第5話 深い水の中で
「書けないっ……!」
青chの作品も七作品目まで上り詰めた。
このときの私は中学一年生。
なるだけ前作と内容が被らないようにとするほど行き詰っていく。
どうしよう。
「新土曜ドラマどろけい、今夜十時放送スタート!」
流しっぱのテレビからは同じようなCMばかりが繰り返し流れている。
青chが乗り遅れるわけにはいかないのに。
このまま青chが終わってしまったらという不安が募る。
あんなにわくわくして始めたのに、もうわくわくしない。
なんだか義務感だけで続いているような気がして。
違う。そうじゃない。そうじゃない。
わくわくして楽しくて、ちっちゃい頃の夢がうんと詰まっていて。
なのに今はそんな気持ちが微塵もないことに気づいた。
このままやめてしまうほかないのか――。
「何でこんなのも出来ないの!そのせいで負けたの。ちゃんとしてよね。」
そのころ学校生活も上手くいかなくなった。
中学生になり心機一転何か頑張ろうと思い立ち、ソフトテニス部に入った四月。
初心者だった私を含めた七人の新入部員も優しい先輩たちに手取り足取り教えてもらってなんとか、試合にも出られるようになっていった七月。
でも組んだ相方が最悪だった。
中学になって友達芽衣の紹介で知り合ったゆかり。
出会って早々ゆかりにつけられたあだ名は人間製造ミンチ。
ちょっとした冗談だろうからといやだという気持ちを我慢していた。
相方になってもそんな扱いは変わらず試合に負ければ責め立てられ、機嫌が悪ければ怒る。
そしてあの発言。あれは他校との合同練習に遠征した時だった。
向こうに非があっても私のせいにして当たってくることもしばしばだったから慣れたことではあった。
でもこの日はその一言じゃすまなかった。いつもはいる厳しい顧問の先生がいなかったのがあったからかもしれない。
物凄い剣幕で私に畳みかけてくる。
「いつも思ってるんだけどなんでそんなトロいの?もっと動いてくれないと取れるわけないじゃん。そんなんだから勝てないんだよ。下手くそ。」
慣れてるはずだった。
でも、耐えられなくて、耐えられなくて。
涙が、涙が、とめどなく溢れてくる。息の仕方が分からない。
息を求めて、求めるほどに苦しくなってくる。
まるで深い深い水の中に無理やり沈められているようだった。
その日の寝る前、まだ空白のノートと向き合っていた。
そこには過去放送した青ch歴代ドラマが記録してある。
今季の分がまだ何も思いつかない。
一応アイデアメモはある――刑事が恋する話、刑事が事件解決に奔走する話――でもどれもありきたりでわくわくしない。
「次週、第六話乞うご期待!」
毎週見ているドラマもいよいよ佳境を迎えようとしている。
なのに、まだ空白だなんて……。
その次の日、学校を休みたかったが、親は簡単に休ませてくれる人じゃなかった。
部活動の顧問も厳しい人だったから休みを切り出しにくくて。
重い腰を上げながらなんとか毎日、部活に行った。
だが、この仲は先輩たちのいない大会でさらに溝を深めていく。
「じゃあ、試合が始まるまでまだだしみんなでラリーしない?」
準備運動を終えてひと休憩取っているとき芽衣が切り出す。
私も当然のように賛成する。そして残りのみんなも賛成したかのように思えた。
「ごめん。ちょっと私たち体調悪いから日陰で休んでるね。」
それに賛同しない部員が現れた。いつも二人でいる仲良しツインズだ。
なんだか理由がそれだけじゃないように思えてしまうのは私の性格が悪いからか。
「それ本当?何でやる気ないの。やる気ないんだったら来なきゃいいのに。」
いやそうじゃない。ゆかりも同じことを思っていたらしい。
それにしてもその言い方は強すぎる。
もう少し言い方ってものがあると思うのだが。
「ねえゆか、流石に今のは言い過ぎじゃない。そこまで言わなくても……」
芽衣が優しい口調でゆかりを諭しにかかる。
「え、あいつらの方が正しいっていうの?さっぼってる方が?」
「あ、だからそういう問題じゃなくて……なんて言ったらいいかな。言い方ってものがあるよねって。」
「え、正直に言っただけだけど。それの何が悪いの?」
芽衣とゆかりの怖い雰囲気漂うは会話がどんどんヒートアップしていく。
「ね……取り敢えず今できるメンバーだけでラリーしない……?」
「うん。そうだね、ラリーしよう。」
私が恐る恐る切り出した話に芽衣はついてきてくれて、ツインズを除く人たちでラリーをすることになった。
人数は五人と奇数だからペアを組むと一人あまる。
でもここにいるのは四人。
「ねぇ、ゆか知らない?いないんだけど。」
「あぁゆかならあそこで不貞腐れてる。ほっとこう。」
相棒だからいてもらわなくちゃ困るのに、ゆかりは離れた緑の壁で一人で壁打ちをしていた。
ツインズが合流してもずっと一人不貞腐れて。
部活動費で買ったボールを壁と同じ色に染めるくらいに。
でも各々でも練習を頑張ったからかだろうか、その大会でチームとして初めての予選一位通過を果たすことできた。
嬉しいはずなのにチームとしての雰囲気はどんより重くて最悪で楽しくなかった。
そしてその日、ゆかりは話も文句も何も言わなかった。ただ一人ぼやくだけ。
そして次の日の部活でも、その次の日の部活でもずっと。
誰とも口を利かなくなって。
ペアを組んでいる私としては気まずすぎる他なかったのだが、色々言われていたころよりはましだ。
ましだけど……。
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