第13話 この際誰でもいいよ

ご機嫌なケインと一緒に城に帰って来た僕は、欠伸を噛み殺しつつ、建物の脇を通って部屋に戻ろうとテラスに辿り着いた。テラスのドアノブを押した僕は、手に伝わる感触にガックリと肩を落とした。


「マジか…。締め出されてる。」


きっと夜番の執事が見回りの際、空いていた鍵を閉めてしまったんだろう。僕は周囲を見回したけれど、流石に伯爵家は人間の侵入を阻止している。人間は。僕は早々に諦めて、服を丁寧に畳んで植込みの中に隠すと、真っ裸でテラスの先の窓へと近づいた。


こんな事もあろうかと、カワウソの僕なら通れそうな換気窓が何箇所か開いているのを確認済みだった。僕はそこの窓枠に捕まるとカワウソに変身して、四苦八苦して枠に登ると城の中を覗き見た。…案外高さがあるな。カワウソは水の中は得意だけど、高いところからジャンプして降りるとか苦手なんだよね。



太い窓枠にしがみついて、飛び降りる決心がつかないでいると誰かがこちらにやって来る気配がした。僕は飛び降りて骨折するより、詮索されても誰かに抱き抱えられる方がマシだと判断して、『ねぇ!ちょっと!』と呼び寄せた。


人気のない夜の城の中に僕の超音波声は妙に響いて、コツコツと近づく足音も速くなった。すると目の前にガブリエルのお兄ちゃんが現れた。やべ。さっき酒場で待ち伏せられて逃げてきたのに、結局ここで出くわしちゃったじゃん。



顔を強張らせた僕だけど、カワウソ顔ではそこまで違いは無かったみたいで、お兄ちゃんのルークは僕に用心深く近づいてきて言った。


「…なんで、ここにコレが居るんだ?しかもこんな時間に。」


僕はもう見つかってしまったので、この際ルークお兄ちゃんだろうが、誰だろうが構わなかった。なんせ、窓枠にしがみつくのも限界がきていたからだ。僕は片手で窓枠に捕まって、片手をルークお兄ちゃんに伸ばして助けを求めた。



戸惑いながらも、ルークお兄ちゃんは僕の脇を両手で抱え上げて、そっと床に下ろした。僕は首を傾げてルークお兄ちゃんを見上げた。


『おい、何で下ろすんだよ。抱っこしていけっての。僕は自慢じゃないけど酔っ払いだし、眠いんだぞ?』


そう訴えて足元にしがみついたお陰か、僕は見事ルークお坊ちゃんの腕の中に戻った。そうそう、よくやったぞ、ルーク。僕はルークの呆れた顔をちろりと見ると、抱き抱えられた腕をペチペチと叩いて労うと、あくびをしてそのまま寄り掛かった。


そしてウトウトしている間に、見事自分のベッドに戻される事に成功した。…ミッションコンプリートォ。

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