2章 斜関距離 -side.N-
1
※
「だ〜か〜ら〜さぁ……何度、言わすん?
「はいはい、分かってる、分かってる♪
助けてくれてサンキューねー、
愛してるよ〜♪」
「はいはい、
……っ
などと思いつつ、隣の教室からやって来た子が帰るのを見送る。
「
この前の
「ちょっと重い。長い。くどい。本題に入らなさ
ただ、他は充分、合格点。
ハートぶつけたいなら極力、自分の言葉で伝えなきゃだし」
「
もう、
「あんたの彼氏って、4組の工藤でしょ?
昨日、本人に問い質したけど、
でも、それであんたを巻き込みたくないし、男として彼氏として、意地でも決めたい、心配かけたくないから隠してるって真相。
今日にでもきっちり清算するらしいから、キツいだろうけど、も少し耐えな?
まだ煮え切らない
「
今日、
いつもの、お願い出来る!?」
「はいはい。
ミラー·ボール付きの団体部屋の予約でしょ?
機種はLSS、コースはイタリアン、ポテトと唐揚げの食べ
了解。セッティング出来る
てか、あんた今月、ハピバだよね。おめでと。
だったら、サービス組めるじゃん。あんた、お祝い
大好物のチーズ·ケーキ、頼んどく」
「頼む、
彼女が今日にでも俺とアイアントマン観たいってんだけど、俺、あのシリーズ未経験でさ!
「あいよ。
あと、
その条件が呑めるなら、三時間目の前までには纏める。
あと、可能なら全部マラソンしてから、レンタル開始してからでも構わないから、もっかい観な。
その方が楽しめるし、あれは何度観ても面白いから」
とまぁ、こんな調子で次々と、またしてもドバッと、
いや、あの、別に
「相変わらず、好かれてるわねぇ。
いつの間にか教室に入って来ていた、このクラスの最高カースト、
彼女の
「あんたに言われたくないわよ、
それに、
「先行投資みたいな物。……でしょ?」
相変わらず、スキンシップが多いなぁ、
「……そうだけど」
おい、こら、
確かに豊満だし柔らかいけど(彼女が
「ほら。依頼は一旦、終わり。
このままじゃ
相談なら、私で良ければ、微力ながら乗るから。
ね?」
こういう時、
でないと
クラス中の生徒の注目を
外見や成績は優れてるのに、依然として、周囲に溶け込まない男子だ。
あの無表情の裏で一体、何を考えているのやら。
「
手、止まってるわよ」
「おっと」
※
「先行投資」
昼休み。
次いで、自分の体が黒い大きな影に覆われ、その意味でもギョッとした。
「ひっ!?」
思わず我に帰る。
見上げた先に
……えぇっと……。
「そうだっ!
思い出した
その間、
いや、改めて見ると
完全に体育会系じゃん。まぁ本人は、ずーっと本読んでるから文学系なんだろうけど。
「……
「……」
って、今度はシカト!?
「何?
言いたい
「いや……性格。
ちょっとキツくなってっけど、
裏では、筋金入りのナルシストだったりするのかと」
……意外と周囲を見てんな、こいつ。
確かに、クラスメイトの前に立った
どっちかってーと今、
しっかしまぁ……よもや、今まで
と、
「ふーん。
もしかして、それを確認する為に
「いや……少し、違う」
いつも通りの、ボーッとした細い目で眺めつつ、
「先行投資。あんた
どういう意味なのか、ちょっと気になってた。 で、昼飯食べ終えて眠くなったんで、こっちで少し休んでようとしたら、あんた見付けて。んで、声かけた。
そんだけ」
「いや、結構、衝動的だったんかい!?
自由人か!?」
つい、ツッコんじゃったじゃないのよ!
などと思って、時間差で
そういえば、エスカレーター制だった事で
だから、
「驚かせたのなら、謝る。
悪かった」
なんか、もー……そういうの、
「……大して面白くない上に、長いわよ? それでも、聞く?」
それを肯定と取った
次いで
「
「……え゛」
「ち、違うっ。そっちじゃない。元口癖。
あー、もー、そんな申し訳なさそうな顔すんな、調子狂う……」
こいつ意外と表情、豊かだったんだな……。
いや……デフォで仏頂面な分、変わった時は余計、映えるというか……。
「話、戻すわよ。
で、プレゼントしてくれる時に、父親が決まって言うの。
『これは、先行投資みたいな物。大人になったら、その分、どんな形でも、
「……
「まぁ、ね。ただ、
おまけに、二年前から内の姉もダブルで家を出た物だから余計、ショック中。
お
で、本題なんだけど」
目の前には木々しか立ってないとはいえ、スカートを気にしつつ体育座りの状態で、昔(っても、そこまで経ってもないんだけど)を懐かしみながら、
「誰かを助けられると、その誰かが困ってる時、今度は逆に助けたくなったりするでしょ?
