第16話 死闘
薮の中から僕に飛び掛かってきたのは、大きな蛇だった。多分領地の境界に生えていた木から、僕目掛けて降ってきたんだろう。凄じい勢いで吠えるビショップと、何事かと慌ててこちらへ向かってくるガブリエルたちの慌ただしい足音がきこえてくる。
けれども僕は口を大きく開けた蛇に左腕を噛まれてしまっていた。ジュッと熱い焼きごてを押し付けられた様な痛みが尻尾の先まで走って、僕は出したことのない断末魔を上げていた。
『イタッ!こいつ!離せって!』
僕は体に巻きつく蛇の、ロープの様な縛りを感じながら、僕にこんな縛られる様な性癖は無さそうだと、どうでも良いことを思ってしまった。パニックになると全然関係ない事が頭をよぎるものだ。
この世界の蛇は、いつも僕を狙ってくる。僕が取り立てて小さいわけじゃ無いのに、滝壺でもやっぱり僕は狙われた。
その時は、咄嗟に僕が人間に変身して撃退したんだけど、さすがここで変身は出来ない。僕は空いた手で目の前の蛇の首元を抱えて尖った歯を突き立てると、グイっと水に潜った。
僕の潜水時間と、このクソ野郎蛇の息の根の、どちらが長く続くかがこの死闘の鍵だった。僕はアドレナリンが出ていたんだろう、バタバタとうごめく蛇の苦しみのダンスを感じながらも、ギリギリまで水底に潜った。
蛇の動きが無くなったのと同時に、身体から蛇が剥がれたのを感じて、僕はプカリと水上へ顔を突き出した。口に感じる蛇の血が生温かくて、僕はそのまま皆とは反対側の岸に登ると、無意識に蛇をむさぼり食っていた。
『…ジュニたん?』
怯えた様なビショップの戸惑いを含む声と、妙に静かな反対側の岸からの皆の視線を感じて、蛇を齧ったまま振り向いた。
「ジュニ!大丈夫!?…だいじょぶ…そう?それ、美味しいの…?」
そう眉を顰めたガブリエルと、同じく怖々と僕を見る召使い、畏怖の表情で僕を見つめるビショップが、そこにはいた。僕はハッとして、口から蛇をボトリと地面に落とすと、何事もない様に振る舞おうとした。
けれども口から垂れる野生味溢れる血の味を感じて、慌てて水路で手と口元を洗った。丁度そこにケインが、橋を渡って僕を回収しに来てくれた。途端に僕のアドレナリンは引っ込んで、腕がズキズキと痛み出した。
僕は少し大袈裟に腕に手を当てて崩れ落ちると、弱々しげに呻いた。ケインがそっと僕を抱き上げてくれると、僕は皆の視線を感じながらも、存外ホッとしてケインのぶっとい腕の中で脱力した。
皆と合流した時には、ガブリエルの僕を見つめる目がいつもの様に優しくなっていて、ホッとしたせいか、優しく撫でられるうちに僕はうとうとして目を閉じて、睡魔に引き込まれていった。
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