第24話 ルークside夢か真か

朝ひどい頭痛で目を覚まして、執事の入れてくれた濃い目の紅茶を飲みながら、私は一人物思いにふけっていた。昨夜はいい夢を見た気がする。会いたかったあの青年の夢。


なぜか彼はこの城に居て、階段下でコソコソ花台の周囲をグルグル回っていたんだ。最初は誰なのか分からなくて、泥棒なのかと後ろからこっそり近づいたら彼だった。



彼は何も言わずに、急に私に唇を押し当ててきた。酷く生々しいあの感触。彼の口の中はひどく甘かった。本当に夢だったんだろうか。私は階段を上がっていく彼の姿をぼんやりと見上げていた。


それから彼の姿を追うように、フラつく身体を手摺で支えながら部屋へと戻ったんだ。いや、夢の中まで酔っ払っているとか、変な話だ。まさか…。



「ルーク様、こちらに酔い覚ましの薬草香を用意させて頂きました。どうぞ。マイケル様にも同じ物を用意させております。」


いつもの様に痒い所に手が届く気配りの執事長に、こう甲斐甲斐しく世話を焼かれると、それはそれで深酒を責められている気がしてしまう。私は咳払いして、さっき考えたことを尋ねてみた。


「昨日の夜、誰かこの屋敷に客人が居たかな?いや、マイケル以外にと言う意味だが。」




執事長は一瞬眉を顰め、何か言いたげな顔をしたけれど、反対に私に尋ねてきた。


「…どなたかにお会いしましたか?」


私は執事が何か知っていると踏んで、もう一度尋ねた。


「いや、夜中にマイケルと談話室で別れて、私はお手洗いに寄って部屋に戻ったんだが…、階段横の花台のところに青年が居た気がして。ただ、私も酔っていたのでね、現実だったのか、夢だったのか分からないんだよ。実際、夜中に見も知らぬ青年が居たとかあり得ないだろう?この城の管理は厳重だ。勝手に他人が入ってはこれないだろう?」



すると、執事はひどく深刻そうな顔をして、私に言った。


「実はまだはっきりしませんので、ここだけの話にして欲しいのですが、今朝召使いの一人が妙な事を言うのです。テラスからの足跡が室内に向かってついていたと。


テラスの鍵は中からしか開けられませんし、テラスの鍵が空いていたので、召使いは、ルーク様かマイケル様がふざけて夜中にお出になられたのだと思い込んで、直ぐに足跡を拭って綺麗にした様です。しかし、よく考えたら裸足の足跡で、しかも土の汚れだったそうなのです。ルーク様たちが裸足で外に出る事など無いのではと、心配になった召使いが私に報告して来ました。」



私は慌てて言った。


「確かに私は昨日深酒したが、ずっとマイケルと談話室にいて、カードゲームに興じていたんだ。決してテラスの外になど出ては居ないよ。」


そこまで言って、私はハッとした。そして執事の顔を見て言った。


「私は夢かと思っていたが…。部屋に戻ろうとした時に、一人の若い青年、随分若く見える綺麗な青年にバッタリ会ったあれが本物だとすると、城に忍び込んだ侵入者なのか?」



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