4
アカちゃん。
理由は不明だが、あの頃から
そんな時に、馴染みのカラオケで呑んでいる時に、唐突に、そう呼ばれ始めた。
酔っ払った私が『バブー』と
そんな場所に今、私と
鍵をかけ、カメラも切り、
「……付き合う
彼女は胸の下で腕を組みつつ、少し意味も無く視線を横に運んだ
「そっ。良かったじゃん。おめでと。
話はそれだけ? じゃあ、帰るわ。
あっさり
「
「ふーん。もう名前で呼んでるんだ。
てか、とっとと退いて。帰れないでしょ」
「断る。
だって私も
「何それ。歩いて数分じゃん。そんな、大袈裟な」
「うん。言い方が悪かった。こう変更するよ。
『私も、
そして、反対の壁際まで追い詰め、両手で壁ドンの姿勢を取り、確信を突く。
「
私よりも身長の有る
「は? 何それ。
有り得なさ過ぎて意味不明なんだけど。
「じゃあこの際、面倒だから、一時的にそういう
私の推理は、こうだよ。
でも、トシくんは
だから、
「……っ」
キッと、
何? もしかして、
「けど、それもしんどくなって来たから、そろそろ自分を異性として見させて
だから、
そして、思い出させ、分からせるの。『
そうして
けど、
だから、別れては付き合ってを繰り返してる私が打って付けだと判断し、半ば無理矢理くっつけようとした。
……違う?」
「……っ!!」
「それ、新作のネタ? よく
でも、そういうのは、担当さんとやって。
ただ、突き飛ばしたのだけは謝る。ごめん、やり過ぎた」
私は腕を抑えつつ立ち上がり、再び立ち塞がった。強気に笑いながら。
「これ
こんなの、その比じゃない」
「また横道?
「
「いつまで、そうやって逃げ続けてんの!? 明日、明後日!? それとも来年!? そんな
ずっとそうし続けて来た先輩として、断言するけどねぇ! そんな
ただどうしようもなく、
「もう……終わりにしよう?
ちゃんと、トシくんと話して。
そんな関係、おかしいでしょう? 何より、私が困るの。このままじゃ私、彼女以上にはなれないの。
だって、
よく、『片思いしてるだけで、
だって、
今の
それで
「ハッピーなのは、アカちゃんの頭の中なんじゃない?
よくもまぁ、そこまで自信満々に長々と言い切れるよね。あくまでも仮説だって言ってる
「あっそ。なら、もっと証拠、突き付けたげよっか?」
「……は?」
「1。どうして
それは、
「2。どうして
これは簡単だね。少し前までは、彼の横に
加えて言えば、彼はモブキャラを演じていたから、誰かに告られたりしなかったので、安心、慢心してたから」
「3。どうして
その顔が、
「4。どうして
決まってるよね。
「5。どうして私をアカちゃんと呼ぶのか?
何より、少なからず
要は同族嫌悪」
「6。どうして
自分が大なり小なり
「7。どうして
私かトシくん、もしくは他の誰か、或いは
『そんなの間違ってる』、『詮無いよ』って。
だからこそ、少しでも可能性の有る
「8。どうして
自分を
実際に有ったイベントを、少しずつ織り交ぜながらね」
「9。どうして私とトシくんが初めて会ったのが、このカラオケだったか?
この部屋が目当てだったんでしょ? ここなら、防音完備だしカメラも切って貰えるから、もし泣きたい、叫びたくても、
隣の部屋ってのが致命的でスリリングだったけど、最高にいじらしいね」
「10。どうしてトシくんを、『センセ』と呼ぶのか?
特別扱いする
こうして見ると伏線、ヒントばっかだよね、
そう。これは、
話を進める度に、
そろそろ締めに入ろう。そう思った私は、気を引き締め直した。
「他にも
「11。どうしてあんな
「そうよ、その通りよ、一つ残らず大正解よ!!
大した洞察力、情報収集力、想像力、発想力だわ! 恐れ入ったわよ、名探偵!!
でも、それが何!? それを隠してる事の、何が悪いの!? 当然じゃん、
てか、そっちだって、同じでしょ!? ずっと、本音なんて言わなかった
だって、私には小説しか無かったから。他に誇れる武器なんて一つとして無かったし何分、不安定で不測な力だったから
だから、他の得物を求めてた。小説を世界中に糾弾され、どん底、絶望の果てで、新しい道を探させて欲しかった。
そんな葛藤に
ーー手代
「そうだよ! 私は、ずっと子供だった!
