第17話 ガブリエルside僕の可愛い相棒
ジュニが城に来てから、僕は毎日が楽しくて堪らなかった。8歳からの初等学院入学前である僕は、時々母上とお茶会に参加して友人と会って遊ぶ他は、決まり切った事しかやることが無かった。家庭教師と勉強をしたり、城の敷地で召使いたちと遊んだり、やっぱり母上と王都へと出掛けたり。
年の離れた兄上のルークは、僕に優しくしてくれる兄弟だけど、遊び相手にはならなかった。父上は王宮騎士団所属なので、きっと兄上も高等学院卒業の今年、そこに所属する事になるんだろう。マケロン伯爵家は代々そうなのだから。
以前から強請っていた、僕のペットがジュニに決まった時、どんなに嬉しかったか分からない。城にはビショップが居るけれど、あの犬は兄上のペットだ。僕の部屋で一緒に眠るペットが欲しかったんだ。
ジュニは賢くて、可愛くて、とても元気で、僕の相棒にピッタリだった。そんなジュニと広い庭の敷地で遊ぶのは、勉強の合間の良い気分転換になった。
噴水に投げ込んだコインを同じ種類に分けた時には本当にびっくりして、城中の人間がそれを見ようと噴水にコインを投げ込んだものだった。しかもジュニが何故か安いコインばかり投げ返すので、僕たちは笑いが止まらなかったよ。
今日もビショップを連れて、ジュニと最近お気に入りの、庭の奥にある小川の小屋へ遊びに行ったんだ。ビショップとジュニのふざけて楽しげな様子は、思わず皆で声を上げて笑ってしまった。僕の投げる木のボールを競走して取りに行くのも可愛かった。
ボールが流されて、一緒に二頭が敷地の境界へ行ってしまい、僕が戻ってくる様に呼びかけたその時に、事件は起きた。何か長いものが飛び出してきたと思ったら、ジュニの聞いたことの無い、耳をつん裂く様な鳴き声が空気を切り裂いた。
同時にビショップのけたたましい吠え声が止まらなかった。僕たちは何かが起きたのだと、慌てて小川の縁を走った。僕たちがビショップの吠えている所にたどり着いた時には、ジュニの姿は見えなくて、ビショップの吠えている向こう岸近くの水底に、ジュニが何かに巻き付かれて沈んでいるのが見えた。
ケインが慌てて向こう岸へと、橋を渡りに走っていくのを感じながら、僕たちはジュニがどうにかしてしまったのかと息を殺して見つめることしか出来なかった。すると突然ジュニが浮かび上がって来て、ズルズルと大きな蛇を向こう岸へと引き摺り上げた。
それから背を向けて、何か熱心に聞いたことのない音を立て始めた。まさか、食べてる?怯えた様なビショップの声にハッとした様に身体を向けたジュニは、口の周りと可愛い手を真っ赤にしながら蛇の首を噛みちぎっていた。
僕がジュニに話しかけると、ジュニは急に口から蛇をボタリと地面に落とすと、川の水で手や口を洗い出した。それは何だか可愛い仕草なのに、血みどろで、僕もどう感じて良いか分からなかった。
ケインがジュニの側に走り寄る頃には、ジュニはふらりと草の上に倒れてしまった。よく見たら蛇に咬まれたのか肩から血が滲んでいる様だった。僕たちが橋まで対岸を走ってジュニを抱き抱えたケインの所に辿り着くと、キューと呻きながらジュニは目を閉じてしまった。
ああ、可愛いジュニが蛇と闘って怪我をしてしまった!けれど、ジュニはあんなに大きな蛇に勝ったんだ。僕はちょっとだけジュニの事が怖いと思った気持ちも薄れて、誇らしい気持ちでケインの腕の中のジュニを撫でながら、急ぎ城へと戻った。
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