5
上述の通り、それぞれに謝り合う事で、私と
しかし……実は、謝罪すべき相手は、もう
彼女は昔から何かと厳しく、私とは相性が特に悪かった。
そんな母の居る実家を、私は後日、訪れた。一人ではなく、三人で。
「……もっかい、確認なんスけど。
中心に
そんな彼に向けて、反対側に立つ
「ま、
てか、ヤマト。お前、
「え? 平常運転じゃないの?」
「いや、まぁ、そうなんだけど、そうじゃないっつーか……。
……
「相変わらず、アドリブ
「そりゃあ、だって」
「あ〜!!」
男性陣が話を咲かせる中、前方からキンキンとした声が響く。
その発生源、
「ちょっと、
「バイト先の先輩、ってか店長の息子さんだから。
てか、やっぱ、そうだったんだ。だと思った。名前似てたし、家も近かったし」
「バイトォ!? 何それ、聞いてない!?
普通、
てか、彼女より優先するとか、有り得ないんだけどぉ!?」
「
じゃなきゃ俺、
「〜っ!!
あんた……!
「嫌いでは?」
「ないけどっ!」
あー……そういう関係?
で、
妙な縁だなぁ。
「……君、この前の。
君も来てたんだ。元気だった?」
「うす。ご無沙汰してます、
「すんません。馴れ馴れしかったっスか?
「いや、ごめん。
生まれてこの方、妹に『姉さん』だなんて呼ばれた
「え〜?
だって、
「ん。そう、丁度こんな。
「平気っス。願ったり叶ったりなので。
そもそも、振り回されるの、嫌いじゃないんで」
またしても、今度は違ったニュアンスで唖然としたてから、
「……
逃がすなよ?」
「分かってますぅ。
あ、でも
「はいはい。お手柔らかに」
その
なんか、うん……凄く、家族っぽい。
などとしみじみと思っていると、不意にトシくんからの着信が入る。
おっと、こっちにも
『おはようございます、隊長。こちらは準備、出来ました』
不意打ちを食らい、軽く
最近のトシくんは結構、ノリが
私が悪影響を与えたのだろうか?
「はよー、トシくん。じゃ、早速よろー」
『畏まりました、ご
「せめてキャラ、統一してくんない?」
挨拶と確認とツッコミを手短に済ませ、私は電話を切り、気合を注入し直し、再び実家へと歩を進めるのだった。
っても、
何をしてるんだというか、したんだというか……。
※
道すがら
いや、これ、完全に、「ここを通りたくば、私を倒して行け」パターン……。相変わらず、怖いなぁ……。
そんな母は、渋面で私を見た
「二人が突然、『バーベキュー行こう』なんて言い出すから、何かと思えば……あなたの差し金ね、
今度は一体、
そんな、
「一つ、提案をしに来ました」
「提案?」
「はい」
5人で作った列から一歩前に出、私は逃げずに懇願する。
「お願いです。私に、帰る許可をください」
母は少し驚いた後、目を瞑り頭を押さえた。
「……それなら、一ヶ月だけは許可してるはずですが?」
「違います。
昔みたいに、ここに
家族として、娘として」
「理由は?」
イエスかノーかは
成功かどうかは怪しいが、話を終わらせたりはされなかった所を見るに、チャンスが無い
私は、それを取った
「意地を張る必要が無くなったからです。
それと……家族と一緒に、普通に暮らしたくなったからです」
私は胸に手を当て、回想に入りながら語り出す。
「お母さん。あなたが私を追い出した最大の理由。
それは私が、教師になるべく入った大学で教職を
私は大学生の頃、一度だけ、
私が正直に新たな、というか生まれて初めてきちんと抱いた夢を明かした結果、
まぁその後、一週間は全員がピリピリしてから、『大学出るまでは
思い出すのが、今の自分を嫌いそうになるのが
お門違いなのは重々、承知だ。それでも、ふとした瞬間に今でも思う、考えてしまう。
そうなった一因は、何かにつけて私を叱り、自分の意見に従わせようとし、こっちの話に
だから、未だに母とは、一言たりとも口聞きたくなかった。それ
それが
こうしてクリエイターとして独立しても、未だに母には、感想も、お褒めの言葉も
評価して
そんな背景により、今まで母とは折り合いが悪かった。
けれど、トシくんに
事実、心を互いに開く事で
となれば、次に私がクリアすべきは、母との確執だ。それを解決しないと、私は先には進めない。正確には、他にも大きな問題は有るが、私は当事者ではない以上、深く踏み込む
つまり現状、私にとって最大のターゲットは、母という
「なるべく、規則正しく振る舞います。
苦手な家事も精一杯、取り組みます。
役場とか銀行とか郵便局の用事も極力、引き受けます。
生活用品も、
いきなりは難しいかもしれませんが、少しでも早く馴染める
これまでの数々の非礼は、
どうか……また、家に置いては、頂けませんか?」
まるで
後ろで
これまでの身勝手極まりない態度を
やがて私の視界から、ずっと映っていた母親の靴が消えた。
ハッとして顔を上げると、母は私の前から移動しており、玄関へと向かっていた。
これは……もしかしなくても、門前払い?