それが、
末っ子として産まれ、5つ上の姉に甘えながら生きて来たから
実際、宿題の答え教えてくれたり、リアタイで何か頼んでる
体操着やスプレー、辞書や教科書やワークや資料集を忘れた時に貸してくれたり、バイトが入ってる時に掃除や日直を代わってくれる。
分かるでしょ? 持ちつ持たれつ、ギブ&テイクでWin-Winなの。
だから日頃から、
いつどこで誰に何が起こるか分からないから、いざって時にも、そうでもない時でも、
分かった?」
「
さては今まで相当、溜め込んでたな?」
「残念、不正解。
リアルでも小説でも、小出しにしてばっかで不必要に伸ばすのが嫌いなだけ。
で? 理解出来たの、出来なかったの、どっち? 出来たのなら、さっさと帰ってくんない?
あと、
あ、でも、
あんた、ボディー·ガードに打って付けだもん、媚を売ってて損は無い」
「前の学校で良く言われたよ。ここまでストレートじゃなかったけどな」
いや、冗談の
などと心の中でツッコんでると、
「まぁ……あんたの主張は理解した。
でもあいつ
多分、照れ隠しとかだと勘違いしてるぞ?」
「それな。
ホンッッッッットに、もぉ……
別に
だから、始末に負えないってーかさぁ……」
……改めて立ち返ってみると、
上手く言えないけど、こいつ、妙に柔らかいオーラ有るんだよなぁ。
いや……もしかしたら、まだ気心を知るには一緒に過ごした時間が短過ぎるこいつだからこそ、打ち明けられるのかもしれない。
もしくは、
「……俺が思うに。
あんた、そこまで無理する必要、無くないか?
あいつ
別に、そういうのをする事自体が好きな
いくら
このままじゃ、あんた、脳なり体なり精神なりスケジュールなり、パンクしちまうぞ?」
「……?」
そう
え、待って? ……もしかして、こいつ……。
「あんた……
それを伝える
じゃあ
「……
それが?」
給食という、合同で食事する縛りから抜け出した高校生にとって、昼休みがどれだけの希望、魅力に満ちているか。
それは、実際に高校生活を送った者なら誰しもが、筆舌に尽くし
その貴重な時間を、この男は、自他共に認める
ここまで信頼を置けそうな人間は、家族(というか
それも、小学校の頃からこれまでの
「ぷっ……。……ははっ……。あははははははははっ!!」
我ながらチョロいなぁとか、こいつ天然ジゴロかよとか、そんな事を思っていたら、
クラスメイトに見られたら、ちょっと引かれそうなレベルで。
「……もしかして、俺……
「違う、違う……。
ごめん、でも、ちょっと待って……。
事情を飲み込めず困惑している
「名前」
そして、涙まで流していた事に
「あんたの名前、教えてよ。
「……知らないのか?
一週間も一緒の教室に
「だって、てんで興味無かったんだもの。
あとあんた、普段は近寄るなオーラ出してるし。
今は、そうでもないけど」
「別に、そんなんじゃない。
ただ、基本的に、一人でいるのが好きなだけっつーか、性に合ってるだけだ。
それと、こっちから親しくなる方法が分からないだけだ」
「ふーん……それなのに
「言ったろ? 『基本的に』だ。
例外も有る」
「それもそっか。
まぁ、そこら辺の事情は置いといて。誇りに思いなよ?
「
カヅ
「あー、5つ上の姉。
で、カヅ
今度、紹介する。何たって、今日から
「
「そっ。
じゃあ、
謂わば、マジ最強のズッ友。
だから
その方が、こっちも
「
「ちょいちょい思ってたけど、あんた、オタクでしょ? 今のもだけど所々に、それを感じさせる所が有る」
「類友だろ」
話が脱線したが、
こうして、この日から
「あ。でも
やっぱ、保険はかけときたいし。
もう少し
「……
あんた、趣旨まるで分かってないだろ……」
「いや、意外と順応性、高いのね、あんた!?」
「……
「はいはい、分かりました、分かりましたぁ!
善処しますぅ!」
「どんな風に?」
「最大限、減らせる
どうよ、それで満足でしょぉ!?」
「……ビクト○ームの手紙でも大量に来たのか?」
「思った! てか、意識してた!」
「あ。そういえば、そろそろ昼飯って
「マイ·ペースか! さっさと食べろ!」
「あと、もう一つ。ずっとあんたの事、頭パッパラパーなパリピだと思ってた。
存外、
「い、いやぁ……
失礼極まりないんですけどぉ!?
校舎裏来いやぁ!!」
「もう来てる」
最後は、ちょっと締まらなかったけど。
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