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 図書館や本屋。

 そういう所には、二種類の魔物が潜んでいる。



 いや、「いきなりなんだ?」って言いたいのは分かる。

 「イチャラブ」?「ギシアン」? ちょっと待った。誰よ? そんな事、広めてんのは。

 空晴すばるとの今の関係は、1話ですでに明かしてんでしょ? 勝手に都合良く解釈しないでくれる?

 言っとくけど、他の二人はともかく、うちは二次創作とかウェルカムじゃな……。

 


 って、そうだった!!

 舞桜まおちゃん、ヤッシーの事、好きだったの!?

 てか、あのイケメン、ヤッシーだったのっ!?

 うちの担任してる時とまったく違わない!?

 てか、舞桜まおちゃんとカヅにぃ、何してくれちゃってんのぉっ!?

 いぞ、もっとやれ、そのまま行くとこまで行っちゃえ!

 ていうか、あそこで終わらすの、ずるぎじゃない!

  据え膳ってか生殺しってか、そんな感じにもほどが有んでしょがぁ!!

 え、すごい、どこまで行っちゃうのぉぉぉ!?



「……あんた何、百面相してるんだ?」

  などと一人で盛り上がっていると隣からツッコまれたので、これくらいにしよう。

 そう思い、うちは咳払いした。



 えと、何の話だっけ?

 ……そうだ。本が有る所は、二種類の魔物を引き寄せるって話だ。

 一種類はアダルト、もう一種類はBL。

 ちなみに他にもGLってのも居るけど、そっちはBLと違ってそこまでジャンルとして確立されてなくて、まだ世間の風当たりも冷たいし、個別にGLで埋め尽くされた棚が作られてるわけでもないし、購買層もそんなに目立たないし、うちにはよく分からないから、今回は除外しとく。

 てか、改めて考えると、最近はどっちかってーと、女尊男卑の傾向の方が強くない?

 ツイッターとか、ヒス気味のミサンドリストがウジャウジャるし。

 男性側は、さぞかし窮屈だろうなぁ。早く、もっと男性と女性が気軽に共存出来る社会になって欲しい。



 と、横道に逸れたので、そろそろ本題に戻ろう。  なぜうちが突然、こんな事を言い出したのかというと、うちるのが、何を隠そう、そのBLゾーンなのである。

 って言っても、BLがメインってだけで、探し易くするためか品数のためかは知らないが、レーベルが一緒なだけのファンタジーやNLなど、それ以外の物も混ざってはいるが。



「帰る」

「困る」

 いや、困ってんのうちだから! なんで新しく出来た友達、それも男と、休日にまで来るのが、本屋の耽美ゾーンなのよ!? 意味分かんないでしょ!?

 そもそも、待ち合わせが本屋って何よ花沢○かよ「まーきの♪」じゃないわよ花鳥かとりだってのぉ!



「……で?」

 散々、抗っても逃げられなかったので、仕方しかたく元の位置に戻り、見なくても不機嫌な様子ようすで尋ねる。

なんで、寄りに寄って、ここ?」



「俺の欲しい物が、主にこの列に有るから」

「あっそ。

『ここに本が有るから』とか、『ここって、本屋の事?』とか、詰まらない上に要領を得ない返答じゃなかったのは素直に好印象ね。あんたは話が早いから好きよ。

 それで? あんたの好きなジャンルってのは?

 ようは、あんたは腐男子かGBTのどれかだったって事?

 まぁ、仮にそうだとしてもなんだって話。

 少なくともうちは、うちの関係にはひびなんて入らないと断言出来るけど」

「ありがたいけど、そうじゃない。

 俺が好きなのは、こういうの」

「いや、サラッとフォローすんな、聞き流しなさいよ!

 かえって恥ずかしいでしょが!」

「女子って面倒だな」

「あんたも大概でしょぉ!?」

 などと軽く喧嘩しつつ、空晴すばるは本を手に取り、こっちに見せた。

 瞬間、納得した。こいつが、どういうジャンルが好きなのか、把握して。



「あー……そういう……」

「……変か?」

「別に。むしろ未開拓だったから、興味津々、意気揚々。

 オススメ、うちにも教えてくれる?」

「ん。てか、ポ○モン?」

本当ほんとうに鋭いわね。

 一々ネタ拾ってくれるの、大分好きよ」

 不安そうだった空晴すばるは、うちからの言葉を受け目を輝かせる。

 なんだ、ふふっ。年相応に可愛い所有るじゃん。



 などと思っていると、ふと、こちらの方を見ている誰かの視線を感じた。

 気配を追った先には、サングラスにテンガロンハットを被り、こちらにスマホを構えた、あからさまに怪しい人物。

 ……誰だ? あの、女の人。

「っ!?」

 と思ったら、目が合ったと同時に、駆け出して行方を眩ませた。

 え? 本格的に謎なんだけど? 一体全体、なんだっての?



夏葵なつき

 何となく気になって追おうとするも、空晴すばるに肩を捕まれ阻まれた。見ると彼は、いつにも増して真顔だった。

「人には誰だって、軽弾みに触れて欲しくない事が多かれ少なかれる。

 今のが、それ」

「は? 何それ?

 もしかして今の、あんたの知り合い?」

「……そんな所。

 えず、今は忘れてくれるか?

 今度、俺から注意しとく」

「まぁ……あんたが、そう言うなら」

 よく分からないが、ただならぬ雰囲気を覚え、言われた通りにした。

 こうして、この件は、まだ蟠りを残したまま保留となり。後日、思わぬ形で事件を起こした。





「何……これ……」

 休日明けの、登校日。

 月曜日特有の憂鬱を引き連れ教室に入ると、一同が息を呑み、うち、そして黒板へと、何度も視線を行ったり来たりさせているのを不審に思い、うちも黒板に目を向け、言葉を失った。



 そこには、幾つもの写真が貼ってあった。

 しかし、カットこそ違えど、写っているのは、うち空晴すばる

 そして、BLコーナーの札、及び本棚。

 つまり、これは……れっきとした、スキャンダルの証拠品というわけだ。



「っ!!」

 数秒、呆気に取られたあとうちは急いで写真を剥がし、無言でゴミ箱にち込み、全員を睨む。

 幸か不幸か、まだゆかり空晴すばるなかった。

「……誰? ねぇ、誰?

 誰が、こんな、小学生みたいな悪戯いたずらしたの?

 何のために? うちを陥れるため

  あの写真がなんだっての?

 その所為せいで、あんた達の誰かに迷惑かけた?」

 クラスメイト達は、揃って無言を貫いた。一様に、目を泳がせるだけ。

 あー……そっかぁ……。うちが今まで必死にコツコツ積み上げ、築き上げてたのって、この程度で簡単に壊れちゃうくらい、柔だったんだ。



「くっだんな……」

 一向に進展しない現状に怒りが込み上げ、八つ当たりなのを承知で机を蹴り飛ばす。

 予定だったのを、空晴すばるが止めてくれた。

 空晴すばるは、うちの足を戻し、冷静に、かすか、それでいて確かな苛立ちを見せつつ、げる。

夏葵なつき

 この件で、あんたに話がる。

 心当たりがるんだ」

 空晴すばるは、うちから余計な反論、反感を買わないまま、簡潔に趣旨だけ伝えてくれた。

 こういう時、こいつの大人っぽさが、本当ほんとうに頼もしいし、羨ましい。

 おかげで、こっちも多少、平静を取り戻せた。



「……分かった。聞かせて。

 ただ、その前に、ちょっと場所替えしたい。

 今だけは、ここにたくない」

「俺もだ。

 行こう」

 その後、うち空晴すばるが向かったのは、いつもの校舎裏。

 そこで空晴すばるは、うちすべてを教えてくれた。

 犯人が誰で、どういう意図を持っていて、こちらが何をすべきなのかの立案までしてくれた。



 空晴すばると友達になれて良かったと、今でも思う。

 だって、でなきゃうちは、親友の本音に、きっと一生、気付けなかったから。

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