからは、終始無言だった。
二十歳を超えた男女が、みっともなく、だらしなく、
本当に、ロマンの
今頃、
けれど……だからこそ、愛おしくて仕方が無い。
「はぁ……はぁ……」
結局、
あんだけ大言壮語を吐き、強者ムーブかましといて、この
「は〜……」
激しい疲労に襲われ、
そもそも、ジャンルは違えども、仮にもゲーム業界を志した人間をゲームで相手取ろうなど、愚の骨頂としか言えない。始まる前から勝敗を決していた、負け戦だったのだ。
それを理解した上で
「
「……好きだ。お前が、お前だけが、好きだ。
愛してる、愛してる、愛してる。
俺にとってお前が、必要で絶対で理想で永遠で唯一で、最強で最上で最良で最善で最高で最長で最愛で最純で最要で最後で最古で最初だ。
責任取れよ。取ってくれよ、頼むから。
お前の
そんななのに、嫌いにすらさせてくれねぇ。
鬼畜の所業なんて目じゃねぇレベルの拷問じゃねぇか」
不格好で、不器用で、長ったらしく、纏まりも脈絡も無く、それでいて一言一言に精魂込め、
「知らんし……。
おあいこだっての……」
人を平成みたいに言いやがって。
ピンからキリまで、不躾な
荒っぽい口調や言動は単なるポーズで、
好きになり
「……お前が欲しい。
お前は、その気にはなったんかよ?」
「はいはい、なりました。
当初のイメージとはかけ離れてるけど」
「……なってなくねぇか? それ」
「
「だから、さっさと完食せぇ。
存分に貪り、しゃぶり、味わい尽くせ」
「雰囲気も情緒も、
「
「それもそうだな」
「……せめて、移動しね?」
「……ん。ベッド行こ」
正論を
どこまでグダグダなんだろうか。
※
ベッドの前に立った
意図を取ってくれた
「なぁ……
かと思えば、またしたも弱気を発揮させやがった。
この期に及んで、
「はぁ……」
呆れつつも、
最初はギョッとしていた
原因なんて、考えるまでもない。
こんなんを自分の彼氏で、なおかつ妹達の担任に一時的に預けるだなんて、普通じゃないにも
「お前……それ……」
「……言っとくけど、
こんなコッテコテで
「いや、まぁ、だと思ったけどよ。
にしたって……着る?」
「〜!!」
最も気にしている部分を突かれ、思わず膝蹴りをお見舞いした。
そして、
「あー、も〜!! ……だから、
……
こんなの、もう、どんだけ言い訳しても
なんて落ち込みモードには突入するも、その実、
だって確信、革新、核心へと繋がったから。
「だって……これしか、無いじゃん……」
シーツを強く掴み、
「あんた、リアルなの
一応、それなりには整えて来た
「お前……そんな
「だから、言うなぁ……。黙って聞いとけよぉ……」
ええ、して来ましたとも!
サイズとかカラーとか日々、色々と努力と研究を陰ながら積み重ねて来ましたとも! 実を結んだかはさておき!
可愛いとか、ちょっとでも思うな! いや、やっぱ、少しは思え! いっそ、死なせ! あんたの
「となれば、もう、内側じゃなくて外側に頼るしか無いじゃん……。
あんたの好きな色やデザインの着けてたら、露骨に目の色変えてたし……。
これなら、二次元にも共通してるってか、太刀打ち
……よもや、そういう方向にまでバースト、ブーストさせるとは、
だからって、居直って全肯定する
「ひゃっ」
軽く懺悔していたら、
心当たりを探すまでも無く、
「な、
引き離そうと体を反転させると、
今度こそ正真正銘、初めての、純粋な気持ちでのキスを。
「……俺の
「ここまでしといてお預けとか……
「で、でも……あんた、
「平気だっての。
それより遥かに、お前にゾッコンだ」
「死語……。
いや、そうじゃなくて、
すっかり立場が逆転した状態で、
「大丈夫。
お前なら、お前となら、どんなでも終えられる。
ちゃんと……最後まで、愛せる」
節々、奥底まで優美な、
脳が痺れ、とろけそうになりながら、ぼんやりと思い出した。そういえば彼のシナリオは、PCゲームとは思えない、間接的かつ上品な表現が好評だったっけと。
反面、ギャルゲーってより乙女ゲーっぽいとも言われてたけど。
「……ん。
拒む素振りを見せずに、
「
それに
その代わり……全力で、愛して」
でも、
「……勿体ない、罰当たりな
頼むから今は、きちんと、お前を、お前だけを、愛させてくれ。
……などというのは、単なる建前、苦し紛れの逃げ口上で。
でも、やっぱり
ご褒美に、
そして、今の心境を一番に伝える一言を。
「
「……知ってる。
……
「ん?」
「……愛してる」
「……ん……」
バカップル丸出しのキャッチボールをして、
何度も、何度も、キスをした。
落ち着いて来たタイミングで、
「……ごめん。やっぱ、あんたの好きそうな色にしよ? 探そ?
「
それはまた、後日で
「……決行するのは確定なんかい」
「いや、その、ほら……。
それも、お前の趣味と考えれば、お前の一部な
……なぁ?」
「知らんし……。
どうせ、
……仕方ないから、付き合うけどさ……。変なのとか、色々と合ってないの買って来られても困るし、そもそも彼氏一人で向かわせるとか、恋人にあるまじき、とんだ失態、勘弁、遠慮だし……」
「助かる。
じゃあ、その、
ガン見しても、
「聞くなし……。
……どうぞ……」
「……
愛してる……」
「今言うなし……。空気、読め……。
……
結局の所、
心底そう痛感して、
でも、それでも
他の
ずっと、そうやって来たのだから。
これからも、ずっと、そうやって、騒がしく、もどかしく、二人で生きて行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます