3
この高校が、徒歩10分程度で通える立地で、
けれど、
寝坊して遅刻しかけた時、忘れ物をして
故に、実家で着替えを済ませ、両親の目を盗みながら家を出て戻って来る以外に、選択肢が与えられて
「はぁ……」
……参ったな。いや、
いや、
まぁ……にしたってさぁ、というのが本音だが。それにしたって、もう少し何か有ったでしょうよと。
深呼吸し、赤くならない程度に両頬を叩き気合を入れ、
ガラス越しに覗くと、予想通り、窓から入った風に吹かれながら、彼は優雅に読書に
そういえば
「……ん」
「
その音に導かれ、本を閉じ、こちらに
彼の表情が凍り付く
まぁ……ドン引きってよりは困惑って顔色なのが、彼らしいというか
「か、
あ、あのぉ……。それは、一体……」
「……な、
だって
そう。
……と自分に言い聞かせ、奮い立たせ、
……やっぱり、無理が
そもそもこれ、
そもそも、姉と妹の発育が
「てっ……ていうかヤッシー、ノリ悪くなぁい?
今日で最後なんだし、
あはは。なーんて、嘘、嘘」
二つの意味で切り替えるべく精一杯、
「……ごめん、今の無し。秒で忘れて。
いつも通り……ともいかないか。と、
「は、はぁ……。分かりました……」
いや、思いっ切りテンパってるじゃん! 幸先、悪っ!
などとツッコみつつ、間違い無く赤くなっているだろう自分の頬も無視し、
「懐かしいよね。
っても、3年前までの話なんだけどね。そんな感想抱く辺り、
っても正直、てんで
空気を察してくれているらしく、無言を貫く先生。
「ねぇ。センセ、覚えてる?
6年前、ここで有った
「ええ、
忘れもしません。あなたがノートに書いていた小説を、僕が読んだ
今日の先生は、妙に鋭い。
「正確には、『
教師生活1年目にして初めてのクラス顧問ってんで上がり
いや、そもそも置き忘れた
「……その節は大変、失礼致しました」
「
もっと失礼なのは、そこから先だったし」
『書くにも読むにも時間が勿体ない。ノートとシャー芯に失礼だ』などなど、それはもう、とんでもない酷評っ
「……すみません。
取り分け、小説に対しては」
「ん。知ってる。だからこそ、あれだけディスられても、今日までセンセに批評して
でも……そろそろ、どうにかしようと思ってさ。この、宙ぶらりんな関係を」
両手を軸に軽く飛び、幸運にも危な気無く着地に成功した
「
あなたからの
先生には、
だからこそ……もう中途半端な、曖昧な、思わせ
「……聞かせてください。
あなたの、
先生が一歩、近付いて来た。聞き逃すまいと、聞き違えまいと。
本当に大事な場面では、こっちから何も言わずともピン·ポイントに応えてくれる。
そういう、優しい所が、大好きだ。
「好きです。先生の
でも、それだけです。それ以上ではないし、それ以上にはなれそうもありません。
あなたの
スカートの端をギュッと握り、色んな意味で顔を上げられそうにないまま、震えた声で、
そう。あれやこれやと振り回し放題だったが、その実、
少し年の離れた、ちょっと頼りないけど親近感の湧く、可愛い従兄弟(兄か弟かは伏せておく)とか、それ
「認めます。あなたとの奇妙な関係に、
気と趣味が合い、優しく
眼鏡を外していたのは、あなたの正体に周囲が気付くのを避ける、それ以外には
だって、
あなたに、
言った。
6年間にも渡って溜めに溜めていた言葉を、思いを、
これでもう、
因果応報、自業自得。自分に、そんな資格、権利が
それでも心というのは実に制御が面倒臭く、気付けば
それを判断するには、その時の
が、
「は、話は、それだけ……。
それだけ残し、別れの挨拶も済ませずに、
「待ってください」
ドアを開けようとしたタイミングで、そんな
自分でも
そんな決意とは対象的に、先生は困惑した
その反応が
が、口を
そんな
「……すみません。
何やら
「一体、
もし、ここがギャグやラブコメの世界だったら今頃、
そう
「……」
フリーズする思考。
やがて、ここまで中々に長い間、先生と会っていた
「センセ、ごめん。ちょっと座らない?」
「え。あ……はい。」
の前に、ガックリ
「えと……センセ、今の話、理解してる?」
「
「いや、『何か』とか、そんなレベルじゃないから。
人としても大人としても、知人としても女性としても、最低な
「はて?
「まだセンセが
ここまではオッケー?」
「は、はぁ……」
割と簡略化し、なおかつ普段と変わらないテンションで説明した
「おぉ。なるほど」
そして数秒後、先生は得心し。
「それで
にも
「〜!!」
この恋愛音痴に
ただそれだけに脳内ソースを
「センセ。
「はい」
「ん。で
あたかも、そうする
何より、さしずめ意中、本命の異性の恋愛感情、独占欲、嫉妬心を煽るかの
これ、どう思う?」
「『どう』とは?」
「いや、だからね?
よしんば知り合いでも普通、許せなくない?
「と、言われましても……。
「ごめん、待って。ちょっと
その割りにはセンセ、添削モードで結構、アレな
「あの時は、無の境地に達しているので。その方が、贔屓目や自分の主観を抜きにして、公平な視点で
「器用かよ。で、それは置いといて。
じゃあ、先生の性格とかは抜きにして、客観的に捉えてみて。
もしセンセが、一緒に
「……確かに、
でも、他の誰かが実際に
加えて、そのお
「ま、まぁ……」
「付け足すなら、それが起因して、
「……先生がそう感じてるんなら、そうなんじゃないかな?」
「でしたら、
君はさぞかし猛省したいかもしれませんが、少なくとも、
「……」
……嘘でしょ。有り得ない。いや、
どこまでも身勝手で、不安定で不器用で不格好で、ドン引きと糾弾を招くが
そんな、
いや……それどころか、そもそも、許す許さない以前の問題だ。
「
スカートの上で
やっぱり、
どこまでも素直じゃない。ちっとも可愛くない。
「それじゃ、
何も……何も、変わらない……。変えられない……。
でも、
女としての意地か、それともバツの悪さ
先生は、確認するまでもなく柔和な物腰で、
こんな
「
そんなに自分を責めるのも、
誠実であろうとしている証拠です」
「そんなんじゃない……!
そんな
だって、
先生の手を振り払い立ち上がり、
まるで、心臓を取り出し、本心に直接、語らせようとでもしてる
「センセは、
あの成人式の
どういう意味か、分かりますよね!? フィジカル的な意味です!
あなたを、本来なら無関係であるべきあなたを、自分を慰める
それでも、センセは! ……先生は、
ここに来て先生の目が、
「……
君にも、
やや沈黙に包まれた
「確かに、君はやり方を間違えた。でも、それは、
『この人なら怒らないだろう』『きっと笑って受け流し、洗い流してくれるだろう』。そう信じ、願える
「〜っ!!」
図星、だ。
きっと
「
過程も過程なので、これが
だから……異性としてでも、教師としてでも、知人としてでも、義兄としてでもなく。あくまでも一個人の意見として、聞いて欲しい」
一旦、
「……ありがとう。
最後の最後で、
自暴自棄にならず、自分の気持ちを、きちんと持ち続けてくれて。
そして何より……
……そんなんじゃない。
そんな、
「君の行いは、立派でも、素敵でも、美しくもない。
けれど、君の行動には、揺るぎない信念が
君は、まだやり直せる。
違うよ、先生。ただ、
「
多少、認識を改めましたが、これからも君と懇意にしたいという本心には、
それでも
それが、
「……っ!!」
思いの丈を一通り放った先生は、最後に再び、
凍てついていた
さも、
先生。やっぱり
臆病で卑怯、
あなたに
現に、こうして今も、これだけ先生に良くされても、
でも。それでも先生は、そんな
こんな、ダメダメな
だったら……
そして何より、自分の気持ちを、信じてみたい。
「もう大丈夫の
「……
「だってセンセ、
徹底的には、
「
「別に性格や態度までは頼んでないんですけど。でも」
捻くれた返答をしつつ、
「……ありがと。センセのお
まさか、励まされるとは思ってなかった。願ってはいたけどね」
「
大した
「うん。そういう
「? どういう意味ですか?」
「
どうぞ、どうか、センセはずっと、今のままでいて」
「は、はぁ……。よく分かりませんが、分かりました……。
その
解せない、と体全体で主張する先生。
地味。素朴。失礼なのは百も承知だが、
けど、どうやら改める必要があるらしい。先生は決して、キャラが弱い
単なるイエスマンでもなければ、猫被りでもない。驚愕の真実とか、正反対の素顔とか、そんな
でも、だからこそ、その変わらなさ具合、人の良さが際立つのだと。
「それより」
「君と僕は、いつでも、いつまでも、一緒に
でも話を聞くからに、少なくとも今は、君が向かう場所はここではないし、君が会うべき相手は、僕ではないんじゃありませんか?
僕に
それはもう、解決した。……いいえ。そもそも僕にとっては、気にするまでもなかった
「……んにゃろう」
露骨に悪口をぶつけながら、不承不承オーラを露骨に
「そういえば」
「
『一段落したら、
「……はぁ」
……そんなに別れたくないなら、そもそも持たせなければ
とツッコみつつ、
「〜!!」
光の速さで締め沸騰、爆発しそうな勢いでブワッと熱くなった体で、急いで抱き抱えた。
……勘弁、遠慮。
妹と姉の二段構えって
てか、
そもそも、ここまでされなきゃ本気になれない、望み薄い
そんな
「死なす……。あの魔女、そろそろ本気で仕留めてやる……。
おちょくるのも大概に……」
「か、
誓って言いますが、僕は決して中を覗いてなんていませんし、
「分かってる……。善意から来てるんだって……。
でも、全霊ではないと思う……。大なり小なり、私を
こういう
「き、君に対する気持ちの方が優勢なら、それはもう、善意だけと受け取って問題無いんではないでしょうか? ね?」
「……もぉ
勘弁、遠慮、
我ながら
「そ、そんな
今日を逃したら、またズルズル、ズブズブ、引きずってしまいますよ? ね?」
「
「ば、罵倒にすらなってない……。
い、
「だったら、そろそろ名前で呼べし……。
色々と吹っ切れたんだし……」
「このタイミングですか!?
「男っぽい呼び方すんな……」
「じゃ、じゃあ
これなら
「
「わ、分かりました、
「許可する、リュウさん……」
こんな調子で、二人で手探りで新しくクリーンな関係を模索した後、
直前になって先生改めリュウさんが、
そして直後に、「いや、だから、制服じゃん……」と、
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