無理して背伸びして、
そうする
でも、分かったの! そんな風にしてる時点で、子供なんだって! ていうか、無理に大人振る必要なんて、無かったんだって!
だって、私はブラックや残業とは無縁だから! 悟った振りして妥協して、『大人になれ』だなんて余計な、何の
私はありのまま、子供のままで良かったの! そんな私を愛してくれる人が、ちゃんと
だからこそ、
「はぁ!? 今のアカちゃんこそが、その上司みたいになってるじゃん!
言っとくけど、
仕事のクオリティやスピード、スキルやギャラはともかく、アカちゃんの何倍ものノルマ、タスクを
堕落した日々を淡々、のうのうと、流されるまま気の向くままに生きてるだけの人が、人生が何たるかとか説かないでくれる!?」
「そういう風に自慢してる、張り合ってる時点で、子供だって言ってんの!
てか、堕落ってんなら、そっちだって一緒でしょ!? 大事な
「あれは、
「そんな風になる
じゃあ
「思ってる!! 思ってるに決まってる! 罪悪感で一杯で死にそうだった、
だから、早く独立したかった! クラスメイト達みたいに、胸張って堂々と語れる仕事に就きたかった!
でも、アカちゃんが解放してくれないんじゃん!
手当たり次第に書いてた昔と違って今は、
「当たり前でしょぉ!?
いつ人気が無くなるか、書けなくなるか、パクられるか、パクったと言われるか、炎上するか、ディスられるか、ネタにされるか!
頼んでもないのに勝手に決められ一方的に進められ適当に手抜きで作られ、それどころか製作発表されるまで決まってた
分かる
そんな暗黒の世界に、可愛い妹を引きずり込みたい
「だから、あんまり関係無い、どっちつかずな、温ま湯みたいな場所に永遠に浸からせて、日陰みたいな場所で飼い慣らして、楽させようって魂胆!?
あーそう、お
でも、教えよっか!?
何故って!? あんな、違法なんだか正当なんだか分からないお金で、家族やお
アカちゃんや、
互いに主張を一通り、一思いにぶつけな
私は屈み、泣きじゃくる
「……分かってる。全部、ちゃんと分かってるよ……。
こんなん、間違ってるって……。
「それに関しては、私も何も言えない。今までの私も、丸っきり同罪だから
でも……だからこそ、やり直そ?
だって、こんな私たちをも、愛し、励まし、受け入れ、包み込んでくれる人が、
「
そして何より、童心を常に絶やさずに持っている
それだけは
「……締め切りも?」
「
破って良いのは、担当さんがポカして前日にーとか、そんな感じに無茶振りして来た時だけ」
「……経験済み?」
「ま、ね。
徹夜して、どうにか間に合わせて、次の日は丸一日、寝たよ。腐ってもプロだから。
当然、手抜きもしてないし、回せるだけのストックも無い状態だったけどね」
「あははは……。……はぁ……」と力無く渇いた笑みを見せ、
「やっぱ……勝てないなぁ。紅羽ちゃんには。幾つになっても。
他の
言いつつ、腕を元の位置に戻す。
泣いているかと思った彼女の顔は、その実、
私も彼女の横で寝転がり、視線だけ彼女に向け、
「別に勝利を譲る
近い内に私達は、家族だけじゃなく、ライバルにもなるんだから」
「ん……超頑張る。本気で挑む」
ミラーボールへと手を伸ばし、何かを掴むアクションを取った
「要はさ、通信交換みたいな物だよね」
「ポケモ○とか?」
「ん。そんな感じ。
私は、
私は、それだけで
だって、他に欲しい物は、もう
「……ん。分かった」
そして、きちんと正面で対し、赤裸々に綴る。
「今まで、ごめん。何から何まで」
「……ううん。こっちこそ、ごめん。でも」
向かい合った
「これからは、もう、必要以上の『ごめん』は無し。私達は常に全力で、戦うんだから。同情も妥協も油断も無しで、ね」
「……ん。だね」
私の意図を取り、
「ありがと。それと……改めて。
これからも、よろしくね?
「こちらこそ。よろしくね、
今まで、ありがと。お疲れ
「
「えー。割と
そういう
「
てか、別に
ただ……たんまり貯金してて良かった。今まで真っ当に生きて来た気はしないけど、それだけはマジで正解だった。
晴れて無職だし。野垂れ死ぬとか勘弁、遠慮」
「あはは。それな」
「ね」
私達は
さて、と。となれば次は、ラスボス戦かな。
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