3章 謝完距離 -side.I-
1
最初に、断っておこう。ここから紡がれるは、どこぞのダウナー系リアリスト女子でも、カメレオン系ツンデレ女子でもない、その姉の話だ。
次に諸々の確認だ。宿題は済んだ? もしくは仕事、それからトイレ。残業は間違ってもするなよ?
睡眠時間は確保出来てる? 『夕方まで寝てた』? それは結構。
じゃあ
とまぁ、前置きはさておきだ。そろそろ、始めるとしよう。他でもないアンカー、
経路や媒体はさておき、この本を実際に手に取り読んでくれている君だけに向けた、特別な講演会を。
の前に、
……よし。準備は
それでは、いざ行かん。時間を超越し、文字と想像の世界へ。
※
小学生の頃の文集。それが、私のルーツだ。
この文集とは、私が通っていた小学校で出されていた物だ。誰が作っていた記憶が不鮮明だが、ここにまぁ、何と、私の書いた作文が載ったんだから、そりゃ
何せ、当時から私は、勉強も体育も苦手で、趣味のゲームでさえお世辞にも上手くない、得意な事なんて一つとして無い、詰まんない人間だったんでね。
そんな私が、初めて認められ、褒められた。
そりゃ、学校から家までダッシュで帰って、家族に見せ
否定しておくが、中身は大した事無いぞ?
家族でボーリングに行った。ただそれだけの
で、肝心の文章も、『妹はコーラのアイスを食べた。私はソーダを食べた』とか、そんな感じの内容が、2ページ分程、連ねられているだけ。
けど、それが私に大きく作用した。
前述の通り、私には何も無かったんだ。そんな小さな功績が、実際に身近にあるという意味でも、私にはダイヤモンドより
中学時代、文化祭で合唱コンクール·壁新聞·ポスターの三冠を取った事よりも、英語の単語テストで一度だけ全員が同時に赤点を取らなかった事よりも、文化祭で
最後に至っては、驚いた上に恥ずかしかった上にドジだったので、登壇する際に
そこからはもう、クリエイター気取りで色んな作品を考えては、妹に熱弁してたもんさ。
クリムゾンアドベンチャー(テイマーズの影響)とか、クリムゾンの意味を知りもしない、検索さえ行わないまま(その頃はケータイなんて流行ってなかったし)そんな話を
『私が話を考えるから、漫画を書いて』とせがんだものだ。
で、中学の頃にはハリー・ポッターを読破し、高校の頃には実際に書き始めた。授業中でさえ、ノートに記してた。
まぁ、今でも完全に黒歴史な、丸っきり二番煎じな稚作だし、案の
特に恋愛物なんて、ほぼほぼ花○のパクリで、未だに机に封印してるけど正直、生きてる
だから、吹奏楽部を引退した
そこで私は教師になるべく勉強に専念する予定だった。が、そこで教育現場の現状を思い知った。
他の大学ではどうなのかは知らないが、少なくとも私が通っていた大学では、未来の教師候補達は、ひたすら言われた。『テキスト通りにだけ動け』と。まるで、機械になれと命じられてる気分だった。
分かってはいた
おまけに、特別講習は難しい上に数が多いし高いし夏休みとかにまで来なきゃいけないのが面倒だし、必要なワークも多過ぎる上に高い上に
そんな
ここまで話せば察するかもしれないが、私は基本、適当な人間だ。
曖昧かつ過剰な自信、その時の気分を武器に、のらりくらり、これまで生きて来たのだ。
残る道は一つ。そう、クリエイターだ。
私はそれまで、
すると、どうだ。それまで微妙だった
その
実に気分が良く、楽しかった。それは丁度、文集の時に覚えた感情に近かった。
それからはもう、またしても講義そっちのけで執筆し
良い所でチャイムに妨害された事に腹を立てて講義をサボった事も何度か有った(本末転倒? 熟知してる)。
ノートが足りなくなり『あと数ページで終わるから』とルーズリーフに続けたらノート
もっと早く
我ながら、ちゃんちゃら
そうして出来た、ラノベ大賞用の小説『トケータイ(未来から送られて来た、様々な能力を秘めた「腕時計型」の「ケータイ」を手に入れた少年が主人公のバトル物)』。
それを、私はパソコンで打ち直し、カタカタいう音を耳障りに思いながら作業を進め、印刷し、封筒で送った。
結果は勿論、惨敗だ。
首を長くして待っていたのだが、選考外だった。
この予選落ちというのは一番、困る。
おまけに、私の本を蹴落としてまで勝ち上がり日の目を浴びたのは、どれもこれも頭が悪そうな、タイトルだけで読む気が削がれ、一発屋感が拭えない、興味が消え去った
いや、実際に読んだらそうではないのかもしれない市し、あくまでも個人的な感想だが。
こっちもこっちで中々に
すると、デビュー作の『トケータイ』は瞬く間に人気に火が点き、レビュー数もお気に入り数も爆上がりし、
例の出版社に選ばれなかってのは、単に合ってなかっただけだと思う事にした。
それでも私は、まだ若干の懸念が拭い去れなかった。
一発屋とは呼ばれたくなかったので、夢中で書き
誰を隠そう、妹の
彼女は私よりも断然、機械の扱いに長けており、ブラインドタッチが出来る上にタイピングもめちゃ早いので、清書をお願いする事になった。母に似て何かと口煩いのが難点だが、有能なのは確かだった。
だからといって、よもや、それから五年近くに渡って担当して貰う事になるとは、
さて、と。私に関する話は、こんな所だろう。それでは、そろそろ時間を戻すとしよう。
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