第12話 ルークside目立つ客

「おい、見ろよ。凄い可愛い子だ。」


そう仲間が示す方を見ると、注目を浴びる青年が一人カウンターに近づいていく。確かに顔だけ見ると、女か男か判断がつかない風貌をしていて、サラリとした髪は良い匂いがしそうだ。


品のある着こなしはこざっぱりとしていて、ぱっと見貴族令息にも見える。しかしどう見ても未成年だろう?私は眉を顰めると周囲を見渡して、保護者らしき人物を探した。



「ひとりで来ているみたいだが…。大丈夫なのか?」


そう感じるのは私たちばかりではない様で、店の常連やむさ苦しい男たちまでヒソヒソと青年の動向を伺っていた。青年は周囲を物珍しげに見回すと、店の主人に物おじせずに話しかけていた。


流石に主人も無条件に酒を出すことはせずに何か話していたが、諦めた様に軽い酒を出していたところを見ると、未成年ではないのだろう。



すると突然青年は、カウンター席から後ろを振り返って、驚く様なことを言ったんだ。


『誰か、僕と飲みたい人いる?』


酒場の男たちは、まぁこんな時間に飲んでいるまともな女は居ないせいもあって、皆してテンションが上がって盛り上がったのは仕方がないと言えた。そこら辺の女より可愛くて人懐っこい若い男が、一緒に飲もうと誘うのだから。



私たちは一応貴族令息なので、店の主人が気を利かせて案内してくれた半個室で飲んでいたけれど、あそこで飲んでいたら、もしかして彼と話が出来たのではないかと、皆の顔が同じことを考えている様だった。


青年は大きな目を好奇心で光らせて、男どものどうでも良い話を楽しげに聞いていた。それは普段クダを巻いている酔っ払いたちのプライドをくすぐった様で、皆して自分のとっておきの話を持ち出す始末だった。それは特別に楽しい夜の始まりだった。



青年は何度も酔っ払い達と乾杯する割には全然酔わなくて、次々に落ちていく周囲の酔っ払い達を面白そうに見つめていた。ふと顔を上げた青年は急にこちらを見てきた。私は彼の黒目がちな瞳とバチリと目が合ってしまった。


それは何だか経験のない感覚を巻き起こした。私は彼を知っている?いや、初めて会ったはずだ。彼はふいと目を逸らすと立ち上がって、カウンターで店の主人と話をしていた。トイレに行って、そのまま帰るかもしれない。私は妙に焦って仲間に言った。



「彼に声を掛けよう。今夜は無理でも、今度一緒に飲めるかもしれない。」


そして私たちは酒場の裏口から出てくるはずの彼を待っていたのだけれど、結局彼はいつの間にか正面口から帰ってしまったみたいだった。


今夜一番の楽しみに参加できなかった事実を前に、私たちはやっぱり店の中で声を掛けるべきだったと、皆して肩を落として、物悲しい気持ちでそれぞれ帰路に立った。


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