「ちょっと、ママ」
私を嫌っている節の有る
同時に
振り返ると、私に愛想を尽かし家に戻ったと思われた母が、何かを持って再び私の前に現れていた。
どうやら、居間から何かを取って来ただけの
母は、私に何も言わず、無表情のまま、その何かを差し出した。
それは、両手でないと持てないサイズの、クッキーの箱だった。
母は一体、どんな理由を
「……」
事情が飲み込めないまま、私は箱を開けた。
次の瞬間、
そこに入っていたのは、
「あ……あ、あ……」
気を利かせ
そしてページを夢中で、けれど雑にならない
そこまでして私は、小説やアルバム、文集が一つも欠けずに残っているか不安になり、改めて一つずつ確認する。
「そんなに慌てなくても
ちゃんと全部、回収しましたもの」
母の言葉に、私は思わず顔を上げた。その先に広がっていたのは、母の笑顔だった。
「
文体は滅茶苦茶だし、『言った』『言った』のオンパレードで他の表現が見当たらないし、話は飛び飛びだし、伏線も無いまま整合性も無視して急展開の連続だし、どこかで見聞きした展開ばかりだし。
少しは、他の作家さん方のを読んで、勉強したら?
例えば、そうねぇ……
普段あなたに一際キツく当たってる手前、恥ずかしくって、反応に困って、言えなかったけれど」
読んで、くれてた。
好きで、いてくれてた。応援、してくれてた。
見放されてなんて、なかった。
今も、昔も……ちゃんと、愛されてた。
「お母ぁ、さん……」
私は
母も涙を流しながら、私を包んでくれた。
「今まで、よく頑張ったわね。
あなたは私の誇りで、大事な宝物よ、
一旦、私を離し互いの泣き顔を見詰め合った
「
あなたが一言、たった一言でも、反省の意を心から表してくれたら、私は諸手を挙げてあなたを迎え入れたっていうのにね。
あなたって子は、いつもそうよ。何をするにしても、手間暇かかってばっかりで。人より何倍も、時間を要して。
高校の時だって、家庭科の時間で裁縫が間に合わなくって、部活を休みながら進めて、やっとどうにか間に合って。
でも、それでもあなたは、泣き言や愚痴を零しながらも、めげずに頑張り続け、最後には成功して、こっちが釣られる
そんな、不器用で努力家のあなたが、私は大好きよ、
こちらこそ、今まで、辛く接してばかりで、ごめんなさい。これからは、一緒に暮らしましょう。
生活費? 家賃? 結構よ。あなたがただ健康に、笑顔でいてくれさえすれば、他には何も要らないわ。
ただ」
「……ただ?」
勿体ぶった調子で焦らしつつ、母は涙を拭い、
「また、定期的にグルメ·ツアーに付き合わせてくれるかしら?
あれ、結構好きだったの。楽しくて、嬉しくて、仕方ないんだもの」
「……!!
うん……うん!! どちゃ連れてく……!! 毎日でも……!!」
「それは
「じゃあ、じゃあっ」
ハグを終えたタイミングで、
「
で、
って、どう!?」
相変わらず生意気な、ちゃっかりした提案に、私達は同時に破顔した。
意気揚々とした
「それ、
てか、
「平気だよっ! 体育でめちゃ痩せるもんっ!
