第10話 酒場の主人side場違いな客

俺は仕事柄、初めての客でも一目見れば大概のことは分かるのが自慢だった。今夜も楽しく酔いたい新規の商人風の客が数人、自慢の酒を楽しんでいた。俺は楽しく飲む客は大歓迎なので、彼らがいい子にしていたら、一杯くらい奢ってやってもいいと思って見ていた。


賑やかな店の騒めきの中、チリンと店の扉の音と共に、誰かが顔を見せた。いや、見えねぇ。丁度扉付近に大男の常連客が居座っているせいで、姿が見えなかった。



入り口へと視線を送る客が多いことに気がついて、俺は初めての客か、面倒な奴が来たのかと眉を顰めた。すると、姿を見せたのは、こんな場末の酒場には似つかわしく無い風情の若者だった。


おいおい、まじか。未成年じゃないのか?一体保護者は何処なんだ。そう頭の中で呟くほど、どう見繕っても16歳以上に見えない若者は、周囲をキョロキョロ楽しげに見回すと、真っ直ぐ俺の所へやって来た。



「オヤジ、酒を一杯くれ。軽めのやつ。」


近くで見ると、ギョッとするくらい整った顔の黒目がちの瞳をした若者は、身綺麗な姿勢の良い身体をカウンターに寄り掛からせて、生意気な物言いをした。俺は眉を持ち上げて、グラスを磨きながら尋ねた。


「…見かけない顔だな。それより、俺はお前に酒を飲ませても大丈夫なんだろうな?王都は16歳未満に酒を飲ませたら罰が下るんだ。俺はそんなのに巻き込まれたくねぇからな。」



そう言うと、目の前の若者は、花が綻ぶ様な明るい笑顔で言った。


「はは。今夜は二度目だ。僕そんなに若く見えるのかな?18だって言うのに。」


そう言うと、隣の客が飲んでいる赤い酒と同じものをくれと、コインを数枚胸元から取り出した。俺はため息をついて、30ククルを受け取って釣りを置くと、店で一番軽い酒を出した。



「赤い酒はお前の様な若造には強過ぎる。これなら軽いから、歩いて帰れるだろう?」


そう言うと、その若者は俺にウインクして、それからお釣りのコインを数えて胸に仕舞うと、隣の赤い酒の側に置いてあるコインを眺めた。黒い長いまつ毛が大きめの黒い瞳をかたどっていて、艶のある焦茶色の長めの髪がうなじを撫でていた。


女の子と言われても信じられるその柔らかな面差しは、周囲の視線を惹きつけていた。俺は酒を渡しながら顔を寄せて、その若者に言った。



「お前、誰か知り合い居ないのか?誰かと一緒に居ないと不味い気がするぞ。」


すると、青年は少し考えてから一気に酒を飲み干すと、後ろを向いて予想もしないことを大声で言い放った。


「誰か、僕と飲みたい人いる?」


俺はアタタタと頭を抱えてしまった。まさか自分から狼の群れに飛び込むとか思わなかったぞ?








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