二人と違って、ちゃんと運動してるもんっ! 二人と違って!」
「ん〜?
ん〜?」
お
「お
「おまっ……!?
ヤマト! 空気読めよ! 肝心な時にマイ·ペース炸裂させてんじゃねぇよ!
普段は引く
「迷惑っスか? 改めるっスか?」
「聞くっ!? 今聞くのか、それ!?
あと、現状維持、希望!」
何やら、男性陣が騒がしい。これ以上、
……ん? 男性陣?
「あ」
私が大事な
車は、私達の前に危な気無く駐車し、中からトシくんが降り、こっちに駆け寄って来る。
「すみません。遅くなりました」
「タイミング、バッチリバチバチだよ。ありがと、トシくん。
紹介するよ、お母さん。私のスパダリの」
トシくんにお礼を
そこで、初めて気が付いた。
興に乗って来た私は若干、拍子抜けしたが、
「あー。やっぱ、気付いちゃったー?
そうなんだよ、結構かかったんだよねー、これ。だって、見ての通りでっかいしー。
でも、ほらー? トシくんは
だから、また無駄遣いしてーとか怒らないで欲しいなー。
言い訳めいた発言をするも、トシくんと
えー? そこまでかなー? もしかして私、金銭感覚、狂ったのかなー? 最近、外食しかしてなかったからなー。
それで、サプライズが過ぎて、ドン引いてるとかー?
「すんません。なんか、そういうんじゃないっぽいっスよ」
私が不安に思っていると、
確かに、ちょっと引くわ! 何この、感知性能!
と、それは置いといて。
「何? どゆ
「さぁ?」
無責任か。まぁ、分かれって方が
などと
「……あ」
と、唐突にトシくんが、素っ頓狂な声を上げる。そして、
「あーっ!! あっ、あーっ!!」と叫び、と思いきやガクブルし始める。
え、何? いや、冗談抜きで、何なの? ボキャ
「……ステ……」
いつも通り私の思考が脱線していると、やっと
でも、発せられた言葉は、私が放つよりも意味不明、説明不足で、私は
かと思えば、
「
ステッカー!!」
「ステッカー?」
ていうか、どこにも付いてないじゃん。確かに、新車じゃないけどさぁ。
いやーだって、そこまでやったら激オコだろうなってのは、さしもの私でも察せたし。
などという私の思考を無視し、ハッとした
続いてお母さんが意識を取り戻し、
「ちょっ……!?」
何してんの!? 万が一サイドブレーキしてなかったら、危ないじゃん!?
と止めようと私が動こうとするも、
「
まぁあっちと違って大体は、
「……言い方や状況はともかく、否定はしない。
で、それが何? どんな関係が有るっての?」
はぐらかした雰囲気の
「簡潔に言おう。
今回あんたが
「は?」
「有った……有っ、たぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま、軽く頭をぶつけつつ車の下から出て来た彼女は、ぶつかりそうなスピードでこちらに戻り
そして、お父さんとお母さんが急いで合流した頃に、私達に何かを見せた。
それは、見るからに手製っぽい、ステッカーだった。
……ライオン、かな? サニ○号より
でも、だから、それが一体全体、
「……あれ?」
そこまで来て私の思考が、目に見えぬ何かにぶつ切りされた。
この感じ……
そう。これは、あれだ。
あの時……お婆さんもお爺さんも生きてた時に、お父さんが車を買って来た時と同じ。
あの状況と、
いや……
「これ、あれじゃん!! 元々、
お爺さんとお婆さんも連れてお出掛けする
「え?
偶然?」
「偶然!!
もう、全っ然、覚えてなかったもん!!」
「マジか。
「はげど!! あと、あんがと!!」
とまぁ、
そして私、
自分が相当アレなのも、
その後、私達は新しい家族と共に、懐かしいの車に乗って、オクトも連れてバーベキューに向かい、盛大に飲んで食って騒ぎ
※
とまぁ、私のストーリーは、こんな所だろう。
そして、私は
私はもう、謝罪の完了している距離まで来た。
ここから先は、まだ完結していない主人公に譲るとしよう。
それでは、諸君。願わくば、いつか、どこか、もしくはここで、また会おう。
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